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【映画】「憐みの3章」これぞランティモスワールド

「哀れなるものたち」のヒットも記憶に新しいヨルゴス・ランティモス監督の最新作「憐みの3章」を観てきましたので感想など綴りたいと思います。



感想/ネタバレなし

世界を未体験の興奮と感動に導いた、アカデミー賞®4部門受賞『哀れなるものたち』の監督・キャスト・スタッフ再集結。 選択肢を取り上げられた中、自分の人生を取り戻そうと格闘する男、海難事故から帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官、奇跡的な能力を持つ特別な人物を懸命に探す女……という3つの奇想天外な物語からなる、映画の可能性を更に押し広げる、ダークかつスタイリッシュでユーモラスな未だかつてない映像体験。

「憐みの3章」公式サイトより

邦題に3章とあるとおり、異なる3つのお話からなるアンソロジー映画です。共通する役者が異なる役柄で出演しているので混乱しそうですが、3つのお話に共通するテーマがあるので結果的に同じ役者が演じることによってまとまりが出来たのかなと思いました。

そして
やってくれたよランティモス監督!
なんだか自分のやりたいことを詰め込んだぞって感じが映像から伝わって来ました。私は彼の作品って人間が抱えている闇や醜い面を映している気がするんですよね。「ロブスター」や「聖なる鹿殺し」ではその闇の部分がじわじわと心の奥底に染みていくように表現されていて、私はそれがかなり好きだったので今回もそういうダークな部分が見られて嬉しかったです。

今回の作品は難解かつ奇抜でエログロもあるので前回作の「哀れなるものたち」を観てランティモス監督の事を知った人は、この本来のランティモスワールドについていけなかったのでは。しかも上映時間が2時間45分もあるので、意味のわからない映画を長時間観るって結構辛いかも。

3つのお話のどの主人公も動揺し混乱し本人の意思とは反してストーリーが進んでいくんですが、進んでいくお話が奇想天外でとってもカオスな映画です。
「あれはいったいどういう意味?」と首をかしげてしまう場面が多いので解説している記事や動画を観たくなりますが、いくつかそれらを見てみると私はどの解説も合っているところもあるしちょっと的外れなところもある気がしました。
ランティモス監督は果たしてそこまで考えて作っているのかな?
映画監督は自分の思想を意図して入れることがありますが、ランティモス監督は無意識にやっていそう。つまり鬼才なんですよね。一般の人や私みたいな凡人には理解できない領域な気がします。
鬼才の作る映画ですからあまり深堀りしなくてもいい気がしました。
この映画は純粋に「なんじゃこりゃw」って楽しんだほうがいいと思います!

主演のエマ・ストーンはランティモス監督にすごく共鳴しているんですね。「情報陛下のお気に入り」はオーディションで参加した作品だったそうですがそれから3作続けて出演、製作面においても作品に参加しているそうです。
ランティモス監督のミューズ的存在はレイチェル・ワイズなのかなと思っていましたが、ディズニーの元で大作を制作できることになって変わっていったのかもしれません。

それからジェシー・プレモンス。前回レビューした「シビル・ウォ―」に数分だけ出演しただけですごい存在感だった俳優さんですが、今回完全に境地に達した印象でした。
いやー、これからも狂人的なプレモンス見たいです。

マーガレット・クアリーはアンディ・マクダウェルの娘なんですね。どうりでとってもお母さん似。3話目の金髪がとっても似合っていました。素敵な俳優さんです。

ウィリアム・デフォーは「哀れなるものたち」がとっても良かったですよね。今回は貫禄あって権力者らしい立ち振る舞いの演技が良かったです。
昔からお顔も個性的ないい俳優さんですね。私的には「処刑人」のクレイジーな捜査官役が印象的で忘れられません。あの頃は彼も若かったね。


3つに共通するものとは/ネタバレあり

3つのお話には題名がついています。
R.M.Fの死
R.M.Fは飛ぶ
R.M.F.サンドウィッチを食べる
R.M.F.とは3話に共通して登場するある男の名前です。この文字が刺繍されたシャツを着ています。
解説記事などではRedemption(救い)、Manipulation(操作・操る)、Faith(信仰)の頭文字を取っておりそれがこの映画のテーマなのではとされていますが、ランティモス監督は否定しているそうです。
実際のところは分かりません。

