新しい学校のリーダーズ ライブ・イン・群馬


 群馬県高崎市。2022年最初のライブを見に行く。昨年末に恵比寿のリキッドルームでの年越しライブで新しい学校のリーダーズのライブ、DJバージョンを見たのが2021年の見納めだったが、2022年の皮切りは、群馬県でのGUNMA ART A LIVEの二日目のオープニングを飾る新しい学校のリーダーズのライブとなった。新しい学校のリーダーズで終わり新しい学校のリーダーズで始まる。閉塞した世の中でこんなに楽しみなこともない。
 上野から鈍行で二時間。乗客も少なく、読書が捗る。数時間前に着いて散策。お目当ての高崎市美術館の展覧会と井上邸を見る。井上邸はアントニン・レーモンドによる建築が身近に感じられる住宅だ。柱組が特徴的な室内、部屋に置かれた暖炉、開放的な窓からは綺麗な庭を見られる。レーモンド夫人ノミエ・レーモンドによる家具やイサム・ノグチの照明、その他にもデザイナーによる家具が多いが贅沢さはなく、質素でありながら凛とした空間に居住まいを正したい気にさせられる。
 展覧会は地元画家中心で山口薫らの絵が多数飾られていたが、自分のお目当ては洋画だ。ピカソの貧しき食事やフェルナン・レジェ、ホアン・ミロ、マルク・シャガールらの版画が見られたのは思いがけない眼福であった。小品が多いが館内は思ったよりも広く、想像以上に充実した鑑賞時間を過ごすことができた。これが100円で見られるなんて素晴らしい。

 ライブ会場の高崎芸術劇場は高崎駅からペデストリアンデッキ(この言い方、他にないのか)で行けるので行きやすい。設計は佐藤建築事務所。最近自分が行った所では、高知のオーテピア、東京都公文書館、大和市のシリウスなど、調べてみると様々な建築を沢山手掛けている。奄美大島にある田中一村の奄美パークもここによるものだ。ああ、一村久しぶりに見たいなあ。黒糖焼酎も飲みに行きたい。あれはもう7年くらい前になるのか、黒糖焼酎ツアーに参加して…、おっと閑話休題。
 そんな前情報は露知らず、今までは小さなライブハウスでパフォーマンスをしていた四人が、こんなに凄く立派な劇場でライブをすると思うと感慨深い。といっても本日の公演はメインホールではなく小ホールのスタジオだが、それでも立派なホールである。ライブハウスとは比較にならない大きさと広さ。さあここでどのようなパフォーマンスを繰り広げるのか、楽しみでならない。しかも最前列。料金は2000円と破格値。東京から新幹線で1時間も掛からない高崎はもしかしたら穴場かもしれない。これはあとで知るのだが、三月には同じステージで、無料で観覧できる音楽オーディションとライブに布袋寅泰が出演するという。なんという大盤振る舞い。

 前置きが長くなってしまったが、本日のお目当てである新しい学校のリーダーズは、この日、数組出演するライブのオープニングを務める。世界デビューをしたのに前座かと思ったら然にあらず。30分のパフォーマンス時間はメインと同等の待遇であった。ということもあとで知る。ああ、ライブはワクワクするなあ。

 オープニングは人間太鼓。RIN、KANON、MIZYUを太鼓に見立て、SUZUKAが三人の背中を激しくしかし優しくソフトタッチで叩きまくる。MIZYUやRINの頭をカカカと叩き、MIZYUのおしりをケツ!と叫びながら叩き、KANONのどてっぱらをバイーンと銅鑼のように打ち鳴らしたかと思えば、後半は四人が横位置に並び、全身をリズミカルに叩きながら全員人間パーカッションとなり、四人で決める。ドーン!

 そこからおもむろに前奏が始まる。最終人類だ。オープニングアクトに持って来いの曲だ。SUZUKAが歌い、三人は広い舞台に仰向けとなり、ゆっくりブリッジで起き上がる。いつ見てもゾクゾクする。SUZUKAを担いで回転するとSUZUKAがニッと笑う。昨年のワンマンツアーでも一曲目に最終人類を披露していたし、ロサンゼルスの88risingのライブでもこれを持ってきて大歓声を浴びていた。まさにオープニングに打ってつけの一曲。歌も踊りも激しく、組体操のようなアクロバティックな動きは初見の観客には衝撃が強いだろう。右手を上げての最終人類ポーズで仁王立ちになったりぐるぐると動き回ったり、予測不能な振り付けである。真顔で右手を挙げているかと思えば、直後には四人ともニコニコして笑ったり表情さえも振り付けの一部となっている。ボーカルのSUZUKAが目立つはずなのに、気が付くといつの間にか踊っている三人を目で追っている。新しい学校のリーダーズはダンスパフォーマンスグループなのだと改めて思う。
 後半のズチャズチャズは上手から一人ずつ増えていくパターンで、四人揃ったらグルグルとステージを回り出し、サビの前の静かな「最終人類どこへ行く」のSUZUKAのソロからの「シンフォニーを!」で圧巻怒涛、全身全霊の目まぐるしい踊りからのエンディングに心打ち振るわされる。低音がドコドコ響き、踊りはますます激しさを増す。SUZUKAを担いで一周回り、馬跳びからMIZYUとKANONを起こし複雑に絡み合って最後は決めポーズ! おお、ファンタスティコ!

