
【創作】チョコレート屋さんで【スナップショット】
このフォンダン・ショコラは美味しい
あつあつの溶けたチョコレートが
まろやかでケーキに染み込んでくるみたいだ
本当だね
こっちのココアも濃厚な味で
美味しいよ
お土産を買うだけじゃなくて
こういう風に
カフェが併設されているのも
いいね
そうだね
窓からこの街の通りを見ながら
美味しいチョコレートを食べる
冬の景色っていいな
街が薄い水彩画で描かれている気がするの
その薄い色が
濃厚なチョコレートと
響き合っている感じがする
でも
チョコレートって不思議な食べ物だね
どうしたの?
急に
だって
カカオ自体には苦みがあるのに
そこに砂糖を混ぜて
お菓子にしたんだから
こんな変てこなお菓子って
あまりないんじゃない?
どうして砂糖を入れようと
思いついたんだろう
考えてみると
不思議だね
チョコレートの原料のカカオは
元々はトウガラシやトウモロコシを
混ぜて、液状にした滋養強壮の
薬のようなものして
飲んでいたようだね
それがはちみつや砂糖、
バニラやシナモン
で味付けした甘いものになった
今のココアみたいなものだね
そうだね
それから固形の
今のチョコレートが出来た
それが一気に広まったんだね
苦いものに甘いものを入れてみよう
っていう発想が面白いな
元々は栄養を補うための薬だから
その苦みを和らげようという
意図があったのかもしれないね
でも薬としてはいいけど
お菓子だったら
甘いものをもっと甘くした方がいいじゃない?
どうしてこんなにチョコレートは
メジャーになったんだろう
もしかしたら
その苦みがかえってよかったのかもしれない
人は多分
甘いだけのものには案外耐えられない
甘さの中にどこか優しい風味があったり
あるいはほんの少しの苦みの中から
甘さが溢れてくる方が
より甘味に元気を貰えるのかもしれない
甘さに深みを与えてくるような
別の味がきっと必要なんだ
コーヒーだってそうだろう
本当だ
僕らの人生のようなものかも
しれない
きっと甘いだけの人生なら
本当の甘さを味わうことはできない
段々と麻痺して甘味を感じる事が
出来なくなるんだ
苦しみや痛みの苦みと
それを和らげるだけの
喜びに満ちた甘さがあるから
深い味わいの人生の美味しさを
感じることができるんだろう
そうかもね
それってきっとバランスなんだろうね
苦みが強すぎたら
喜びを味わえないし
多分カカオみたいに
元から元気が出るようなものでないと
砂糖とうまく結びつけられない
ピーマンに砂糖をかけても
お菓子にはならないように
ただ苦みと甘さを味わうだけじゃ
ダメなんだね
カカオみたいに元気になれるような
前向きな人生に
苦みと甘味が加わることで
人生の美味しさを味わえるんだね
だから私は前向きでいようと思う
苦さと甘さ
苦しみと喜びを
結びつけられるように
そうだね
そしてカカオが
コーヒーと違って固形になったのは
粘り気があって
柔軟に形態を変えることが
できたからからだろう
形を変えても味わいが増すような
そういう存在だからこそ
多くの人に受け入れられた
最初は元気が出る
少し苦い豆だったものが
粉になって甘未を加えて
元々あった粘り気によって
固体になって多くの人に届く
確かに
それは
最初は一人の頭の中に
描いていた妄想が
漫画や小説の形になって形となり
更にはアニメや実写映画になって
形を変えて多くの人を巻き込んで
より多くの人に届いて
一人一人の人生を変えていくようなもの
そこにはきっとチョコレートのように
甘いだけじゃない深い味わいと
元気になる力があって
恐らく僕たちの人生を豊かにしていくのは
そういうものなんだろう
きっとそうだね
ねえ、今度の
結婚式に出すケーキは
チョコレートにしようよ
そういう風に説明をつけてさ
チョコレートにするのは賛成だよ
説明をどうするかは
まあ
来週プランナーさんと
打ち合わせようか
(終)
※【スナップショット】では
ワンシチュエーションでの
短いダイアローグや詩を
不定期に載せていきます。
※過去の「スナップショット」置き場
今回はここまで。
お読みいただきありがとうございます。
今日も明日も
読んでくださった皆さんにとって
善い一日でありますように。
次回のエッセイや作品で
またお会いしましょう。
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