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【アートノトお悩みお助け辞典】頁10.活動場所の探し方・使い方 ③演劇編

第一線で活躍する各分野の専門家にご協力いただき、芸術文化活動に役立つコラムや情報をお届けする「アートノトお悩みお助け辞典」。活動場所の探し方・使い方について第三弾のコラムは、演劇の活動場所についてです。
学生劇団から商業演劇まで幅広く制作関連の仕事でご活躍されている坂本ももさんにご執筆いただきました。


はじめに

 今回コラムのご依頼をいただき、参考資料として【アートノトお悩みお助け辞典】頁7.活動場所の探し方・使い方 ①舞踊編 を読んだところ、「やべー! ぜんぶここに書いてある!」とたいへん焦りました。私もここに書かれているような考え方で場所を探し、掲載されているようなウェブサイトで他劇団の動向を調べ参考にし、稽古場や劇場を探すと書こうと思っていました。
 舞踊も演劇も、そんなに違いがないようです。書くべきことはもう林慶一さんがほとんど書いてくださっていて、「うんうん、そう、そうだよね〜」とうなずきの連続で、あらためて勉強になりました。林さんありがとうございます! みなさんまずは ①舞踊編 を読みましょう!!
 同じようなことを演劇編として書いても仕方がないので、私のコラムはもう少し演劇創作全体に視野を広げて、制作者の仕事の紹介からはじめます。一見すると場所から離れるように感じられるかもしれませんが、場所を得るための○○というふうにぜんぶ繋がっている気もします。どうぞお付き合いください。

制作の仕事〜作品を公演にする〜

 私の職業は劇団のプロデューサー/制作ですが、ひとことで表すと「作品を公演にする仕事」だと思っています。作品を公演にするために、あらゆることを決めていきます。ざっと書き出すと、時系列でこんなかんじ。

  • 企画を立てる

  • 座組を作る

  • スケジュールを組む

  • 予算を組む/資金調達

  • 公演詳細(日時・場所・料金・予約方法など)を決める

  • 広報/宣伝

  • チケットを売る

  • 稽古・創作に参加する

  • 観客を迎え入れる

  • 決算・支払いをする

  • 今後のためにアーカイブする

 もちろんこれらすべてを一人でやらなくてもいいです。主宰である作家や演出家や俳優が主導権を握る集団もあれば、チーム全員がフラットな関係で制作業務を分担するというような劇団もあるでしょう。規模が大きい商業演劇や制作会社、劇場制作だと、制作(現場進行など)/広報(宣伝)/票券(チケット)/経理(お金)などそれぞれ担当者が異なり、より専門性の高い仕事がなされています。
 大事なのは、場所を含むこれらの要素が関係しあって公演が成り立つイメージを持つことです。他の要素に要請されて場所が決まったり、場所の影響を受けて他の要素が変化したりします。

企画の立ち上げ〜5W1Hを考える〜

 公演に向かう際、いつどうやって上演場所を決めればいいのでしょうか。企画を立ち上げる時は、まず5W1Hを考えますが、それぞれの優先順位によって自ずと場所が決まってきます。

5W1H
● 
When:いつ/日程
● What:何を/内容
● Where:どこで/場所
● Why:なぜ/目的
● Who:誰が/座組
● How:どのように/形態

企画の立ち上げ~5W1Hを考える~

<内容と会場が最優先のパターン>

 やりたい表現に照らし合わせて、この場所でなければならないと導き出される場合。アクティングエリアの広さや客席の形状、野外や劇場以外のスペース(ライブハウス、映画館、ギャラリー、民家)など、特殊な鑑賞体験が場所を要請します。

<座組と日程が最優先のパターン>

 どうしても参加してほしい俳優やスタッフがいる場合、その人物が参加できるスケジュールに合わせて公演を打たなければならないので、日程が先に決まり、その日程で予約できる会場を探します。

<明確な目的があるパターン>

● 利益を出す公演にしたい場合

 利用料金が安価で収益を出せる場所を探します。
 かつて自劇団で赤字を出してしまった際には、赤字を回収する目的で公演を打ったことがあります。某ギャラリーで12日間、20ステージ。ギャラリーは比較的劇場より安価で、美術や照明をフルスペックで仕込むことが広さや機材的に難しいため、スタッフも最低限ですみます(私、照明オペをやりました...)。当時満足と言える金額のギャランティは払えていないので見えない赤字はありつつも、前回公演の赤字を補填することには成功しました。(しかし赤字補填を目的に公演するのは虚しさもあるのでオススメしません!)

