見出し画像

《テキスト・アーカイブ》ART ROUND EAST 2021/05/19 @ウラカシ百年会

日時:2021年5月19日18:30~
場所:刺繍 縫-nui-(千葉県柏市柏 3-8-17 グランモール千代田 101)
HP:https://www.shisyunui.com/

5月19日に行われたART ROUND EAST定例ミーティングでは、加盟団体の一つである「ウラカシ百年会」の初代会長、吉岡亮兵さんのもとを訪問し、お話を伺いました。

吉岡さんは柏駅から徒歩8分、中心街から少し路地に入ったエリアで、子供服の名前から大きなアート作品までを刺繍で手掛ける「刺繍 縫-nui-」を経営。その傍ら、商店街の各店舗が連携してイベントの企画・運営を行う組織「ウラカシ百年会」の設立に尽力し、現在も同会の理事としてその活動を支えています。

画像1

今回のミーティングでは、ウラカシ百年会の設立背景や吉岡さんのこれまでの活動、コロナ禍での今後の展望などについて、様々なお話を聞かせていただきました。コロナウイルス感染拡大防止のため、ART ROUND EAST会員の方々とZoomを繋ぎ、対面とオンラインを併用したかたちでの開催となりました。合計10名(うち1人は赤ちゃん)が参加しました。

画像2

ウラカシ百年会とは

柏駅の中心街から少し離れた場所に、個性的な店舗が集まるエリアがあります。中心街の百貨店の側をオモテとすると、各店舗のカラーが色濃く出る側はウラ。カシワのウラ=「ウラカシ」としてブランド化されたエリアで、個性的な店舗同士の連帯を生み出し、商店街の賑わいに繋げようと設立されたのが、商店会「ウラカシ百年会」です。

今年で設立4年目を迎える同会には、ウラカシエリアに店を構える飲食店や洋服屋、美容室など、30以上の店舗が加盟しています。年間を通じて多様なイベントの企画・運営を行い、ウラカシをより一層楽しい街にすべく活動を行っています。

ウラカシという街

柏駅から東へ徒歩10分弱の距離にある柏市三丁目は、洋服屋や美容室などが多く立ち並ぶ街として栄え、15年前に「ウラカシ」とブランド化されてからは、その名が広く全国に知られるようになったそうです。流行ファッションの発信地としての地位を獲得してからは、最新のトレンドを求めて東京から客が訪れることも多かったといいます。最盛期には、現在と比べると5倍から10倍ほどの数の店舗がウラカシに店を構え、大変な賑わいでした。

しかし、商店街の景気も山あり谷ありです。時代の変化とともに徐々に経営環境が厳しくなり、県外出身のオーナーが経営する店舗の多くは撤退してしまいました。それでも、柏市で生まれ育ち地元に愛着を持つ人たちは踏みとどまり、多くの方々が現在もウラカシで経営を続けているそうです。平坦ではない経済状況の中でも、地元に根を張ってこの街で頑張ろうとしている人達の姿がそこにはありました。

賑わいが下火となり「昔は良かった」と嘆く人もいたようですが、ウラカシ百年会設立前の吉岡さんは、当時営業を続ける各店舗の魅力に惹かれ、ウラカシに対して一切悲観することはなかったといいます。「今やってる人だけでも、かっこいい!」と、当時からウラカシの持つ引力の強さに確信をもっていました。

画像3

そんな中で刺繍屋を経営していた吉岡さんは、今から4年ほど前、地元の画材屋「いしど画材」を経営していた石戸さんから商店会の発足を提案されました。石戸さんは「柏二番街商店会」の理事長を長らく務めている方で、柏市のまちづくりの顔役とも言えます。提案された当時の記憶が鮮明に残っているらしく、「金やるから商店会つくれよ」という石戸さんの発言を「今でもはっきり覚えている」と笑顔で答えました。助成金や補助金について、石戸さんの知見が生かされ、事務局長として書類作りに奮闘してくれた「なおちゃん」さん(地元デザイン会社の方)の尽力もあり、立ち上げることになりました。

商店会立ち上げの課題

当時、いわゆるオモテのカシワには、JC(青年会議所)などがすでに組織されていました。しかし、ウラカシで出店しているオーナーたちはJCのような組織に所属するのを良しとしない性格。人付き合いも苦手な方が多く、堅苦しい組織は「ダサい」と一蹴されてしまう懸念がありました。

ウラカシ百年会への参加依頼も難航するかと思われていましたが、吉岡さんが実際に各オーナーに声をかけてみると、予想外に参加意欲が高いことに気がついたそうです。自身の心情をもとに、「みんなもどこかで、人と違うことがしたい、みんなのために何かしたい、という気持ちがあったのではないか」と分析しています。その気持をうまく昇華させられる場を作ることで、商店街の活気につなげようとしました。

当時、会長としての活動について「各店舗がやりたいことを聞き出し、それを実現する後押しをしていた」と説明しました。「やりたいことがあっても、多くの人は実現するのは難しいと考えてる」と当時の雰囲気を振り返り、その思い込みを取り除くことに、吉岡さんは使命感を感じていました。

