高木生

tnwh, noobtastic、他

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Cat Power

Cat PowerのWillie Deadwilderは18分ある。はじめのうちはよくあるカップルの物語みたいな歌かと思っていると、そのうちなんの歌でもなくなっていく。なんせ18分もあるのだ。軽く、ひたすらシンプルなフレーズの繰り返し。こんなんでは物語は成立しない。途中で忘れられる。これはなんの歌でもないし、4時間の歌だと歌手本人がうたっている。 だからほんとはこんなものを書くのは野暮なことだ。歌ってそういうもの。空白。自分でコントロールできないもの。だれにもどうにもできな

    • Low Light

      タタタタタッと軽く乾いた音。マフラーを改造した原付だ。ノーヘルの高校生二人乗りが自転車に乗るおれを追い越していった。昔の、ビーバップ・ハイスクールや特攻の拓などのマンガを思い出す。こういう子供たちはいまもけっこう見かける。後ろに乗った男の子が背をややうしろに傾けて、少し体をひねった姿勢で右手でしっかりと原付後部のでっぱりをつかんでいる。だれでも同じだ。原付の二人乗りで後ろにいるやつは前の運転手にしがみつくか、重心を後ろにしたこの姿勢になるか。 ベンヤミンの『複製技術時代の芸

      • ブルース・ウィリスの微笑み

        西武国分寺線に乗る。昼で車内は空いている。一列の座席にひとりかふたり、乗客がいるくらいだ。のんびりした午後。おれの斜め前に座っている男は昼から電車でビールを飲んでいる。刈り上げた短い髪と浅黒い肌。黒いシャツに白パンツでサンダル履き。シャツはボタンを外して前をはだけている。おじさんというよりはおっさんと呼びたい。むかし西成でよく見たような男だ。ひろく股を開いて座り、クチャクチャ音を立てながらビールを啜る。ティアドロップ型の濃いサングラスをかけているので視線はわからないが、あたり

        • ビルの上の光

          あれはいつだったか。いつでもそうだったか。マンションの屋上に上がって、遠くの方を見る。ビルの上には赤い光があった。たとえば高校生のとき、しばしばおれは朝になるまで帰らなかった。ある朝、帰ってきたらドアにはチェーンがかかっている。母がおれを締め出したのだ。そんなことをしてもなんの意味もないのだが、いま思えば母もどうしていいのかわからなかったのだろうと思う。そのころになるまで、母とは暮らしていなかった。おれはマンションの階段から緊急用のハシゴを登り、屋上からベランダに降りて自分の

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        • 音楽を考えるために
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          投手戦

          「野球でさ、9回までやって延長戦いくじゃん」と友人は言う。昨日の夜に見に行ったバンテリンドームナゴヤの試合のことを言ってるのだろうか。 「で0-0なの。投手戦。試合時間も早くてさ、まだ20時半とか」 「メジャーリーグみたいだね。いい試合なのか」 「そう。引き締まった展開でさ。結局引き分けで決着がつかない。でもさ、それって何も起きてないってことじゃん?」 「あーなんかツイッターで見たことあるな。サッカーの話だけど」 「うん?どういうこと?」 「いやなんかサッカー嫌いな人がさ、

          待てば海路の日和あり

          子供の頃はなにもわかっていなかった。だれでもきっとそうだろう。だからおばあちゃんの家に行く時に、ひとりでバスに乗るだけで褒められた。母は働く人だったから、よくおばあちゃんの家に行った。あのころ通り過ぎたバス停の名前はもう忘れたけど、バスの窓から見えた景色は覚えている。次の停留所が車内でアナウンスされるたびに、自分の降りる場所の名前を聞き逃さないようにしていた真剣さも。 とくに忘れられないのは、おばあちゃんの財布からお金を盗んだことだ。おばあちゃんはよく昼寝をする人だった。い

          待てば海路の日和あり

          豆腐

          豆腐の味はほんとうに不思議だ。味がないといえばないのだが、どんな料理に入っていても他の味と混じりあわない。いつも必ず豆腐の味がする。冷奴に醤油をかけたら、豆腐と醤油の味が同時にするだけだ。みそ汁に入れても味噌と豆腐の味は別々に感じる。焼肉をタレにつけ白米にのせて食べるおいしさではない。玉ねぎやじゃがいもをカレーに煮込むのとはわけが違う。豆腐はいつも豆腐でしかない。 彼女とつきあって徐々に学んだことは、リダンダンシーを恐れないことだ。冗長さ。同じことの繰り返し。「つらい」と言

          梱包

          ぎゅうぎゅうに押し込んでもどうしてもぽっこり膨らんでしまう。なんとか60サイズ以内にしたいのだが、膨らんだ部分がどう測られるかで微妙だ。見た目的にも丘のように膨らんだ段ボールが歪なかたちで、受け取った時の相手の印象がよくないかもしれない。中のパーカーとハーフパンツを同じビニールにいれたのが失敗だった。つまらないところでケチをした。もう一回ほどいて入れ直すか、いっそ別の箱を用意するか。 ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのRide Into the Sunを聞く。ボーカルなし

