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【ポケット・ショコラ キャラクター総選挙】お礼SS

「真帆は明日ホワイトデーのデート?」
くるみが面白くなさげにつぶやいた一言で、突如、私はホワイトデーの存在を思い出した。
「……会う約束はしてるけど、ホワイトデーだからってわけじゃないと思う」
私が忘れてたんだから、レントくんは当然覚えていないと思う。
去年も忘れてて、最後にポケットから出したのど飴くれたし。
でもそういうところもレントくんらしくて好き……、なんて思っちゃう私って、相当重症。
「真帆がもっとアピールすればいいんだよ! お返しにプレゼント買ってって」
「……ほしいものなんてないもん」
しいていうならば。
レントくんの時間がほしい。
レントくんがもってる時間の中の自由な部分を、少しでもたくさん私にわけてほしい。
それを言うとくるみにサクッと「うわ、重い」と言われてしまった。
たしかに自由なレントくんにそんなの重いかもしれないから、口に出すのはやめよう。
人ってどんどんぜいたくになっていくんだな。
恋ってやっぱりむずかしい。

ホワイトデーといっても、その日もいつもと変わらず、すみれちゃん、リセちゃんカップルと遊んで、夜になったら桐谷くんの家の前でバイバイした。
「のど乾いたなー。自販よっていい?」
「うん。レントくん白熱してたもんね。リセちゃんとのマリオカート」
リセちゃんが意外とゲームが上手くてレントくんを煽るから、ムキになったレントくんが絶叫しながら何戦も勝負を挑んでいた。
最後にはゲームを見ているのに飽きたらしいナギくんが、リセちゃんに「いいものがあるから家においでよ」と耳打ちしてアッサリゲーム大会は終了した。
リセちゃんの目は子犬のように輝いていた。ナギくんのことが大好きなんだなあ。
「真帆つまんなかったよな。ごめん」
レントくんがミルクティーを買って渡してくれる。
私は両手であったかいミルクティーを包んでもつと、笑って首をふった。
「全然。楽しいよ。楽しそうなレントくん見てると私も楽しい」
こうやってホワイトデーに一緒に遊べただけで、今年も幸せだなーと思う。
夜はまだ寒いのにレントくんは冷たいコーラをゴクゴク飲んでいた。
二人でベンチに並んで座る。
真っ暗な公園は自販機の周りだけが明るくて、その前に座った二人の影が長く伸びる。
ああ、一日が終わっちゃう。もう少し一緒にいたいのに。
「真帆、手」
レントくんが左手を私に差し出す。手が冷たいから温めてほしいのかな?と思って私は素直に手を差しだした。
「今日ホワイトデーだから」
レントくんが空いている方の手でデニムのポケットを探る。
またのど飴が出てくるんだと去年を思い出して、ふっと笑みがこぼれた。
今日はこれでバイバイでも、レントくんののど飴があれば少しは寂しさを紛らわせるかも。
そんな思いで楽しみにしていたのに、出てきたのはのど飴じゃなかった。
コロンと手に乗せられたのは。
「……指輪?」
シルバーのちょっといびつな形のそれは、街灯に照らされてキラキラと光っていた。
「もしかして……手作り?」
「あ、バレた? 指に入るか自信ない」
レントくんはそう言うといたずらっこみたいに笑った。少し照れたように。
それを見るだけで、胸が高鳴る。
「レントくん、指輪なんて作れるの?」
「まー自己流だから。バレンタインに手作りもらったんだから、ホワイトデーも手作りしろってナギセンセーが」
「ナギ先生?」
「女子を喜ばせる才能に満ち溢れてるから、俺とタクは教えを受けてんの」
「ふふっ。レントくんが? 信じられない」
先生の言うことなんて聞きそうにないんだけど。
それでもレントくんが私を喜ばせようとしてくれたんだと知って、心がじんわりと温かくなった。
レントくんは私の手のひらに乗った指輪を取ると、そのまま私の薬指に通そうとした。
けれど。
「……」
「……」
指輪は第二関節までしか入らなかった。もっと私の指が細かったらよかったのに。
「ごめんね」
思わず謝ってしまうとレントくんは慌てて、指輪を指から引き抜いた。
「これピンキーリングなんだった」
バレバレの嘘で小指にはめ直してくれる。私は笑ってしまった。
だって今度はぶかぶかだ。私の指のサイズなんて知らないんだから当たり前だよね。
勘で作っちゃうところがレントくんらしくて、最高だ。
「うそうそ。真帆どうせ学校とか塾とかでつけないだろ? 本命はこっち」
くすくす笑う私に、慌てた様子のレントくんは、ポケットからまた何かを取り出した。
それは繊細な銀細工の蝶のバレッタだった。
「……すごい、綺麗」
「これはさすがにツレに作ってもらったけど、俺デザインの一点ものだから」
レントくんが私の頭に飾ってくれる。
「真帆あんまヘアアクセとかしないだろ? たまにはこういうのもいいんじゃねえ?」
「……あっ、ありがとう」
感動で言葉が出てこなかった私は、たどたどしくお礼を言った。
どうしよう、うれしい。ほしいものなんてないって思ってたのに私ってば。
……レントくんが私のためにプレゼントを考えて、作ってくれた。
レントくんの時間を私にいっぱい使ってくれたんだ。
その事実だけで胸がいっぱいなのに、こんな素敵なプレゼント。
涙出そう、と思ってたのに。
「真帆のイメージ。羽ばたく蝶」
そんな嬉しいことを言ってくれるから、私の瞳から涙の粒が零れ落ちた。
「で、銀は俺だろ。真帆は俺のものってシルシ……って、オイ、泣くなよ」
「泣くほど嫌って意味じゃねーよな」とレントくんが困ったように頭をかくから、私は泣きながら笑ってしまった。
「好きだよ、レントくん。いつでも、今日がいちばん好き」
私が泣き笑いで何度目かの告白をすると、レントくんはいつもみたいに照れて視線をさまよわせた。
私がこういうことを言うと、レントくんは困っちゃうから言わないようにしてるんだけど、もう想いがあふれすぎて言わずにはいられなかった。
ホワイトデーだから特別だよね?
そう思ったのはレントくんも一緒だったみたいで、いつもと違ってわたしの頭を引き寄せると、おでこにそっと唇を寄せた。

月曜日、私が蝶のバレッタをつけて登校したから、くるみとさっちゃんにものすごくからかわれた。
レントくんがくれたシルバーリングは、実はネックレスにして制服の下につけている。
先生に見つかったら怒られちゃうから、私にとってはものすごく冒険なんだけど。
レントくんが『羽ばたく蝶』だって言ってくれたから、私も勇気を出して飛べたらなって思う。
これからも銀色に輝くレントくんの隣で、自由に羽ばたけるように。
ずっとずっと一緒がいい。

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