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緊急事態のその後

◎恋人もいないが友人も少ない。

 結婚して子どもができると、友人との時間を作ることも難しい。女性は特に顕著で、大人になると本当に会えなくなる。物理的に時間のやりくりが難しいし、家族のことが気になって気分的にもゆっくりしていられないのだ。家庭を一旦置いておいて、仕事に没頭したり浮気したりできるのは男性性の表象で、こういう女性はセクシーでも「男らしい」と感じる。
 わたしは同級生より早く育児を始めたので友人たちと会えない期間が長い。「あの子はどうしているかな…」などと思うものの、忽ち日々の雑務に埋もれてしまい連絡を取るに至らない。そうして、何年も過ぎていくうちに「果たしてわたしはあの子の友だちと言えるのか」という思いが芽生え、余計に連絡する気が失せる。今、わたしが自信を持って友人と呼べるのは、向こうから連絡をくれるマメさと優しさを持った人物ばかりだ。

 また、わたしには特定のパートナーがいないので、男性の友人を誘うのも遠慮してしまう。友人の奥さんや彼女の立場に立つとよく分かる。美人でもなくブスでもない、性格悪そうでもなく良さそうでもない、おしゃれでもなくダサくもない、知的でもなくバカそうでもない、わたしくらいの女こそ何だか憎たらしい。そして、世の中には男女の友情を信じない人が意外と多い。

 わたしが、友人と親密でなかった理由は他にもある。元々ひとりでいるのが好きなことと、母が親友っぽいことだ。

◎持て余す。

 ついこの間まで仕事に追われていたのにやることがほぼなくなって、先ず考えたことは、この有り余る時間と健康な肉体を誰かの役に立てられないかということだった。本当はアルバイトをして収入を得たかったが、社長や他の社員が社会や会社のことを考えて我慢している(ように見える)ときに、自分のことだけを考えて真っ先に副業の許可を申請するのは利己的過ぎる気がして二の足を踏んだ。
 わたしは区の社会福祉協議会で高齢者や小さなお子さんのいる家庭で家事を手伝うボランティアに登録した。しかし、こんなときに高齢者や乳幼児がいる家に他人を入れることは、当然、誰もしたがらないので声がかからない。募集のチラシはいっぱい積んであったんだけど…。

◎みんな、元気ですか?

 そして、小さい子どもがいる友人や、神経が細やかで繊細な友人が困っていないだろうかということを考えた。保育園から大学4年までの学校などに通えず1日中家ですごさなければいけない子どもがいたと仮定する。

・3食の準備が大変
・運動不足、肥満の懸念
・家に置いて仕事へ出かけるのが心配
・家にいながら在宅ワークに集中できない
・部活ができなくて(大会等が中止になって)かわいそう
・学校行事がなくなって残念
・受験生の学力が心配
・就活が進まず不憫

…などと、色々悩ましいはずだ。が、全ての学年の中で一番マシ(気楽)なのが、大1ではなかろうか。スーツを作ったのに入学式がなくなり、新しい友人にもまだ会えていない。しかし、そもそも受験を終えた大1は気楽なものだし、一般教養中心だからリモート授業でもある程度カヴァーできる。ウチの子は大1である。友人たちの子どものことが気になる。

◎わたしも元気です。

 わたしは友人たちに少しずつ連絡を取った。別に、困っていて助けて欲しいと言った友人はなかったが、皆それぞれの立場でこの奇妙な状況と対峙していた。それから、これまで自分のことに精一杯で周りを気遣う余裕もなかったのだなぁということを実感したのだった。心に余裕がなくて色々なことに気づけないのは仕方ない。仕方ないけどもったいない。わたしも大変だがみんなも大変だ。わたしも頑張っているがみんなも頑張っている。想像するのではなくて、知っている人との短い会話でそれを感じることは、少なくとも自分にとって意味があった。地元大好き!友達大切!マイルドヤンキーの我が弟ならば、そんなことはとっくに知っていたのであろう。かっこ悪い自分を見せたくないと思っていたら、人に会うのが億劫になるくらいいつもかっこ悪いわたしは皮肉にもこのピンチにあって気づくことができた。

 少しぐらいの便利や豊かさと引き換えにしてもいい。時間に余裕がある暮らしは人間らしい。そんな風に感じているのは、わたしだけだろうか。このまま、また、元の生活に戻るのが少し悲しくなっている。価値観がもっと具体的に多様化するきっかけになったらいいのにな。

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