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避暑地の出会い【ショートショート】

私が小学生の頃、箱根には父の会社の保養所があった。
私達家族は毎年夏冬の二回、そこを利用していた。
保養所は強羅にあった。
夏の強羅は、湿った土の匂いがしていた。岐阜にいるときでも、夏に湿った土の匂いがすると、強羅のことを思い出していた。

保養所には草の生えただけの庭があり、生け垣で囲われていた。生け垣を抜けて下に降りていくと、なんと、沢があった。ほとんど庭を小川が流れているような状態だ。その感じが好きで、よく、弟と共に降りていった。
また、生け垣の裏手には、ちょうど子供がくぐれるほどの穴があった。その穴をくぐると舗装された道に出た。
さすがに舗装された道を遠くまで歩いていくのは母に叱られそうな気がしたため、私達は一回りして保養所の表に出てくるだけにしていた。

その日はたまたま弟は連れず、一人で庭にいた。沢まで降りて満足し、登ってきて裏手の穴をくぐった時、いつもと違うことがあった。
金髪の女の子が立っていたのだ。その道で人と出会ったことがなかったので、驚いたのと、生垣をくぐってきたのが気まずかった。
女の子はすぐこちらに気づき、微笑んだ。
「ハロー、わたしエミリー」
「は、ハロー、私はみどり」
「エミリーとみどり、にてるね」
エミリーは、笑って言った。
私もつり込まれて笑ってしまった。
「ね、みどり、うちに遊びに来て?すごそこだから」
「え?でも、お母さんに言ってこなきゃいけないし…」
「すぐそこだから」
彼女の様子になんとなく気圧されて、私はついていった。
エミリーの家は、驚くほどすぐ近くにあった。いつも生垣の穴から出て左へ曲がるが、それを右へ行ったらすぐにあった。
私はその洋館の佇まいに緊張した。そういえばエミリーってお金持ちっぽいなあ。
「みどり、入って」
大きな木のドアを開くと玄関があって、その両側に階段がついていた。右手の階段を駆け上がりながら、エミリーが呼ぶ。呼ばれるままに私は彼女の部屋へ入っていった。
「うわぁ、すごい」
私のあこがれそのもののような部屋だった。天蓋付きのベッド、ライティングビューロー、人形の家もある。かわいい出窓とマントルピースまでついていた。
「座って」
エミリーが椅子に腰掛け、私はその隣に座った。
彼女はかわいい人形と素敵なお洋服をたくさん持っていて、着せ替え人形をして遊んだ。
人形の家も、少しだけ触らせてもらった。もっと遊んでいいよ、と言ってくれたが、それ以上触れたら壊しそうだったので、断った。
ふと時計を見ると、保養所の庭に出てから30分が経っていた。
「ごめん、私帰らなきゃ」
エミリーはとても残念そうで、明日も必ず来て!と言った。
今日一泊するし、明日も会う時間はあるだろうと、軽い気持ちで約束した。
急いで帰ってみると、母は全然心配していなかった。驚いたけれどほっとした。
次の日、朝ご飯を食べている時に、父が、今日は熱海へ寄るからご飯を食べたらすぐに出発する、と言った。
私はエミリーのことが気になったけれど、前の日のことも母に話してもいなかったので今更言うことができなかった。エミリーとの約束は守れなかった。

その翌年、保養所は老朽化に伴い取り壊された。
あの庭や沢はどうなってしまうんだろうと思うと、とても残念だった。
そしてエミリーがどうしているのかが、気がかりだった。
けれど、子供の自分にはどうしようもなかった。

あれから30年たって、私は箱根を訪れた。
本当はもっと早く訪れようと思ったが、地震が起こり、強羅のあたりは入れなくなっていたようだ。
幼い頃過ごした場所が被災するなんて、他人事とは思えず心配した。
エミリーは、あの洋館は、どうなっているだろう。
正直、エミリーは、もうあそこには住んでいないだろうと思っている。私がもうすぐ40になるのだから、エミリーだって同じくらいの年にはなっているだろう。結婚しているか、都会へ出て働いているだろう。
そもそも、あの洋館は、大人になって考えると、避暑の別荘だったのではないかと思っている。
夏の日差しの中歩く。やっぱり強羅は山の北側だからかひんやりしている。
確かこの辺だったはず…あった、あの保養所はここにあったのだ。
庭の草は荒れ放題だった。崩れかかっていたが、生け垣はあった。私はなんとなくここを通って洋館を探したくて、草の中へ入っていった。
丈の高い草はからみつき、小虫がぶんぶんまとわりついてきた。
草を避けながら行くと、裏手の生け垣を見つけた。もう穴は見つからなかったから、なんとかすり抜けられる場所を探し、舗装された道へ降り立った。
草だらけになったスカートを払いながら洋館のほうへ歩く。
すると前から金髪の女性が歩いてくる。
「…エミリー?」
「え?どちらさま…」
流暢な日本語で尋ね返される。
「みどり。覚えてる?」
一瞬考えた後、エミリーは思い出してくれた。そして昔のように微笑んだ。
「懐かしいわ。まさか会えるなんて」
すっかり流暢になった日本語で言う。
「私、謝らなくてはならないの。あの日来てくれたでしょ?でも、私、帰ってしまったの。ここは夏の間しか来ていなかったから」
「え?エミリーも?私もエミリーのお家、行けなくて…」
エミリーが微笑んだ。
「二人ともあの時のこと気に病んでたということね」
私も微笑んだ。
「よかったらお茶でも飲んでいかない?」
「ありがとう、伺うわ」
「うち、変わってなくて驚くわよ」
エミリーと私は昔のことを話しながら歩いた。
彼女と出会えたのは、奇跡に思えた。神様が出会えるようにしてくれたのかもしれないと思った。


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懐かしい、箱根の思い出を、少し(だいぶ?)アレンジしてみました。

保養所の庭の下には本当に沢が流あって、冒険心をくすぐられたことを覚えています。

それにしても、かーーゆーーいーーー!

なんか今日、顔が痒いんですよ!

目とか……

アレルギーの薬のんだけど、全然効かなくて……

顔全体がパンパンに腫れてます(;´д`)トホホ…

昼間から鼻声だったけど、もしかしたら今日からのみ始めた漢方が合わなかったのかなあと疑いをかけてます。

天気が崩れるからかなぁとも思ってますが…
(雨の日は、上空で花粉が爆発して、アレルギーがひどくなるそうです)

皆さんは、アレルギー出てませんか?

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