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月に跳ねる歌


私は世間一般で言うところの「都会」に住んでいた。

でも結婚をして、住んでいた街から夫の住む街へ引っ越した。

そこは世間一般で言うところの「田舎」だった。

都会から田舎へ。

車が必須のこの街で、私は運転免許すら持っていない。

そんな私に夫は結婚前、「あるぐはこの街でやっていけるかな」と心配をしてくれた。

それに対して『いやぁ私、引きこもりだから大丈夫だよ』と笑って答えた。


それから約1年半。


刺激なさすぎて死にそう。


驚く。マジで何も無い。

スーパーやコンビニ程度はすぐ近くにある。

最寄り駅はこの県の中では十分大きい方だ。

でもそんな駅前ですら、人は疎ら。


街興せ。


最近、久しぶりにスクリーンで観たいなと思える映画があったので、映画館を調べた。


市に一館。


街興せ!


ビックリしている。市に一館って。


映画館ってメジャーな大作系を流すところと、趣味全開なものばかり流すところと、B級専門のところと…etc って分かれてるものだと思っていたのでマジでビックリした。


結婚前、私にはお気に入りの場所がいくつかあった。

ガタガタのテーブルに不味い珈琲。

年代に拘りのない無数のポスターと弾かれることのないグランドピアノ。

どん底みたいなその喫茶店は私のお気に入りだった。


地下に続く螺旋階段と美味しい珈琲。

マスターは優しく必ずソフトクリームをサービスしてくれた。

クラシックな作りのその喫茶店も私のお気に入りだった。


たまにはシャッター通りを歩くのも好きだった。

軍服やプレステが一緒に売られている店なんかがあって趣旨が分からず好きだった。

剥がされては貼られ、また剥がされては貼られを繰り返しているフライヤーに、友人のイラストを見つけるのも好きだった。


よく遊んでいた街は夜になると一気に色が変わる。

人混みは好きではないから、飲む時は平日が多かった。

自分のことがどうしようもなくどうでもよくなる時は道路に飛び出したくなる。

そうゆう時は飲みに出た。

仕事帰りに突然の連絡にも関わらず遊んでくれる友人がいたことはとても有り難いことだった。

友人Yちゃんに関しては昼からビールを飲んでた。

気に入って使っていたお店はいくつかあった。

ボロッボロの居酒屋だったり、洒落た居酒屋だったり、色々だけれどどこも料理の質は高かったと思う。


夜の街は欲望が渦巻いていて面白い。

みんな何かから逃げているようで、刹那的だった。

限りある青春を過ごしている若者、セカンドステージを謳歌している大人。

栄光にしがみつく人間もいれば、未来に賭けている人間もいる。

全部、私の妄想だけど、それは私の「不安定」を「安定」に替えてくれる材料だった。


見ているだけで面白かった。


それは無意識の集合体で、無自覚な習慣だった。


でもそうゆう習慣がなくなった今。

物理的に簡単に友人に会うことも、街へ出ることも出来ない今。


道路に飛び出したい夜はどうすれば良いのか分からない。


住んでいる街はとても平和で、のんびり過ごしたい人にはきっと最適な場所なのだろうと思う。

そしてそれは幸せと呼ばれるもので、今の私の悩みは変に都会に擦れただけの贅沢なものだと思う。


でも、脳が酸欠しそう。


友人たちの有り難さを改めて知った。


夜中に道路に飛び出したくなった時、今の街は車が殆ど走っていないのがちょっと面白かった。


最近、薬の量がまた増えている。


月へ跳ねたい。


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