知られざる、JAXA・宇宙飛行士「選抜試験」と「募集要項」の中身
2022年、13年ぶりの日本人宇宙飛行士選抜試験が行われ、史上最多、前回の約4倍となる4000人以上の応募の中から、2人が選ばれた。史上最年長と史上最年少タイでの合格が、話題となったのも記憶に新しい。
宇宙飛行士になる人々は、どんな訓練を受け、宇宙のどんな場所で活動することになるのだろうか?
宇宙飛行士になりたいなら絶対に読んでほしい『夢の仕事場 動画と図解でよくわかる 宇宙飛行士』(鈴木喜生著/2022年11月刊/朝日新聞出版)から、宇宙飛行士になるまでの流れや、選抜試験について紹介したい。
まずプロの宇宙飛行士になるためには、自分が国籍を持つ国の宇宙飛行士選抜試験を受ける必要がある。基本的にはこれが宇宙飛行士になるための唯一の方法だと考えていい。日本の選抜試験はJAXA(宇宙航空研究開発機構)が主催している。日本で最世に選抜試験を行ったのは、JAXAの前身であるNASDA(宇宙開発事業団)で、1983年のことだった。
それ以降、2022年までに行われた募集は計6回。実施は不定期で、ある日突然、告知される。募集と募集の間が最も長かったのは、2008年の第5回から、2021年に告知された第6回の13年間だ。
1990年代前半、日本人研究者として初めてスペースシャトルに搭乗した毛利衛氏や、アジア人初の女性宇宙飛行士となった向井千秋氏らの主なミッションはシャトルでの実験だった。その後、1998年に国際宇宙ステーション(ISS)の建設がはじまると、JAXAの宇宙飛行士の活動の場はISSへと広がる。しかしそのISSも、2030年には退役する予定。つまり、冒頭で紹介した2人の宇宙飛行士はかろうじてISSで活動する機会があるが、その次の世代が宇宙飛行士になるころにはISSはすでになく、その舞台は、NASAが提案する月探査プログラム「アルテミス計画」の領域へと移ることになる。
実際、JAXA選抜の募集要項に書かれている、これからの宇宙飛行士が行う業務内容には、月の宇宙ステーション「ゲートウェイ」での活動や、月面探査などが明記されている。
募集要項には書かれていないが、ISSの後継機となる民間の宇宙ステーションの建設も2024年以降に始まるため、日本のプロ宇宙飛行士はこうした場でも活動することになるだろう。日本人宇宙飛行士の活動の場が、1機のシャトルからISSまで広がったように、これから宇宙飛行士になる人々の活動領域は、地球を周回する軌道上から、月そして火星へと広がっていくのだ。
次に、選抜試験の流れを紹介しよう。図にまとめたので参考にしてほしい。
最初の書類選抜では、エントリーシートなど必要書類を提出する。続く第0次選抜ではオンラインで英語の試験が行われ、その合格者だけが同じく0次選抜の次のステップに進む。
第1次選抜では、試験会場に行き、医学検査を受けたり「なぜ宇宙飛行士になりたいのか」をプレゼンする場がある。また、さまざまなテストを通して受験者の精神的・肉体的な資質が宇宙飛行士に適しているかどうかをチェックされる。第2次、第3次と進むにつれて試験の内容は濃く、具体的になり、一般には行われないような精密な医学検査も行われる。2008年度の第3次試験は、筑波宇宙センターとアメリカのNASAジョンソン宇宙センターで、18日間にわたり実施された。
筑波の試験で有名なのが、閉鎖環境試験だ。受験者は閉鎖的な居住モジュール内で1週間を過ごし、試験官との通信以外は外部との接触が一切断たれる。ストレス環境のなかで、個人の作業効率や正確さ、仲間と協力できるか、役割分担がうまく構築できるか、などが試される。
国際宇宙ステーション(ISS)で約半年におよぶ長期滞在ミッションが行われ、アルテミス計画では月での活動がはじまるなか、こうした検査の重要性は増している。
書類選抜から第0次、1次、2次、3次のすべての試験にパスすると、最後に、ほんの数名が宇宙飛行士候補者に選ばれる。応募時点から候補者が選ばれるまでに、1年以上の時間がかかる。しかし、それでも彼らはまだ宇宙飛行士ではなく、あくまでも候補者。宇宙飛行士になる「チャンス」が与えられただけだ。ここからさらに約3年におよぶ訓練を受けて、やっと正式な宇宙飛行士になることができるのだ。
最後は本書『夢の仕事場 動画と図解でよくわかる 宇宙飛行士』の著者・鈴木喜生が、序文「宇宙をめざす人へ」で書いた宇宙飛行士になりたいみなさんへのメッセージで締めくくりたい。
(構成/生活・文化編集部 塩澤巧)