 いつもの休め気をつけ礼からのMC。ああ、なんだか懐かしい。ちょっと前までは毎週のようにこのMCを見ていたのだ。あの頃はなんと贅沢な時代だったのかと思う。
 KANONが群馬出身であることから今回のイベントに参加することになったということでKANONを中心に話す。両親姉おばあちゃんが見に来ているという。いい家族だ。エジプト美人とSUZUKAが言って、ああそういえばそんなネタもあったなあとオールドファン(と言ってもたかだか数年)が懐かしむ。
 では次の曲、とSUZUKAが言って四人がそれぞれの立ち位置に向かおうとしたときに流れたのはなんと最終人類のイントロ。SUZUKAが「えっ?」という顔をし、MIZYU、RINらも一瞬顔を見合わせるがそのまま流れを止めず、チャーチャーチャー(←最終人類のイントロ)、ズッズチャーン(←透明ボーイのイントロ)に変わった。その間ほんの1~2秒。全く動じず流れも止めず、何事もなく四人はパフォーマンスを続けた。泰然自若。ハプニングがあっても動じぬ心。経験と信頼によるものか。実に見事。先日成人式を行ったばかりとは思えぬ落ち着きっぷりである。今日一番の見どころはここだったと言ってもいい。
 その透明ボーイ。まさかやるとは思わなかったので嬉しい。昨年のワンマンでもやらなかった曲だ。RINとSUZUKAのボーカル。KANONとMIZYUの踊り。RINの切ない歌声がいい。MIZYUとKANONの無邪気な舞いもいい。間奏のSUZUKAとRINのダンスも素晴らしい。チリチリ(©SUZUKA)に更に磨きがかかった。そして何よりRINの作詞が素晴らしい。三十年前の高校の時の甘酸っぱい思い出が脳裏をよぎる。そして終盤、以前は哀愁を秘めていたが、この日はなんだか笑顔が多く、思い出となってしまった過去も、離れ離れになってしまった友も、どれもが輝ける未来へ繋がっていく希望のように感じた。そのように表現を変えていたのではないかと思えたのが、どうだろうか。最後はSUZUKAとRINが抱き合って幕が下りる。

 続いてオトナブルー。♪分かってる、欲しいんでしょ、のSUZUKAのガニ股具合がどんどん増してパワーアップしている。もっこりを控えめにしているのは乙女の恥じらいか。いやそれはないか。それにしてもSUZUKAのボーカルが見事だ。最近は「私を見つけて~」のところでこぶしを回すようにしていたが、この日はストレートに伸びやかに歌っていた。この方が好きだ。SUZUKAのボーカリストとしての躍進は目覚ましい。だからこそ最近の曲のラップやヒップホップライクな歌い方は実力が見えなくなってしまって勿体ないと思うのだが、それはポップス派かラップ派かの趣味の違いになってくるので難しい。ともあれSUZUKAのヴォーカルは数年前の2019年に出したアルバムの時とは比較にならないくらい上達している。年齢的なこともあるだろうが、声の質がまるで違う。ダンスで体力を消耗させることなく直立不動のまま歌100%で歌うところを見てみたい気もする。いや、SUZUKAは逆に踊りがあるからこそ歌にも力が宿るのかもしれない。
 それとこの曲で大好きなのが大きく横移動するフォーメーションだ。クイックイッと横に頭や体を動かしながら、マスゲームのように交差するダンスが見事だし、そのあとにMIZYUがSUZUKAの肩にポンと手を置くところがディ・モールトいいッ! あのシビれる良さはなんなんだろう。わたし、ここにいるよ!的な。オトナブルーの白眉である。