私はもっとシンプルに人間はあるものやひとに依存しやすく愚かなものなんだよというようなことがテーマなのではと思いました。
どのお話も主人公が極端にある人に依存しているのが見られます。
1話目のロバートは上司のレイモンドに生活のすべてを依存しています。
2話目のジェシーは帰ってくる前の妻に依存していました。
3話目のエミリーはカルト宗教に依存しています。
どの主人公も依存していた対象が自分から離れたことにより自分を失いとんでもない行動や言動に走るのです。
傍から見たら「えーそんなことまでしちゃう?言っちゃう?」と思うかもしれませんが、世の中で起こってる事件って第三者からはわからない事情であることが多いじゃないですか。誰かに依存している時って客観的になんて考えられないので、もしかしたら誰にでも起こりうることなのかもしれないです。
傍からみたら依存しきっている人って憐れに見えるわけで、原題「KINDS OF KINDNESS」(直訳・ある種の優しさ)を「憐みの3章」とした邦題はなかなか考えられているなと思いました。
(依存している状態はある種の優しさに守られているようでもあるので、それがタイトルになっているのかな。)

1話目はたとえ殺人を犯してしまったとしてもロバートにとってはハッピーエンドですよね。きっと一生ロバートはレイモンドへの依存から逃れられないのです。そしてリタが同じようにレイモンドの言いなりだったとは!面白い展開でしたね~!よく考えられたお話でした。
それにしても、レイモンドから貴重な贈り物がロバートに届くんですがそれがマッケンローの壊れたラケットとはw 吹いたよwwwww
観客でマッケンローの全盛期を知っている人ってどのぐらいいるんだろうか。ボルグ=マッケンロー=コナーズ=レンドルとこの辺りはテニスの黄金期だったよね。
ランティモス監督と同世代でないと理解できない謎設定ですねこの辺は。

2話目の最後はどういうことだったのかな?
たぶん失踪するまえのリズはジェシーにとって自分好みの妻だったんだけど、帰ってきたら人が変わったようになっていて失望し精神がおかしくなってしまったのかと思いました。対照的に帰ってきたリズは、外の世界を見て自由を覚えたんだけど次第に弱っていくジェシーを献身的に尽くしはじめ、それがエスカレートし最後は自分の肝臓をささげて死ぬことになる。依存する側とされる側、二人の立場が失踪前と後では逆になってしまっています。
最後死んだはずのリズが出てくる場面は、私はジェシーが自分の理想的なリズが戻って来た、と妄想を見たのかなと思いました。

3話目はセックスカルト教団のお話。面白いのが双子の片方が教団にとっての救世主になるのでその救世主を探すのですが、条件を満たす女性を最後交通事故で失ってしまうところはなんともエミリーにとってついてなさすぎ。でもエミリーがもしここで我に返ることが出来れば本来の家族(夫と娘)の元に帰れるんですよね。おそらく既に手遅れだと思うけれど。

映画全体を通して胸糞悪い空気感が漂っていますが、実は唯一の救いはR.M.F.で彼は1話で死んで、3話で生き返るんですよね。
エンディングでのどかな日差しの下でサンドウィッチを食べているところがなんだかホッとしてしまうのは私だけでしょうか。
1話目と3話目が逆じゃなくて良かったな。

いやーそれにしてもランティモスワールド全開でとても楽しめました。
曲と効果音の使い方も最高だった。
ユーリズミックスのSWEET DREAMSは実は私いまでも時々聴くぐらい好きな楽曲です。

HERE COMES THE RAIN AGAIN もいい曲ですよ。


映画でも冒頭からいきなりSWEET  DREAMSが流れてすごくインパクトあった!

ランティモス監督日本でもっと知られて欲しいんだけどな。
「哀れなるものたち」の映像や衣装がとても素敵でファンタジーとしても楽しめたので、アリ・アスター監督の「ボーはおそれている」より見やすかったし、彼が今度大衆受けする映画撮るなら「哀れなるものたち」に続くファンタジーがいい気がする。
と、思っていたら既にまたエマ・ストーンとのタッグで次回作決まっているんですね。
韓国映画「Save the Green Planet!」というSFコメディのリメイク映画だそうで、ファンタジー要素ありそうなので期待できそうです。
すごく楽しみです!

私的に「憐みの3章」評価は★★★★★でした!



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