【二次創作】100日後に死ぬワニに救われたヒヨコ

桜が散っている。

桜吹雪を巻き起こすには、なかなかの風量が必要だ。それこそ、春一番くらいの。身体の大きな生物には分からないだろうが、私のような小さな生物には、桜を飛ばすような風は、災害に近い。ピヨピヨと鳴いてみても、その切実さの三分の一も伝わらないから、少々腹が立ってきた。ピヨピヨ。

申し遅れたが、私はヒヨコだ。名前はまだない。他のヒヨコのことは知らないが、わりと行動派なタイプのヒヨコに生まれた自負がある。だからピヨピヨと、存在をアピールしながら、あちこちを歩き回っている。

生暖かい物理攻撃を受けたのは、その瞬間のことだった。何者かが、断りもなく私を掬い上げて、倒れた。一瞬何が起きたか分からなくて、空を見上げる。桜吹雪に襲われたわけではなさそうだ。後ろを振り返ると、大きなワニが倒れている。そして、地面には、私の背丈よりも大きな電子盤が落ちている。

果たしてこのワニは、何がしたかったのだろう。私が車に轢かれるとでも思ったのだろうか。あれだけピヨピヨ言いながら歩いているのに、車に轢かれるはずがないじゃないか。ほら、車同士でプープー音を鳴らしているみたいに、信号機がポッポポッポ鳴るみたいに、私だってピヨピヨ鳴いていたんだから。

このワニくらいに身体が大きければ、タイヤの間をすり抜けることも出来ないのかもしれない。想像力のないワニだ。私くらい身体が小さければ、ピンポイントでタイヤに踏まれることは、なかなかないのに。

しかし、先回りした優しさは、このワニを殺すのだろうか。それは、ちょっと後味が悪い。ピヨピヨ。おかしいな。車同士でプープー音を鳴らすのと同じように、信号機がポッポポッポ鳴るみたいに、力一杯鳴いているのに。ピヨピヨ。私にはこのお節介なワニをどうすることも出来ない。だから、誰か、このワニを救って欲しい。

ピヨピヨと鳴いてみても、この切実さの三分の一も伝わらない。段々と腹が立ってきた。ピヨピヨ。ピヨピヨ。ピヨピヨ。

OLとバリキャリとオタクの中間地点にいます。 「忘れてみたい夜だから」という番組をRadiotalkとPodcastでお届けしています。 【Radiotalk】 radiotalk.jp/program/31133