右手の中指につけていた指輪を、右手の薬指に移動した。なんとなく、五本ある指の真ん中にあるよりも、右か左かどちらかに寄せたくなったからだ。ビジュアル的にも、アシンメトリーな方が何故かピンとくる。人差し指に嵌めたら少々窮屈だったから、薬指に移動することにした。

この指輪は、戦闘用の指輪だった。心の右ストレートが必要なタイミングがあった。師走だったと思う。購入して、ずっと付けていた。しばらく会社を休むうちに、戦闘民族の血が流れる指輪に少し違和感を覚えるようになった。「中指はちょっとな」って。もともと、ぶん殴った時に中指にダイヤがあったら痛いだろうっていう空想で買った指輪だった。中指はちょっとやめておこうかって思ったのが一昨日のことだった。

ずっと中指にいた指輪は、薬指では心許なさそうにしている。落ちないけれど、少しスカスカして、居心地が悪い。理不尽をブン殴るために何ヶ月もつけていたから、何かを約束するような指では、何か物足りないのかもしれない。チープなスリルとか。

あとは何となく、薬指の指輪は、右でも左でも空けておくべきだったような気もする。約束は大事だから。でも、恋人にもらった指輪を右手の薬指につけていたとして、左手の薬指に指輪を貰えなかったら、とても悲しい気がする。だから指の場所を特別にしすぎる必要もないかなと思った。自分で自分を大事にする約束として、指輪をつけよう。

少しスカスカする指輪の分、私は優しくなれたのかもしれない。皐月。

OLとバリキャリとオタクの中間地点にいます。 「忘れてみたい夜だから」という番組をRadiotalkとPodcastでお届けしています。 【Radiotalk】 radiotalk.jp/program/31133