 曲が終わって寸劇。来ました、恋の遮断機のためのお笑いパート。次のMCで、広い劇場だから是非これをやりたかったと言っていた通り、SUZUKAとMIZYUが思う存分寸劇を繰り広げていた。SUZUKAの好きな3組の高崎君をMIZYUに取られた挙句、ライフルでぶっ放されて轟沈するSUZUKAが気の毒でならないが、笑ってしまうほどのやられっぷり。「快感!」とか言っちゃうMIZYUの、否、女の怖さよ。一通り終わってKANONが説明しているときに、MIZYUがアドリブで「シャーッ!」とKANONに向かって女の怖さを見せつけたら、KANONがツボにはまってしまって笑いが止まらなくなるのもいとおかし。笑いを堪えきれずもなんとか「曲振りでした」と言い終わっても笑いが止まらぬKANON。曲に入る。
 恋の遮断機は、前半はわりとおとなしいがサビに向かって段々と盛り上がる抜群の構成だ。歌詞も演劇的で無駄なセリフがなく面白い。しっとりと歌い上げるSUZUKA。無機質な歌声のMIZYU。サビの低音が体に響く。呼吸を整え2番に入る。静かだが徐々に激しさが増し、間奏の、踊りというよりは演劇的な表現でクライマックスを盛り上げる。あな、たは、あた、しの、恋の遮断機ドドドドーン! 最後はカーテンコールよろしくあいさつで締める。劇場だからやりたかったというのもよく分かる。大満足の一幕であった。

 MCではSUZUKAがKANONをいじる。
SUZUKA 笑ったらおわりやで~。
KANON ごめーん、つぼっちゃった。
SUZUKA 立派な劇場やさかいこれやりたかったんやけど、笑ったらあかんがな。
MIZYU シャーッ!
KANON あはは!
 みたいなやり取りがあって、この素朴さがKANONの魅力である。その中で一言もしゃべらないRINがいたりして、つくづく新しい学校のリーダーズは四人のバランスがうまく組み合わさっていると思う。

 最後はパイナップル・クリプトナイト。歌に入る前の冒頭はふざけた盆踊りみたいなのだが、曲が始まると一転、殺伐とした硬派な演舞に豹変する。最近は表現を大人しくしていたが、今日はがっつりと殴って蹴って切りまくっていた。最後暗転して終わるのはなんだか尻すぼみがするのでFree Your Mindあたりで締めくくった方がいいなと個人的に思うが、パイナップル・クリプトナイトの秀逸なPVを見て来ている人たちにとっては矢張りこの曲は外せないだろう。SUZUKAが絞り出すような歌声でsing a lullabyと歌って倒れこむ。ララバイ、バイバイ、終演…。

 チャイムが鳴ってもう終了。とは言え久々に昔のライブを見たような気がした。二年前、週に一度はライブハウスに出て対バンしていたころは持ち時間が20分くらいで、最終人類、恋ゲバ、席替ガットゥーゾ、恋の遮断機、毒花あたりから2曲。オトナブルー、恋文、雨夜の接吻、まさ毛カンナヴァーロあたりから1曲。そしてエンドレス青春からの迷えば尊しといったセットリストが多かった。今日は最後がパイナップル・クリプトナイトに変わったくらいで、なんだかとても懐かしかった。といってもたかだか二年前くらいなのだが。
 でもその二年間で対バンのようなライブは皆無だし、フェスもなく、数回行われた単独ライブしか場がなかった。NAINAINAI以降のアルバムには入っていない曲が注目されているし、最近5曲入りの配信ミニアルバムを出したからそっちでまとめてくるものだと思っていたけれど、こうしてまんべんなく曲を構成してくれるのは非常にありがたい。88risingレーベルでアメリカデビューしたとは言っても、今までの延長線にあるようで安心もした。英語しか喋らない、ラップしか歌わない、過去の楽曲はやらないみたいになったらどうしよう…と考えていた自分は新しい学校のリーダーズの芯を信じていなかったのだとなんだか恥ずかしいような情けないような気にもなったが、いずれにせよ彼女たちは変わらないものは変えず、新しいものをどんどん取り込んで急成長している。来週には恵比寿での単独ライブ、5月にはZeppダイバーシティ東京での、千人超規模では初の単独ライブが控えている。今日のような地方のイベントや小さなライブハウスでのパフォーマンスとは全く違った魅力がつまったものになるに違いない。ディ・モールト楽しみである。

 それと、こうやって新しい学校のリーダーズのライブを見に行くことで、今まで行ったことのなかった地方に行くことができるのが面白い。行きたいと思っていた所へ行くきっかけにもなるし、行こうとは考えてもいなかったところに行くのもダーツの旅のようなワクワク感がある。思えば初めて新しい学校のリーダーズのパフォーマンスを見たのは金沢に住む友人を久しぶりに訪ねたついでの時であった。Perfumeら名だたるアーティストが出演した中で一番気になったのが得体の知れない女子四人組だった。その夜、友人宅に泊まり、ネットやYouTubeで調べてもほとんどヒットしなかった彼女らをこうやって追いかけることになろうとは当時知る由もないのだが、それはまた項を別に改めることとしよう。

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