さぞ多くの難題を乗り越えて来たであろう、商店会の立ち上げや運営の苦労話を伺うと、「何も大変ではなかった」と即答。書類作りや各方面との手続きなどを一手に引き受けてくれた、前記の「なおちゃん」さんのおかげで、吉岡さんは各店舗のオーナーとの話し合いに集中することができたといいます。結果的にイベントの実現に向けて、書類に煩わされることなく邁進できました。「なおちゃんのおかげで、みんなが好きなことを言うことができた」と話し、役割分担の重要性となおちゃんへの謝意を強調しました。

仲間と支え合いながらウラカシ百年会の発足に尽力した吉岡さんですが、そのご経歴はとてもユニークなものです。これまでの経験が現在の活動とどのように関わるのかを知るために、これまでの活動を伺いました。

吉岡さんのこれまで〜音楽と刺繍〜

静岡県浜松市で刺繍屋を営むご両親のもとに生まれた吉岡さんは、早いうちからストリートカルチャー・クラブカルチャーにどっぷりのめり込んでいたそうです。高校卒業後上京し、本格的にDJとしての活動をはじめました。その実力は、吉岡さんが22才の時、デビューしたばかりの倖田來未さんツアーDJとして、同じ舞台でパフォーマンスを行うほどでした。

ただ、当時ストリートカルチャーを意識したせいか、メジャーデビューしたアーティストのもとでDJをすることが「かっこ悪いこと」だと考えていたため、倖田來未さんとの協働経験をひた隠しにしていたそうです。はにかみながら過去を振り返る吉岡さんでしたが、その当時から培ってきた「アンチ・メジャー」の意識は、「ウラ」のカシワを組織する上での動機に繋がり、またウラカシで営業する店舗オーナーたちの心情理解の基盤となり、加盟店舗の団結力の核となっているのかもしれません。

DJとして表現活動を続ける中で、吉岡さんは音楽業界の酸いも甘いも知ることになります。最前線で活躍するアーティストの熱意を目の当たりにし、「一流の人達は、四六時中音楽のことだけを考え続け、睡眠も仮眠しかとっていなかった」と当時の強烈な印象を思い起こしました。一方で、音源作品が買い叩かれてしまう業界の慣習や、「交通費だけでDJやってよ」「もう少し安くならない?」と理不尽な要求をされ、音楽活動に正当な対価が支払われない環境の中で、歯がゆい思いを経験されました。

そんな中、音楽ではなく、刺繍によるグッズ制作などにはしっかりと対価が払われることに、吉岡さんは気づきました。音楽を通して出会った方々とのネットワークを活かすことで、音楽イベントにおける刺繍制作の仕事に可能性を感じ、6年前に一念発起。浜松の実家で1年間刺繍修行を行った後、結婚相手の地元である柏市に仕事場を構え、本格的に刺繍の道に進みました。その折、前記の石戸さんからの誘いを受け、ウラカシ百年会の発足に繋がります。

商店街の組織だけでなく刺繍の仕事も順調に成長し、現在では最初の5倍ほどの広さのある店舗を構えています。大きなスピーカーを備えたDJブースのある店内は、「音楽を楽しみながら仕事ができる」理想の環境を追求しているそう。常に音楽と刺繍にひたむきな、吉岡さんの姿勢が現れたお店となっていました。

画像7

お店のこだわりについて伺うと、柏の地の利を強調しました。同じ賃料で都心に出店しようとした場合は、DJブースなど音に対して寛容な不動産を探すのが困難な点を指摘。また、より田舎で広い工場を借りる場合は、従業員を雇ってより収益体制を強化できたかもしれないとしたうえで、「自分の商品のクオリティに責任を持ちたい」からこそ従業員を雇っていないという信念を明かしました。

関東からもアクセスの良い柏だからこそ、こだわり抜いた店舗で納得できる商品を作ることができ、お客が訪れてくれる。必死さの滲み出る営業をせずとも、依頼主と対等の立場で刺繍の仕事をすることができていると話し、柏市に店舗を構えることのメリットを説明しました。

魅力的な場を作ることで、人が集まり、より一層人を惹きつけるものが実現されていく。吉岡さんの店舗づくりとウラカシ百年会の商店街づくりには、そういった共通性があるようにも感じられます。

6年前から本格的に始めた刺繍には、約三千年の長い歴史と伝統があります。刺繍の仕事は職人のような印象を持たれがちですが、吉岡さんは刺繍も音楽と同様、表現の一つであると考えています。刺繍アーティストとして制作を行なっており、2015年に行われた渋谷芸術祭ではSHIBUYA AWARDの優秀賞を獲得しました。

青春時代から打ち込んできた音楽と、両親から受け継いだ刺繍は、重要な経験として吉岡さんの中に培われています。その二つの表現手法を両輪として、これからも活動を続けていくそうです。