● 動員数を上げてステップアップしていきたい場合

 数年後の歩みを見据えて動員を伸ばしていくことを目標にする場合、客席数を意識して会場を選びます。ただ広い会場をというだけではなく、劇場のブランディングがしっかりしていて、顧客がついている劇場を選ぶとプラスになります。それはつまり、他にも面白い作品が上演されている場所ということです。過去の状況がわかるように、劇場はアーカイブを充実させてほしい! と常々思っています...。
 劇場の公式ウェブサイトや公演情報サイトで情報を得る他に、一定の評価を受ける基準を知るために、助成金の採択状況をチェックするのも有効です。どの団体が採択されているのか、どのくらいの規模感で、どこでやる演目か、傾向を見ることで自分たちの活動と比較して、少し先の未来を想像しやすくなります。

● 拠点外に出かけたい場合

 拠点外での公演は、現地の劇場や受け入れ団体から上演料をいただくこと(いわゆる買取り公演) で安定します。そうではない手打ち公演は収益としてはかなり厳しいですが、その土地でしか得られない出会いや経験があります。まずはフェスティバルのフリンジ企画や、レジデンスの公募、上演前提の戯曲賞など、一般公募に間口が開かれて多少補助が出るものにチャレンジしてみてください。
 ツアーを見越したミニマムな作品をあらかじめ作っておくのもオススメです。できるだけ運搬を少なく、座組の人数も少なく、予算を抑えて小規模でもしっかり面白い作品をストックしておけると持ち回りしやすく、急な依頼にも対応できます。

● 鑑賞者を想定している場合

 その街に集まりやすい属性(世代や性別や職業など様々)があったりするので、作品に合わせて鑑賞者を想定して場所を決めることも有効かもしれません。
 これは結果的に発見したことでしたが、下北沢と吉祥寺はライブハウスや古着屋が多いからか、ロロ(※1)の音楽劇と相性が良かった印象です。想定以上に若者の観客が来場し、当日券の売れ行きもかなり伸びました。

※1 劇作家・演出家の三浦直之が主宰を務める劇団。2009年結成。古今東西のポップカルチャーをサンプリングしながら既存の関係性から外れた異質な存在のボーイ・ミーツ・ガール=出会いを描き続ける作品が老若男女から支持されている。15年〜「いつ高シリーズ」では高校演劇活性化のための作品制作を行うなど、演劇の射程を広げるべく活動中。主な作品として、『ここは居心地がいいけど、もう行く』(20年)、『BGM』(23年)、『オムニバス・ストーリーズ・プロジェクト』など。

 上記いくつか例を書きましたが、他に場所を決める際に大きく影響してくるのが、助成金や補助金などの申請サイクルです。助成金に申請する公演は、1年以上前の〆切に間に合うように計画を立てておかなければならない場合があります。
 また、劇場によっては利用申請の〆切が設けられているところがあります。2年先まで予約できないといったケースもあるので、使いたい場所の状況を調べて見通しを立てておく必要があります。

活動場所の拡大解釈〜ネット空間での振る舞い〜

 上演会場以外の活動場所として、ネット空間があります。劇場での上演が叶わなかったコロナ流行期以降、配信やデジタルアーカイブの重要性が高まり、映像鑑賞の環境を整えることが、業界としてスタンダードになってきました。
(創作の場・稽古場については林さんが書いてくださっているので、読んでください!)