          フィードバック

          風景画の横には、縦横にグリッドが引かれた同じ絵の複製があった。構図をわかりやすく説明するためのものだ。色はついていないが、なるほどこれはわかりやすい。絵の中の対応関係が手に取るように理解できた。川の向こう側にある並んだ木の頂点と、こちら側にいるしゃがんだ男の子の赤い帽子。魚を捕る竿のような長い棒を傾ける角度の延長線上に、小道の柵が並んでいる。その先には発達した雲が広がり、いま晴れている空に訪れつつある嵐の気配を伝えている。突然だれかが声を上げた。ひどく腰の曲がった老人が連れの

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          唯物論

          「あなたさっき変な番号で電話かけてきた?」 「かけたよ。変な番号というかそれがおれの電話番号だ」 「知らないけど」 「おまえが登録してないだけだろう。いつだったか電車の中でおれは言った。おまえが嘘の番号を教えた時だ」 「なんか言ってたね。あの頃はわたしも元気だった」 沈黙。 「なんで電話なんかしてくるのよ」 「LINEじゃなくて電話なら起きると言ってただろう。弟からの連絡もそれで取れたって」 「起こそうとしてたのか。やめろ」 「まだ怒ってるのか」 「わからないの?」 「でもな

          ラーメンと友人

          雨の日に友人とふたりで家の中にいた。友人が腹が減ったと言ったが、うちには何もない。ラーメンくらいあるだろうということで、たしかにラーメンがあった。冷蔵庫を漁ると、ネギもあった。意外と探せばあるものだ。友人が台所に行きラーメンをつくる。 友人がまな板を使ってネギを切る音と、屋根のひさしから垂れて落ちる雨だれの音。畳のうえに寝転がりながら、おれはそれをひとつのアンサンブルとして聞いていた。 雨だれの音とネギを切る音は、それぞれ無関係な現象だ。おれが勝手にひとつの音楽にしている

          ラーメンと友人

          20240320

          さて明日の準備も終わった。今日はなにがあったか。特に何もないか。風呂に行ってサウナに入った。サウナの中で相撲を見た。昨日美術館に行って、横浜トリエンナーレ、腰を痛めた。立って作品を見るのは疲れる。 富山妙子をまとめて見れたのが良かった。ポープLなんて人も面白かった。ああいうユーモアのある人はいい。今は配信をBGMにしてこれを書いている。音楽をかけながら書くことは出来ないのに、ゲーム配信ならできるのはなぜだろう。だがもうすぐ配信も終わるらしい。 マルクスについて考えていた。

          20230608 ひかりのうま noobtasticのプログラム

          以下の順で演奏しました。プログラムは楽譜のようなものとしても使いますが、演奏の度に変更することがあります。なお夏の夜の声は時間がなかったため演奏しませんでした。 かっぱじゃなくてらっぱ 1.TwitterやYouTube、iPhoneのアプリ等でインターネットを利用して、その時間に流れている音を使いなさい。できるだけ簡単に行うこと 2.人々の祈りの声を使いなさい 3.ひとつひとつの雨粒の音を聞き分けることはできない。雨の音は全体としてある。そのように演奏しなさい。かっぱはお

          20230608 ひかりのうま noobtasticのプログラム

          20230311

          スーパーでチンご飯のサイズが小さくなってる。アーモンドチョコの容量も少なくなった。カレーせんは枚数が減った。こう何もかも物を小さくしてどうしたいんだろうか。頭がおかしくなりそうだ。狂った世の中という感じ。 WBCの中継で王貞治が中国には大きな野球を目指してほしいと言っていた。目先のことではなく10年20年先を見据えてほしいと。そうだ、いまこそ大きなものを目指すべきだと思う。 音楽も大きな音楽がいい。時代を無視するのじゃなくて、意識はしながら違うことをする。それが反時代的と

          20230224

          Twitterで1993年のヒット曲集を見た。それをSpotifyでリストにして、ランダムに聞いている。こうして聞いてみると知らない曲も多い。中でもENIGMAは奇妙で印象深い。こんな変な音楽があったのか。93年なんて自分の年だと思っていた。 曲自体は聞いたことがなくても、ミュージシャンの名前や、音色、というか音のテクスチャー、そういうのからなんとなく雰囲気は知っているという感覚がある。懐かしいとは違う、えもいわれぬ感慨だ。 曲自体、といったが、音楽の、このなんとなくの雰

          02220223

          こわれゆく女。変わった間取りの部屋だ。寝室なのかリビングなのか食堂なのか。そのどれにもなる。人もあっちに行ったりこっちに来たり。子供たちと二階と一階でおいかけっこ。眠りと覚醒の時間もめちゃくちゃ。精神の状態を表す舞台として、この部屋でなければならないのだろう。ジーナ・ローランズの演技のように、不意に変化する境界のない部屋。だから最後に夫婦で部屋を片付けるシーンが美しく感じる。