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暗闇の8ビート(詩集)

雪の降る車窓をぼぉと見ていたら、向かいの隅に座る一人の女学生に目が止まった。
彼女は目を閉じうつむいて、膝に置いたポシェットに、小さくリズムを刻んでいた。
イヤホンから流れる音に合わせて、ドラムの練習をしているのだろう。

最初は、シンプルな8ビート。しかしだんだんとリズムは複雑化していき、ペダルの動きまで加わってくる。
相変わらず微動だにしない身体のほんの一部が、まるでムクドリが必死に羽ばたくように動いている。
あまりまじまじと見るには、私も随分と中年の域に達しているので、ちらと横目に、彼女の奏でるリズムを感じていた。

曲はクライマックスに近づく。複雑化していくリズム。右手左手右足左足。
ダダダダ、ダダン、ダダ、ダン、ダンダダダ・・・。
霧のような雪が降り乱れる中で、彼女は1人舞台に立って、ドラムを叩いている。
昇り詰める気配。
まだまだ打てる、まだまだ打てると言わんばかりに。

突然、車内放送が駅に到着したことを知らせるとともに、ライブは終わりを告げた。

彼女は顔を上げ、あたりを見渡す。
瞳の奥は、真っ暗だった。
光は灯らない。
行先がわからない、途方にくれた真っ暗な眼差し。

しかし、私には見えていた。
スポットライトを浴びて、髪を振り乱し、リズムを刻みながら叫ぶ彼女の姿を。
圧倒的な光を放って、今、この瞬間を生きている彼女の姿を。

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