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朝井リョウ「スター」試し読み

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朝井リョウさんの作家生活10周年記念作品『スター』。特別に6章までを全30回で試し読みいただけます。現代の“スター”をめぐる物語をお楽しみ下さい。
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記事一覧

朝井リョウさん『スター』試し読みに寄せて

朝井リョウさんのイメージとして、学生時代に『桐島、部活やめるってよ』でデビュー、23歳で『…

第1回

1  新しい世界への扉をノックするのは、次世代スターの産声だ――今回話を聞いたのは、第3…

第2回

2  映画の神様がふっと息を吹きかけたかのように、シアターの中の暗闇が晴れていく。天から…

第3回

 ――質のいいものに触れろ。  尚吾は一瞬、祖父の声が喫煙所に響いたような気がした。だけ…

第4回

「支配人、俺は気づきましたよ。粋なことするなって思いましたよね、うんうん」  大袈裟(お…

第5回

 尚吾は四月から、鐘ヶ江誠人監督が所属する映像制作会社で働く。  質の高い環境を目指して…

第6回

3 「あんた、いつまでこっちにおっとね」  和江(かずえ)の、心底うっとうしそうな声を聞きながら、紘は、実家にいるだけで喜ばれるのは実家を長く離れているからこそなんだな、としみじみ思う。大学を卒業して地元に帰ってきたときは「これからどぎゃんすっと」と不安そうにしながらも紘の好きなものばかり振る舞ってくれた母も、今では全ての関節が外れたような体勢でソファに寝そべり続ける息子を完全に持て余している。  毎日顔を合わせていると、たった一か月でこれほど希少価値が失われてしまうの

第7回

 今日も島はよく晴れている。 「ちょこっと多めやけん、気張っていくぞ」  ぐん、と、走り…

第8回

 カフェと居酒屋への納品を終え、配達リストの午前中パートの最後である民宿に向かう途中、昭…

第9回

 紘が高校一年生のころ、役場の人たちが島の役場の公式サイトに載せるPR用の動画を撮ること…

第10回

 次回作を考えあぐねていた尚吾に、長谷部要(はせべかなめ)というボクサーを撮ることを提案…

第11回

「二人とも、もう昼飯食うたね?」  食料庫に酒を収めていると、桑原がそう訊いてきた。まだ…

第12回

 魚さばき界の三ツ星スター。  魚さばき界の三ツ星スター。  忘れないよう、小さな声でそ…

第13回

4  尚吾は一瞬、思考の綱から手を離そうとしている自分がいることを自覚した。そしてすぐに、こうなってからが本番なのだ、と、周囲に並ぶ顔を冷静な気持ちで見渡す。すると、自分がいま同行しているのが、かつて共同監督を務めていた紘でも、泉を始めとするサークルの後輩たちでもなく、憧れの鐘ヶ江組の面々だという事実に、脳が新鮮に驚き直すのがわかった。 「監督」  占部(うらべ)が、渋い表情の鐘ヶ江に声を掛ける。 「どちらかの目線というわけではなく、引きで撮ってみる、というのはどうで