配信やデジタルアーカイブについて、詳しくはぜひ下記を参照してください。

 映像での鑑賞体験は生の観劇とはまた別の豊かさで、これまで様々な理由で劇場に来られなかった人が舞台芸術に触れられるというメリットがあります。日本国内だけでなく、海を超えて作品を輸出することもできます。
 昨年、韓国から来日して範宙遊泳(※2)のワークショップに参加してくれた学生さんがいたのですが、YouTubeで作品を観たのがきっかけとのことで驚きました。彼はその後、セウォル号沈没事件(※3)を題材にした韓国の演劇と範宙遊泳の作品を比較研究して、災害演劇という切り口で卒業論文を書き、先日書き上げた論文を持って観劇に来てくれました。これは、多言語翻訳の映像配信が新しい出会いを生み出してくれた一例です。

※2 2007年より、東京を拠点に海外での公演も行う演劇集団。
 現実と物語の境界をみつめ、その行き来によりそれらの所在位置を問い直す。
生と死、感覚と言葉、集団社会、家族、など物語のクリエイションはその都度興味を持った対象からスタートし、より遠くを目指し普遍的な「問い」へアクセスしてゆく。
 近年は舞台上に投写した文字・写真・色・光・影などの要素と俳優を組み合わせた独自の演出と、観客の倫理観を揺さぶる強度ある脚本で、日本国内のみならずアジア諸国からも注目を集め、マレーシア、タイ、インド、中国、シンガポール、ニューヨークで公演や共同制作も行う。
 『幼女X』でBangkok Theatre Festival 2014 最優秀脚本賞と最優秀作品賞を受賞。
『バナナの花は食べられる』で第66回岸田國士戯曲賞を受賞。
※3 2014年に韓国の大型旅客船「セウォル」が沈没し、乗員・乗客の内299名が死亡した事件。

 ネット空間での活動は、作品配信だけに留まりません。きちんと更新されているウェブサイトがあり、少しでも気になった人が情報にアクセスできるようにしておくことは、何よりも活動の発展と継続に繋がります。SNSでこまめな発信も必要ですが、ウェブサイトの充実にもぜひ目を向けてみてください。

人と人が繋ぐ縁

 活動初期の当時、活動場所を探すということは、誰と出会うか、ということでした。今後利用したい劇場の職員や、先行世代のアーティスト、批評家やライター、演劇以外にも広がりが出るように意識して異ジャンルの文化人を招待して、まず観て知ってもらうところから。来場されたらご挨拶して、感想を聞いて、また次も来てもらえるように。社交を大事にしてきました。
 そして何よりも、「この劇場でやりたい」「こういうことがしたい」「これに困ってる」「助けてほしい」と、先輩や同業者たちに大きい声で伝えてきました。意外と応えてもらえる気がします。演劇は集団創作なので、当たり前ですが一人きりでは作品を作ることができません。コミュニケーションに前のめりで、じょうずに他人を頼って巻き込むスキルがけっこう重要です。このスキルは、他人と関わることで磨かれていくでしょう。
 いつかあなたとも出会えますように!

(坂本 もも)


【アートノトお悩みお助け辞典】活動場所の探し方・使い方
①舞踊編
②美術編
③演劇編


執筆者プロフィール

坂本もも[合同会社範宙遊泳代表・プロデューサー/ロロ制作]
1988年生まれ、東京都出身。
日本大学藝術学部在籍中より、学生劇団から商業演劇まで幅広く、制作協力や演出部などを経験。演出助手や制作助手を経て、2009年〜ロロ、2011年〜範宙遊泳で劇団運営と公演制作を務める。
2017年に出産し育児と演劇の両立を模索中。
特定非営利活動法人舞台芸術制作者オープンネットワーク(ON-PAM)理事。​
一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク(JAPSN)理事。
多摩美術大学 演劇舞踊デザイン学科非常勤講師。
創造環境整備や人材育成に関心が強く、「舞台芸術におけるハラスメント防止ガイドブック(ver1.0)」(一般社団法人緊急事態舞台芸術ネットワーク開催部会発行)の執筆に携わる。