【エッセイ】ハチ
母の実家の墓は、熊でも出そうな山深いところにある。徒歩でも足を滑らせそうな傾斜路を車で上って行く。
朝まで強い雨が降っていたので、墓石は掃除の必要がないくらいきれいだった。
子どもたちがトノサマバッタだカナチョロだと騒いでいるのを聞きながら花やお供えの準備をする。手を動かしながら、軽トラで来ていた近所のおじいちゃんに軽くあいさつをした。
さて、ろうそくと線香に火を点けようとしゃがみこんだとき、熱い痛みが左足のくるぶしを襲った。あとで聞いたところによると、そのとき私は「熱い!」と言ったらしい。実際に熱いと感じた。
火の点いた線香を誤って押し当てたのかと思った。右手に線香の束を持ったまま、左手でくるぶしを払う。痛みは消えない。何かが触れる。羽虫だった。
「うわ!なんか刺された!」
虫は、大きなハエか小さなアブくらいの大きさだった。背中が黄色と黒のしましま模様に見える。
「ハチだ。離れれ!」
母と姉たちに言われるより早く、その場を跳びすさっていた。靴下の上から刺されたらしい。傷口は赤い点で、まわりが少し腫れている。墓石の陰を確認した姉が、ハチの巣あった、と言った。
傷口をペットボトルの水で洗ってから、お参りを済ませる。その間も、くるぶしはときどきチクチクと痛む。アナフィラキシーショックを心配した母と姉がしきりに受診をすすめたが、ハチに刺されたのは初めてなので様子をみることにした。
帰りは運転を姉に任せて、助手席で靴下を脱いでいた。帰宅後、姉が用意してくれた保冷剤を足に押し当てて昼寝をした。
調べた結果、私を刺したハチはスガリと呼ばれる地バチのようだった。毒の強さのほどは不明。結局、体調には何の変化もなかった。
姉「何ともなくて良かったわ」
私「危なく、お盆にあっちに連れてかれるとこだったよ」
姉「ハチの毒じゃお前は死なんわ」
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