見出し画像

キャパシティビルディング講座2024|レポートVol.05:思考を整理し、仲間同士で自らの活動を価値づける言葉を探す

ファシリテーター/アドバイザーによる中間ディスカッション

2024年11月22日(金)に行われた「中間ディスカッション」の回では、ファシリテーター/アドバイザーの小川智紀(おがわ・とものり)さん、若林朋子(わかばやし・ともこ)さんと一緒に、4回の講座を振り返ります。後半は受講生同士のディスカッションを通じて、お互いの悩みやそれらに応答する改善策等を共有しながら、それぞれの課題の深掘りや思考の整理に取り組みます。



今回はファシリテーター/アドバイザーの二人が講師に。左が小川智紀さん、右が若林朋子さん。

今までの講座をキーワードで振り返る

前半のディスカッションでは、アドバイザー/ファシリテーターの二人が各講座後の受講生アンケートからピックアップしたキーワードを切り口に、第1回〜第4回講座を振り返ります。各講座で学んだ内容や疑問、受講生同士の感想や考えなど、活発に意見を交わし、それぞれの課題や活動に引き寄せていきます。

回ごとに準備されたパネル状のキーワード群。一枚ずつパネルをめくりながらディスカッションを行います。

「共感を呼び、支援を引き出すためのヴィジョン・ミッション活用とファンドレイジングの手法を磨く」というタイトルで実施した広石拓司さんの講義で注目を集めたキーワードは「必要なお金」。ある受講生は「作品でお金を稼ぐことに罪悪感を持つ人が多い。それで生活ができずに辞める人も多く、持続可能な業界にならない」と話し、だからこそ広石さんのファンドレイジングにまつわる話が目から鱗だったと言います。それに対して、ファシリテーター/アドバイザーの若林さんが調査事例を交えて話します。

「アーティストの資金調達に関する調査によると、芸術のなかで最も支援を得ている分野は、音楽。音楽が協賛しやすいジャンルであるという以上に、支援依頼を一番多くしていることが集計結果でわかりました。お金は待っていても向こうからはやってこない。『お金が苦手』、『お金の話ははしたない』と思わず、経営者目線でお金について考えて行動を起こすことが結果につながると思います」と資金調達への向き合い方が示されました。

第2回「活動の意義を伝える評価軸を磨く」と第3回「ロジックモデルを活用し改善・変革していく術を磨く」では、源由理子さんと共に理論と実践の両面から「評価」について学びました。

ワークショップで取り組んだ協働型プログラム評価を自団体でもやりたいと思った時に、組織内の上長をどのように巻き込んでいくかという、現実的な問題と板挟みになる受講生も。ある受講生は、講義の参考文献から「ピアレビュー」という評価手法を知り、同じ悩みを抱える相手と互いに評価する可能性を感じたと言います。

これを受けて、若林さんが改めてピアレビューについて解説。「ピア」とは仲間や同僚という意味で、ピアレビューは同類の他者による相互評価のことを言います。同じ悩みを抱えている仲間からの評価だと受け入れやすいという心理や、自分たちの活動を異なる言葉で言語化される利点効果、そして他者を評価することが写し鏡となって自己内省できる効果もあり、「アート界にお勧めの評価手法です」というコメントも。小川さんからも「営利団体だと同業者はライバルだけど、非営利の業界は同じことを目指す仲間。愚痴を言いながらも、互いの検証や評価に繋げられる」と頷き、受講生が見つけた可能性に共感しました。

講座を振り返りコメントする受講生の松田愛子(まつだ・あいこ)さん。

また、別の受講生からは、同一フォーマットで複数の団体を同じ軸で評価するための「事務事業評価」に関する悩みも共有されました。「フォーマットの変更はできなくても、アート事業の評価にあった指標を工夫することはできるのではないか」と若林さんが応えます。

「例えば『この事業を通じて新しくコンタクトをとった人数』や『新たに協働を始めることができた団体や人の数』など、事業による変化を言い表すことができる動的な数字は検討できるかもしれません。芸術文化の性質にあった動的な数字の評価指標を探したいですね」

