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【「鎌倉殿の13人」放送開始記念】草刈正雄が明かす三谷幸喜との出会いと「真田丸」誕生秘話

三谷幸喜さん脚本で放送前から話題沸騰のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」が、いよいよ1月9日から放送開始となる。同じく三谷さんが脚本を担当したNHK大河「真田丸」(2016年)に出演した草刈正雄さん。「人生第二の転機」と明かした三谷さんとの出逢い、そして「他の人にやらせたくないな……この役は!」と思わせた三谷作品とは? 草刈さんの新書『人生に必要な知恵はすべてホンから学んだ』(朝日新書)より一部を抜粋・再構成してお届けします。

草刈正雄さん(撮影/篠田英美)

■「この作品は、やらなくては」

 いい台本とは、究極のレシピです。書かれているままに演じれば、いい味が出るからです。役者はホンに従えばいい。ホンの通りにすればいい。自分がなにをするべきか、ホンがすべて教えてくれるのです。

 いいホンとの出逢い。それが人生をも変えることを教えてくれたのが、三谷幸喜さんです。三谷さんの話をしようとすると、自然に笑ってしまうんですよね、とにかく面白いから。

 何がって? 創る世界そのものが、です。時代劇にしても、現代劇にしても、三谷さんの筆にかかると、誰もが身に覚えのある“人間劇”になる。言いたくても言えないことや、その反対に、言いたくないのに言ってしまうこと。人間の裏表やグレーゾーン、はたまたとことん入り乱れるウソとマコトと勘違い。

「ああ、そうだよなあ、人間って……」

 愛すべき人間の魅力というものが、台本のなかに流れ続けているのです。

 三谷さんとの出逢いは、2014年です。それ以前にも、刑事ドラマ『古畑任三郎』第2シーズンの「ゲームの達人」(1996年)でゲスト主演をさせていただいたんですが、しっかりと演出を受けたのはこの年が最初になりました。

 三谷幸喜脚本・演出『君となら~ Nobody Else But You』、再々演版のひと月以上にわたる舞台です。初演と再演では、角野卓造さんと斉藤由貴さんが演じた父娘役を、竹内結子さんと僕という配役でした。

 それは不思議な年でした。不器用なので、仕事を複数重ねないようにしながら生きているのですが、2014年は舞台の仕事を3本受けていたのです。僕にしては、かなりめずらしいことでした。

 1本目の舞台は山田太一さん脚本の『日本の面影』。ラフカディオ・ハーンの役で、紺野美沙子さんと夫婦役の重厚な作品です。2年前に初演をした作品の再演だったこともあり、台詞は体のなかに入っていました。それもあって、三谷さんの舞台をお引き受けしたのです。というのも、台本を初めて読んだとき、

「他の人にやらせたくないな……この役は!」

 と、瞬間的に感じたから。心がざわざわ騒いだのは何十年ぶりだったことか。とにかくホンの面白さに引き込まれました。元来、台本をざっくり初読みしたときの直感を大事にしているので、「この作品は、やらなくては」と意を決したのです。とはいえ、『日本の面影』の直後に『君となら』の稽古が控えていたので、うまく頭を切り替えることができるか不安もありました。

 それが、それが。台本を読めば読むほど、ストンと腑に落ちました。なぜなら、ホン通りに演じればいい、そうわかったからです。三谷さんの台本は、役者が観客を笑わせようと構える必要はありません。ただ、淡々と取り組むだけでいい。淡々と演じるだけで、面白くなる。「あえて“20年前の日本のお茶の間”にこだわった演出」と三谷さんが言われたように、卓袱台センスのホームコメディーです。僕の役どころである下町の床屋の親父、小磯国太郎は、パジャマに始まりパジャマに終わる。娘の70歳の恋人ケニーに右往左往しながら、彼の本名が「諸星賢也」だと知り、思わず娘に言うのです。

<おい、お母さんはきっと草刈正雄をイメージしてるぞ!>

 ウケました。毎回、ウケました。

 この台詞は、初演から変わっていません。つまり、僕のために書かれたのではなく、世の中の“草刈正雄”的なるものを床屋の親父が娘に忠告しているわけです。が、あえていうなら、この台詞は僕のためになった。客席は大爆笑です。なにしろ、本人が言うのですから。新しい自分を引き出してもらいました。

 これぞ、三谷マジックです。役者が無理をする必要がないのです。たぶん、三谷さんは役者というものが大好きで、じつによくよく観察されているのではないか。こういうことをこの役者に言わせれば面白い。それが、台詞になっている。だから、僕は自然にストンと昭和のオヤジになれたのです。

 この公演の最中に、三谷さんが突然、楽屋に来られました。

「再来年、大河ドラマをやるんですが、出てくれませんか?」

 しかも、真田昌幸役だと言う。びっくりしました。

 2016年の大河ドラマは真田一門の物語なのか──。30年前の『真田太平記』の現場の記憶が、一気に頭を駆けめぐりました。あの丹波哲郎さんの真田昌幸を超える役者はどこにもいないだろう……。

 そんな僕の心の声が聞こえたのでしょうか、三谷さんが言いました。

「僕もあのドラマ、大好きで観ていました。丹波さんを超えましょう!」

 そんなこと、できるんだろうか! 内心、無理だと思いながらも魅力的な丹波さんの笑い声が蘇り、反射的に胸が弾みました。わかりました、三谷さん。

 それにしても、プレッシャーは大きかった。ですが、台本が何本か届くうちにご想像通りに三谷ワールドにはまっていき、本当に「やれるかもしれない」と。文字だけで、ぐいぐいと引っ張られました。やります、三谷さん。

 こうして『真田丸』が出帆しました。


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