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島へ渡る 瀬戸内国際芸術祭2019その1

2019.08.01
1日目 直島

 とうとう瀬戸内国際芸術祭に来た。

 ずっと行きたいと思っていた。2013年、2016年と都合をつけられず泣く泣く見送り、三度目の正直だ。深夜、遅々として進まない作文仕事の合間に、今年こそは絶対に行く、と突然思い立った。
過去の二回は気候が良さそうな秋会期を狙ったあげく行けずに終わったので、今年は覚悟を決めて休みやすい夏に行くことにして、スケジュール帳とオフィシャルサイトの混雑予想カレンダーを睨んで粛々とプランを練った。

 当初は航空会社が出していた、航空券と高松のホテルをセットにしたパックツアーを取るつもりだったが、それだと私が行きたい島をまわるのは難しいことが調べるうちにわかり、結局、交通手段も宿もひとつひとつ手配するはめになった。
 この際やりたいことは全部やろうと決めて、往路は寝台特急・サンライズ瀬戸で高松まで行くことにした。人気の特急なので、取れたのは個室ではなく事前登録で予約できるノビノビシートだったけれど、横たわれるぶん夜行バスよりは眠れたし、何より早朝の瀬戸大橋を車窓から見られてうれしかった。瀬戸大橋を渡るのはこのときが初めてだった。

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 高松に着いてすぐ、直島行きのフェリーに乗った。高松港にはフラッグや幟がたくさんはためいていて、祝祭の気分が高まる。出港するとき、揃いのTシャツを着た芸術祭のスタッフさんたちが手を振ってくれた。

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 九時過ぎに直島へ上陸すると、宮浦港で町役場の職員さんに出迎えられた。このときもらったウエットティッシュ・うちわ・クリアファイル・メモ帳のセットは旅行中ずいぶん重宝した(ちなみに、「同和問題に正しい理解と認識を」というメッセージ入りだった)。
 この時点ですでに、やっとここに来られた……という感慨がすごかった。直島港のシンボルのあの赤かぼちゃ(写真撮影の長蛇の列ができていた)を見たり、直島パヴィリオンで遊んだりしながら海の駅「なおしま」がオープンするのを待ち、鑑賞パスポートを買い、荷物をコインロッカーに預け、バスで最初の目的地へ向かう。

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 どういうルートでまわるかは、さんざん悩んだ末に観たい順に観るという結論に達し、まずは地中美術館を十時十五分で予約していた。
 美術館までの遊歩道に花が咲き乱れていて、入館する前から楽園の雰囲気がある。モネを模したと思われる睡蓮の池はとくに美しかった。

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 建物はコンクリートの打ちっぱなしの迷路のような作りで、建築物じたいが作品のひとつという佇まいだった。ウォルター・デ・マリアが一室、ジェームズ・タレルが二室、モネの睡蓮が五点という作品の数には正直、拍子抜けもしたのだけれど、どの作品も素晴らしかった。
 ウォルター・デ・マリアは時間や天候によって印象がかなり変わるのではないかと感じたし、刻々と色が変わるネオンで満たされた空間に入ることができるタレルの「オープン・フィールド」の、自分がどこにいるのかわからなくなる感覚は忘れがたい。

 そこから歩いて李禹煥美術館へ。エントランスの芝生にある岩や柱、海に向かって大きくひらいたアーチが景観にとてもよく合っている。「沈黙の間」と「石の間」はいつまでも眺めていたい作品だった。

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 美術館から美術館へと歩いているあいだにも、青い海が見えている。ベネッセハウスミュージアムの手前の蔡國強の作品があまりにもよく、島と海とよく晴れた空の多幸感で感極まりかけた。

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 ベネッセハウスミュージアムのカフェで、お昼ごはんのイカスミカレーを食べるあいだもふわふわしていた。

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 ベネッセハウス周辺の三つの美術館では、私はベネッセハウスミュージアムがいちばん面白かった。開放的な建物のつくりもよかったし、作品数も疲れるほど多くもなく、物足りないこともなくてちょうどよかった。
 柳幸典の「バンザイ・コーナー96」は二月に神戸で観た「Oh!マツリ☆ゴト」展にも出ていたなと思う。バスキアも存在感があった。

 屋外に点在する作品を眺めつつ、つつじ荘まで歩いた。ニキ・ド・サンファールがカラフルで楽しい。
 途中、水を切らして命の危険を感じ、ベネッセのショップで買ったら180円ぐらいした。

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 つつじ荘からバスで本村エリアへ移動し、家プロジェクトも(事前予約をしそびれたきんざ以外は)すべてまわることができた。
 どれも面白かったが、とくに印象的だったのは護王神社・角屋・石橋だろうか。碁会所の椿もよかった。南寺は滑りこみで整理券を取れたが、人がたくさんいる暗闇のなかを動く恐怖感が強くてあまりきちんと受け取れなかった気がする。

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 この日はほんとうに暑く、熱中症に怯えつつ終了時間に間に合うように必死で歩きまわったので、途中、三分一博志の「水」で水に足を突っ込んだときには心底生き返る心地だった。

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 バスで宮浦港に戻って、民宿にチェックインした。きれいな洋室だったが、一般家庭の広いおうちの一部屋に泊めてもらう感がすごい。
 夕ごはんを食べに出たものの、目星をつけていたお店がどこも満席だったり閉まっていたりで、リトルプラムのテラス席で何とかノンアルコールビールとキーマカレーにありついた。昼も夜もカレーになってしまった……おいしかったけど……。
 銭湯の「I♡湯」も面白かった。裸眼で入ったので細部はあまり見えてなくて残念だったが、単純に大きいお風呂で足を伸ばせてホッとした。

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 日が落ちるにつれて夕焼けが暗くなっていく海とか、夜の暗闇のなかの赤かぼちゃとか、時間につれて刻々と変わってゆく宮浦港を眺められたのもよかった。
 直島パヴィリオンやジョゼ・デ・ギマランイスの作品は昼と夜とでかなり表情が変わる。いつ行っても人に群がられていた赤かぼちゃは、二十時を過ぎたころにはさすがに誰もいなくて、独り占めできた。

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