その他にも「ファシリテーターが見つからない」「ファシリテーション能力に自信がない」という声も挙がりました。若林さんは「ロジックモデルの完成よりも、むしろ話し合うことが大切。ファシリテーションの正解を見つけるのではなく、やりながら上手くなっていければ。ファシリテーターを外部から招いても良いですね」と、仲間との実践を促しました。

第4回は久保田翠さんが講師を務めた「実践者との対話を通じ活動の推進力を磨く」。重度知的障害を持つ長男・たけしさんの誕生をきっかけに、アートの考え方をベースにし、障害の有無や国籍、性差などのあらゆる違いを乗り越えて、共生社会を目指すアートNPOを運営している久保田さん。前向きなコメントを残した受講生が多かったようです。

久保田さんの講座から挙がったキーワード。実践者として共感する声も。

「安定収入」というパネルを開いた議論では、福祉や教育など異なる業種と芸術分野をうまく繋ぎ合わせることで、例えば福祉施設を作るといった新たな可能性が開けるかもしれないと、小川さんが展開します。

「普段は障害者地域作業所として運営しながら、実は稽古場としても使われているというところもある。アートNPOでも複数分野に跨り活動しているところもいっぱいあります。他業種の制度を知って組み合わせることに価値があるのではないか」

福祉や教育など異なる分野と芸術文化を繋ぐ可能性について話す小川さん。

また、他分野で注目されている非営利団体のロジックモデルや寄付の集め方を参考にしてもよいというアドバイスも。視野を広げて活動の可能性を考えてみることを勧めました。

あらためて考える。「非営利」とは?

各回の振り返り後、若林さんから「非営利とは何か」という短いレクチャーがありました。「非営利」とは、利益をあげることは当然OKであるものの、利益の最大化が一番の目的ではなく、最終的な収益を関係者で分配せずに次年度の活動に充当することをいいます。非営利を表す「NPO」は、“Non Profit Organization”とされ、収益を上げない無償ボランティアと誤解されがち。むしろ”Not for Profit”(収益のためではなく)がふさわしいと言います。「さらにその後のbut for 〜、つまり『何のためか』を考えてほしい」と解説が続きます。

営利/非営利について解説する若林さん。受講生の疑問にも応えます。

では「非営利芸術」と「商業芸術」はそれぞれどのような特徴があるのでしょうか。複製・再生産の可否や需要・供給バランスといった複数の要因から整理することができます。自分の活動がどこにあたるのか分析し、活動の目的や意義を伝える言葉を持っておくこと、市場経済になじまない非営利芸術の特性を理解し、公的支援の必要性を説明できるようになっておくことが大事です。若林さんは、「最近では“非営利型株式会社”を謳うところも出てきたり、一般法人でも非営利型と一般型があったりなど、営利/非営利の区別が曖昧になってきている。どちらが良い、悪いではなく、自分の活動の意義や価値を言語化するためにそれぞれの性質や違いの認識が必要。例えば、非営利芸術の価値を伝えるために営利分野で馴染みのある資本という概念を使ってみる。これまで社会資本といえば上下水道や道路などのインフラがイメージされてきましたが、芸術文化も大切な社会資本であることを伝えるために私は『社会文化資本』という言葉を使います」と話し、説明する言葉の重要性が強調されました。

仲間同士で考える、自分たちの「公共的な価値」

後半は、これまでのアンケートから抽出したディスカッションテーマを、小グループで話し合う時間です。一つ目のテーマは、「アートを続ける意義や意味を、どのように公共のなかに位置付けるのか。あるいは、それは助成金を申請するための方便でしかなく、実質的にはどうでもよいことなのか」。このコメントを寄せた受講生は、「助成金の申請書を書く時に、自分の活動に公共性をでっちあげているような罪悪感がある」と話します。

このテーマに対して、さまざまな角度から意見が出てきました。「さまざまな人でもアクセスできる公演を行うことや、作品の主題を工夫すれば事業に公共性を見出せるのでは」、「明日の活力をもらうために演劇を見に来てくれる人もいる。それもすごく公共性があると思う」──。すでにある事業の公共的価値を引き出すような対話が続きます。