画像5

ーー吉岡さんが制作した刺繍作品(タイトル:渋谷)の飾られた仕事場ーー

ウラカシ百年会で大切にしていること

商店会を組織する上で大切にしていることや、会長としての行動の指針について伺いました。すると、一つの目標を掲げてそれに向かって団結するのではなく、「各自が思い思いに活動して、それぞれの良いところ伸ばす」ことを大切にしていると答えました。一生懸命に引っ張ろうとするリーダーがいると、加盟している側にとって負担が大きく、組織として継続しづらい部分があるといいます。各オーナーはそれぞれ自分の店舗の経営に全力を傾けており、商店街全体の賑わいなどを考えられる人は少ない、と現実を冷静に分析。ひとつの目標に向かって会員を走らせるのではなく、各会員の掲げる目標の実現に向けて、会としていかに手助けできるか考えることを重視していたと話しました。

それぞれの目標の手助けを大事にしている一方で、コロナ禍での過酷な経済状況を前に、「商店会は、加盟する店舗を守りきれない」と、冷静になる場面もありました。放任にも聞こえるその発言の裏には、しかし、各店舗の主体性を尊重する姿勢が隠れていると言えます。「仮に加盟店舗の経営にまで責任があるとすると、リーダーもガチガチになってしまい、誰もついてこなくなる」と話し、緩い繋がりを維持したまま活動していくことの重要性を強調しました。

各自が自分の店舗経営に全力だからこそ、それぞれが独自の色を極めており、商店会の企画するイベントなどの場が与えられたときに、その個性を十分に発揮する事ができる。それが結果として、街の賑わいにつながっているのかもしれません。

画像6

コロナ前の活動とコロナ禍での課題

コロナウイルス感染拡大の以前は、飲食や物販、体験型のイベントを年間3〜4回行っていました。子どもたちが動物と触れ合う場を作るために、各方面の許可を取って商店街に動物を連れてきたり、スケートボードで遊びたい子供のために、迷惑がられずに遊べる場所をつくったり、イベントを通して地元の人達が集まれる場を提供してきました。しかし、感染拡大によって昨年度のイベントは全滅。今年度も人を集めるようなイベントは企画されていません。従来通りのイベントが開催できなくなったことで、今できることを模索するよう余儀なくされました。今年度は、各店舗の認知度向上を狙って、紹介パンフレットの制作に注力する予定です。

一方、コロナ禍で始めた新たな取り組みが、これまで気づかなかった問題の可視化に繋がった事例もありました。ウラカシ百年会の活動の一環として、テイクアウトを行っている飲食店のために、目印となる旗を制作したり、市役所にお弁当を運びこんで販売する取り組みを行ったときのことです。加盟の洋服屋・美容室などから、「自分たちのためには支援活動をしてくれないのか?」との要望や、「飲食店への支援ばかりで不平等だ」との指摘が入りました。結局、「平等」にするために、商店会の活動費を各店舗のインスタグラムへの広告費に当てるという方策が取られましたが、吉岡さんにとっては、胸のうちにモヤモヤの残る活動となったそうです。利害関係者が多くなるほど、組織としての活動はつまらないものになってゆくのではないかという懸念を表明し、「こういうときに、組織は動きづらい」ともどかしさをあらわにしました。

コロナ渦中での実際の模索の様子や、噴出した不満の具体例などを伺うことで、吉岡さんの「商店会は、加盟する店舗を守りきれない」という言葉の重さが、ずっしりと感じられます。

コロナ後の展望

今後、ワクチン摂取の普及によって経済活動が回復すると期待されている中で、ウィズコロナの時代におけるウラカシ百年会の在り方を伺いました。今後の目標などを尋ねる「見えていないし、考えていない」と即答。その答えの裏には、前述の運営理念が関係していました。

コロナという非常時の只中、各店舗はそれぞれのやり方で生存戦略を図っています。そのような余裕のない状況下で、商店会に割く労力は、ほとんど残されていません。なにか目標を定めて加盟店舗をまとめようとしても、誰もついてこないだろう、と吉岡さん話します。だからこそ、商店会としての目標は掲げないのだそう。しかし「理想として思うのは」と吉岡さんは語ります。「各店舗がそれぞれ自分の魅力を出して、尖っていけば、それはきっと街の面白さ、賑わいに繋がるはずです。」

まとめ

多くの人を巻き込んで組織を作り、それを継続的に運営していくためには、加盟している方々のちょうど良い距離感が重要なのだということが、吉岡さんの言葉の端々から感じられました。

無理やり引っ張ろうとするのでもなく、ただただ静観するのでもなく、各店舗が独自の色を育んでゆくのを見守ることで、街全体が多様な色に溢れていく。緩く連帯した、キツすぎない縫い目の模様が、人を惹きつける世界観を作るのだと思いました。

画像7

(文:久永)

ART ROUND EAST (ARE;アール)とは?

東東京圏などでアート関連活動を行う団体・個人同士のつながりを生み出す連携団体です。新たな連携を生み出すことで、各団体・個人の発信力強化や地域の活性化、アーティストが成長できる場の創出などを目指しています。
HP:https://artroundeast.net/
Twitter:https://twitter.com/ARTROUNDEAST

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?