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灯籠流しはアートセラピー?幻想的な光景が人に感動を与える理由【文化に見るアートセラピー】

昔の写真を振り返っていたら、メモリアルデーに開催されるハワイの灯籠流しに参加した時の写真を見つけました。

メモリアルデーとは、戦没将兵追悼記念日という兵役中に亡くなったアメリカ兵を追悼する国民の祝日。日本でいうお盆のような日に近いでしょうか。毎年、5月最終週月曜日がその日と制定されています。

毎年ハワイ・オアフ島ではこの祝日に、日本の真如苑が主宰する灯籠流しのイベントがあります。当初は日本人が中心だったものの、今では現地のハワイの人たちも多く参加する5月の風物詩になっているようです。

読者のみなさんの中には、人生のどこかで灯籠流しを体験された方もいるでしょう。そして、灯籠流しの幻想的な情景に心が動かされた思い出を持つ方も。でも、それはなぜなのでしょうか。

今回の記事では、灯籠流しの心理的効果をアートセラピーの視点と絡めて紹介してみようと思います。


灯籠流しとは?

灯籠流しとは、火を灯した灯籠をお盆のお供物と一緒に川や海に流す行事。

その由来は、お盆の時期に帰ってきた死者の魂を送り出すための『送り火』のような役割を果たしていたと考えられているそうです。

水害に遭われた方の供養や、戦没者の慰霊など平和を願うための思いも込められて行われている所もあるそうで、お盆の時期を中心に日本の様々な地域で見られる行事です。


灯籠流しは、人の思いを視覚化した体験

川や海に流す『灯籠』は、亡くなった先祖や家族の魂を視覚化する役割を果たしていると言えるでしょう。

それは、メタファー(暗喩的意味を持つもの)の機能を果たしていて、

1)思いを込めて灯籠を作ること
2)川や海の水面に浮かべ、自分の手から離すこと
3)徐々に水流や波の力を借りながら、遠ざかっていく様子を眺めること

亡くなった方への思いを視覚化(1)し、気持ちを自分から切り離すことを体現(2)、そして、離れた思いがいずれ消えていくことを視覚化(3)する一連の流れ。

この全ての過程を実際に体験することは、亡くなった方への思いを自分から切り離す行為を具体化・外的化する役割を果たします。そしてそれは、気持ちの整理へと自身を導いてくれます。

灯籠流しは、そんな心理的なカタルシス(浄化)効果を視覚表現に形どった、とても美しい文化、行事なのだと言えるでしょう。


グリーフに効果のあるクリエイティブのパワー

さらに、クリエイティブ・創造的な芸術活動には、誰かを亡くし、様々な辛い気持ちが混在した状態(グリーフ)を癒してくれる効果も。

動作や視覚など体全体を使って感情を放出させる、そのようなクリエイティブな創作表現活動を行うことは、本来の自分の姿を思い出させてくれるリマインダー的な要素も、そして、自身の内在する力を通して気持ちを癒してくれる機会を与えてくれることが研究からも理解されるように。


グループアートセラピーの効果も

この灯籠流し、一人で行うことも出来ますが、集団で行うからこそのメリットもあるのです。

例えば、同じ思いを抱えている人たちが同時に同じ体験をするのは、相互に理解しサポートしあえるようなそんな共感的で居心地の良い感覚を人に与えます。

思いが込められた灯籠の、一つ一つの光が、何百何千と集まり、水の流れに任せたペースでゆっくり徐々に遠くに流れていく光景は、物質的にただ集団となった光が漂う様が綺麗というのとは違い、人々の様々な思いが含まれた特別な意味合いを持つ情景(人の意識を含んだ景色)となるのです。

同じ体験を同じ思いで同時に同じ空間で共有出来る誰かがいる、という条件は、共感が癒しに繋がる人間にとって、大きな癒し効果があります。これは、アートセラピーをグループで行うことの利点とも繋がります。


おわりに

ハワイの灯籠流しは、日系人の多い、そしてパールハーバーのあるハワイの土地で、戦没者慰霊の日であるメモリアルデーに行われます。そのため、戦没者の家族や軍人の遺族も多く参加し、戦争に対する思いや平和への願いも深く込められた行事となっています。

なんでこんな綺麗な行事を生み出せる人間が、別のところでは深く争い傷つけ合うこともできてしまうのか。

その大きなギャップというか、人間の為すことの幅の広さに思わず感傷的になるのでした。

アートの人間の心に与える影響力の大きさについて、これからも文化とアートセラピーとを絡めた内容を紹介予定です。お読みいただきありがとうございました。

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