受講生が話し合う様子。

一方で「方便の度合い」という面白いワードも生まれていました。「助成金を得やすい活動に自分の活動を合わせる人も多い。そんな状況でも、やりたい表現をある程度続けられる団体もある。事業を続けられるか否かは、方便の度合いの大きさじゃないか」と、罪悪感を持たずに折り合いをつけようという話も出ていました。

二つ目のテーマは「課題設定・解決・行動を行う上で、自らの利益と、他者や社会への利益をどのようなバランスで、もしくはどのように考え方を整理して進めるべきか」。現代音楽や伝統音楽に携わる受講生からは、自分達のためにやっている活動をどのようにして社会的な利益へと繋げるか、という質問が挙がります。それに対して、「さまざまな芸術文化のジャンルがあるということは、社会において多様な選択肢を維持してくれているということ。伝統の継承も歴史的な視点でみれば大きな社会的利益ですね」と若林さんが話すと、小川さんも「多様性という考え方が適用できるかもしれないです」と応答。「議論のなかでは色々な反対意見もあるかもしれませんが、一つひとつ説明していければ良い」と、受講生に言葉と思考を磨くよう伝えていました。

「まだまだ話し足りない!」、そんな雰囲気で終わった中間ディスカッション。仲間同士の対話を通して、それぞれの悩みや難しい課題が少しずつ解きほぐされたように見えました。

次回は中村美帆さんによる「『文化的な権利』を端緒に芸術文化と社会の相関を捉え直す技を磨く」。「文化権」という概念を用いて、公共文化政策の必要性や芸術文化の社会的価値を体系的に学びます。

※文中のスライド画像の著作権は講師に帰属します。

講師プロフィール

小川智紀(おがわ・とものり)
認定NPO法人STスポット横浜理事長、社会福祉士。1999年より芸術普及活動の企画制作に携わる。2004年、STスポット横浜の地域連携事業立ち上げに参画。2014年より現職。現在、アートの現場と学校現場をつなぐ横浜市芸術文化教育プラットフォーム事務局、民間の芸術文化活動を支援するヨコハマアートサイト事務局を行政などと協働で担当。またNPO法人アートNPOリンク理事・事務局長として、厚生労働省障害者芸術文化活動普及支援事業の連携事務局を担当。NPO法人ジャパン・コンテンポラリーダンス・ネットワーク理事。NPO法人子どもと文化全国フォーラム理事。「子ども白書」編集委員。愛知大学、学習院女子大学院非常勤講師。

若林朋子(わかばやし・ともこ)
プロジェクト・コーディネーター/立教大学大学院社会デザイン研究科 特任教授。デザイン会社勤務を経て、英国で文化政策とアートマネジメントを学ぶ。1999〜2013年(公社)企業メセナ協議会勤務。プログラム・オフィサーとして企業が行う文化活動の推進と芸術支援の環境整備に従事(ネットTAMの企画・運営等)。2013年よりフリーランス。事業コーディネート、芸術環境の整備支援、調査研究、助成プログラムの設計、研修、自治体の文化政策やNPOの運営支援等に取り組む。2016年より社会人大学院で社会デザインの領域で文化、アートの可能性を探る。

編集協力:株式会社ボイズ
記録写真:古屋和臣
運営:特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)


事業詳細

キャパシティビルディング講座2024
~創造し続けていくために。芸術文化創造活動のための道すじを“磨く”~

東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」
東京芸術文化相談サポートセンター「アートノト」は、東京都内で活動するアーティストやあらゆる芸術文化の担い手の持続的な活動を支援し、新たな活動につなげるプラットフォームです。オンラインを中心に、専門家等と連携しながら、お悩みや困りごとに対応する「相談窓口」、活動に役立つ情報をお届けする「情報提供」、活動に必要な知識やスキルを提供する「スクール」の3つの機能で総合的にサポートします。


アーツカウンシル東京

世界的な芸術文化都市東京として、芸術文化の創造・発信を推進し、東京の魅力を高める多様な事業を展開しています。新たな芸術文化創造の基盤整備をはじめ、東京の独自性・多様性を追求したプログラムの展開、多様な芸術文化活動を支える人材の育成や国際的な芸術文化交流の推進等に取り組みます。