渋谷区トイレ巡り その2

 広尾から恵比寿までは地下鉄日比谷線で一駅。昔よく利用していた時には何両目の何番ドアがエスカレーターに一番近いか、などということを記憶していたものだが、久しぶりに乗って見ると過去の記憶などとうに風化している。後ろから三両目くらいだったはず、と乗り込んでみたが、別に一秒を争うわけでもなし、何をそんなにせかせかしているのかと何だか自分があさましい気がする。一度トイレに入って、一休みした方がいいかもしれない。
 次に行くトイレは以前訪れたことがあり、駅のすぐ近くにある。改札を通って階段を上がったところにあるのだが、知らない人からすれば、白い桟で囲まれた、ビルの屋上の室外機を巨大なルーパーで囲んだ目隠しとか、何かの現場の工事用の物置きにも見えるだろう。その建物は歩道に面したところに入り口がない。だから一見すると只の白い鉄の囲いでしかないが然にあらず。ここが恵比寿駅西口公衆トイレである。デザインは佐藤可士和。恵比寿にはトーキョートイレットのトイレが合計で四か所あり、一番の密集地である。恵比寿トイレット銀座である。恵比寿の四つのトイレはすでに全て来てみて周ったことがあるので足早で巡ろうと思う。
 ここのトイレは駅のすぐ近物件で、東京トイレット全17トイレの中で一番アクセスしやすい。恵比寿像と交番の間という抜群の立地だ。でも知らない人は気付かないかもしれない。先ほども書いたが、歩道に面しているところに入り口がないし、本体であるトイレを目隠しで囲っているのである。四面のうち最奥の一面にしか入り口がないので非常に分かりづらい。人の往来が多いから敢えて奥にしたのだろう。確かに正面に入り口があると恥ずかしいような気もする。その奥の入り口から中へ進むと、いくつものドアがある。どれに入っていいのかよく分からない。ドアだらけだ。
 そのドアのどれにも入らず、ぐるっと一周した後、ふと足を止めて内側から桟を通して外を見ると、足早に過ぎゆく人の波。何だか物置きの中に隠れてすき間から外を窺っているような気になる。誰もこちらを気にするような人はいない。ソワソワしながら駆けて行く人の中にはここが公衆トイレとは知らずに通り過ぎてしまっている人もいるのだろう。その人の流れに紛れて私も次のトイレに向かうことにした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?