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カザフスタン、生命の危険を感じるほどの極寒地で旅して生きる喜びをかみしめる

日本の7.2倍、世界9位の国土面積を持つカザフスタン。

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このカザフスタンを含む中央アジアすべての国と、ウクライナ、ベラルーシ、アゼルバイジャン、バルト三国、ジョージア、アルメニア、モルドバなどもソ連というひとつの国の領土だったのだから、その巨大さは異常だった。

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世界最大の内陸国だが、カスピ海に面しており、資源に恵まれている。
石油や天然ガスよりは鉱物が豊富で、特にウランは世界一の産出量を誇る。
ソ連時代の無骨さがまだ残るものの、資源高で飛躍的な急成長を遂げている。

アゼルバイジャン、イラン、トルクメニスタン、カザフスタンのカスピ海沿岸国は天然資源の恩恵で経済成長してきたが、国土の大半が荒涼とした砂漠で他の産業が乏しいため、資源依存型の危うさを解消できないでいる。

カザフスタンは中央アジアで唯一ロシアと接しており、街中ではロシア系もよく見る。
金髪色白のロシア人と、モンゴル系のアジア人。
シャラポワみたいな人もいれば、朝青龍みたいな人もいる。
身体的特徴がまるで異なる人種が共存している不思議な世界。
両者の混血と思われる人も多い。

都市部は近代化したが、この広大な国土に人口たった1800万人。
世界有数の希薄っぷり。

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夏暑くて冬寒い大陸性気候。
気温はぐんぐん下がり、日中でも氷点下。

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どうなるかなんてわからん。
それでも突き進んだれ。

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キミは暑いところも寒いところもいけるんだね。

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世界一タフな哺乳類かもしれないね。

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気温はまだまだ落ち続ける。
体験したことのない領域へ突入。

電子機器が正常に作動しなくなった。
寒い時にお腹が空きやすくなるのと同じで、電子機器を起動し維持するのもいつも以上のエネルギーが必要になるのだ。

旅においても生命線ともなるスマホは、使わない時は電源を落としておき、使う時はあらかじめ体に密着させて温めてから電源を入れ、用がすんだらすみやかに電源を落とす。
カメラもバッテリー切れになりやすい。

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日中-15℃。
夜間-25℃。
ダイヤモンドダストの中を走り、凍てつく大地にテントを張る。
次の街まで300km、未舗装、向かい風。
小学校6年間半袖短パンですごした元気な子だから、へーきへーき。

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あらゆるものが凍る極寒地。

水はカチンコチンで飲めやしない。
ションベンだって瞬時に凍る。
日中の最高気温も氷点下だから、この小便は春が来るまでこのままなのか。

まつ毛がくっつくので、まばたきし続ける。
鼻の中も凍るので、鼻を動かし続ける。

自転車のベルに付いている方位磁針も凍ってしまった。

キャンプ時も、ガスがうまく気化してくれず、火が弱々しくて水も食料も解凍できない。
何も飲めない、何も食えない。

1時間に数台、車が通るのだが、いちいち止まって声をかけてくれる。
冷静に客観的に見て、こんな極寒の大無人地帯で自転車をこいでるなんて、異常なことだ。

「何をやっとるのだ!? 水はあるか?」
「あるけど、凍っちゃった」
すると、ポットからチャイを入れてくれる。
「食べ物はあるか?」
「あるけど、凍っちゃった」
すると、その場でサンドウィッチをつくってくれる。

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世界中どこ行ってもそう。
過酷な環境下ほど、人は当たり前のように助け合う。
僕としても、声をかけてもらえるだけでも励まされる。

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極寒の大無人地帯でも、道路工事している人たちがいる。

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トルコ人だそうだ。

できたてのアスファルトにペットボトルを突っ込んで温めてみたが、解凍できなかった。

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かれらにとっても命に関わる食べ物を、躊躇なく僕に差し出してくれる。

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遠慮して断る余裕は僕にはなく、深く頭を下げていただく。

極寒地では、金属が折れやすくなる。
キャリアがもげた。

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給水タンクも、凍って膨張したためか、穴が開いた。

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夜が来た。

給水タンクは、いつもは下に置く時「ボン」という音がするのに、「コン」と金属的な音がした。

ガスコンロのかすかな火でペットボトルの氷を20~30分かけてあぶって、ようやくコップ3分の1ほど飲めた。
調理はとてもできない。
道路工事の人にごちそうになっておいて、本当に助かった。
しかし歯も磨けない。

星空のすごいこと。
もう「満天」なんて言葉じゃ足りないぐらい、まるで人工的な照明のように、派手に夜空を輝かせている。

持っている衣類すべてを総動員し、これ以上重ね着したら寝袋のチャックが閉まらなくなるぐらい、最高レベルの重装備で寝袋に入る。

凍死しませんように・・・

なんとか少し眠れるが、1~2時間ごとに冷気が「ズンッ」と入り込んできて目が覚める。

なんて寒さだ。

こんなに寒くても、体から蒸気を発している。
ふと寝袋シーツを見たら、濡れていた。
起き上がって、もう一度振り返って寝袋シーツを見たら、 濡れた部分がもう凍っていた。

朝。
おおー!!!
生きてる!!!

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空気中の水分も凍る。
キラキラと輝くダイヤモンドダスト。

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なんて美しい。
どんな名所よりも、美しいと感じる。
なんてすばらしい、この世界。
やっぱり僕は、自転車旅をやっててよかった。

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自転車で世界を旅したい。
それだけを夢見て、日本でがむしゃらに働いて、南アフリカからここまで走って来て、その上でこの目に映る、この世界。
途方に暮れるような大地で、旅して生きる喜びに、涙がこみ上げてくる。

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突如現れたレストラン。

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なんとここ、宿泊もできる。
トイレは離れのボットン、シャワーなし、水も制限されている。
なんでもいい、暖かく眠れるなら。
未舗装無人地帯に宿があるなんて、まったく予想外。
助かった。

こんな人里離れた家屋にも、セントラルヒーティングというすぐれた暖房システムがある。
ボイラーで暖めたお湯を建物内に循環させる、いわば心臓と血管に似た仕組みで、外は極寒でも中は驚くほど暖かい。
いやむしろ暑い。
風呂上がりはしばらく汗がダラダラ流れるほどだし、寝る時はTシャツ短パン毛布1枚でもちょっと暑いぐらいだ。
洗濯物は室内に干しておけばバッチリ乾く(外に干すと一瞬で凍りつくので永遠に乾かない)。
この方式なら、ストーブやらガスヒーターやらコタツやらをゴチャゴチャ置く必要もないし、安全性も高いと思う。
ただ、自分で温度調整できないのが難点。
暑い時は窓を開けるしかないのだが、開けると外からの空気が瞬時に凝結して、白い煙のようになる。
冷凍庫を開けた時と同じ現象か。

メシも最高。

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ここで働いてるおばさんたちも、愛想良くて優しかった。

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