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MOTコレクション Journals 日々、記す  特別展示:マーク・マンダース 保管と展示

東京都現代美術館に行ってきました。
その中の展示の一つである特別展示:マーク・マンダース 保管と展示について書いていきたいと思います。コンセプチュアルな作家さんなので、書くことが多くなってしまいました。

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マーク・マンダースについて

1968年生まれ。オランダ出身で現在はベルギーで活動している作家です。フォルケルという小さな街で育ちます。典型的なオランダの街で、アートというものはそばになかったそうです。父は大工(家具職人という記述もあり)で、父の影響もあり、小さい頃から自然と何かを作るようになっていったそうです。

両親は戦争を経験した世代で、母親は男児を無くしています。母親は心を病むこともあったそう。
そのこともあり、マーク・マンダースは思春期の頃、脳の複雑さ、脆さということが強く心に残っているそうです。

16歳の頃に工業デザイナーになりました。その頃、本でピカソやルーカス・クラナッハに影響されたとインタビューで話しています。ピカソの後期のものには作品を通して作家自身の心の動きが見えたそうです。ピカソの後期の絵は自由で動きがあり、確かにピカソの感情までも分かる気がしますね。ルーカス・クラナッハはルネサンス期のドイツの画家です。「ユディト」という作品を私は見たことがある気がするんですが、娘さんが右手に剣を持ち、左手に生首を持っている絵画です・・。マーク・マンダースはルーカス・クラナッハからは凍りついた静かさを感じたようです。二人の作家はマーク・マンダースにとって動と静、対照的に映ったようです。

18歳の頃、作家として生きることにします。思春期に目にしていたものを解決するため、自分の心を探究しようと決めます。今も一貫して続いている「建物としてのセルフポートレイト」という構想です。

建物としてのセルフポートレイト

建物としてのセルフポートレイトってなんでしょうね。

マーク・マンダースは18歳の時に小説を書き、そこに登場したのが「建物としてのセルフポートレイト」という構想とのことです。その当時、マーク・マンダースは小さな街に暮らし、語るべきものもなかったそうです。何かを話すことができる架空の建物を考え出し・架空の人物を想像することによって、一人称で書いていたもの、それが、架空のアーティスト「マーク・マンダース」のセルフポートレイトだったようです。

マーク・マンダースはこれからの人生を、その架空の建物について「書く」ことにしたそうです。
さらに、言葉の代わりに「オブジェクト(物)」を使うことにました。
なぜオブジェクトを使うようにしたのかというと、オブジェクトによって私たちの思考はどのように決定するか、方向付けられるかということに、マーク・マンダースは魅了されたからと語っています。つくればつくるほど言語ができ、より表現できるようになったそうです。

ここまで書いてきたように、マンダースの作品は言葉と深く関わっています。作品同士の関係性や全体を通して、小説や詩を紡ぐかのようにして、架空のアーティストである「マーク・マンダース」のポートレイトを表現しているのです。

ちょっと難しいかもしれませんが、とにかく、マーク・マンダースの作品は作品の配置など「全体的な見え方」がとても重要ということですね。展覧会の解説に、振り返って作品群を見てみてください!というような一文があったので、そういった見方ができる面白い作家さんだと思います。

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特別展示:マーク・マンダース 保管と展示

私が見に行った「特別展示:マーク・マンダース 保管と展示」は、同美術館で2021年3月〜6月に開催された企画展「マーク・マンダースの不在」がコロナ禍で期間短縮されたことを受けて計画されたものとのことです。作品返却までの間、構成を変えて展示されるとのこと。

常設展と同じ枠組みでみれるので、とてもお得です。(常設展のみでみることも可能ですが、同時期の企画展の観覧料でみれます!)ただ、ボリュームがすごいので注意ですね。

「マーク・マンダースの不在」を見に行けばよかったな〜と後悔。
「建物としてのセルフポートレイト」のコンセプトの通り、その展示では配置など全体で「一つのセンテンス」が表現されていたそうです。
今回の展示では、展示場所は変わっています。作品がばらばらに配置されているとのこと。ただ、この状態は辞書・言葉の貯蔵庫のような状態だそうです。

作品について

写真を撮れない場所が多かったのであまり良い写真が撮れていませんが、ご紹介します。
マーク・マンダースのインタビューを見ていると、「freeze」という言葉が多く出てきます。作品自体は動かず、時が止まっています。
印象に残った作品を書きます。

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調査のための住居(2007)
これが「建物としてのセルフポートレイト」の間取り図の一つだと思われます。
鉛筆・角材・スポンジ・瓶・カセットテープなどで構成されています。


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狐/鼠/ベルト(1992-1993)
単語を組み合わせて作ったという作品。
狐とネズミがベルトに括られています。
死んでいるのでしょうか?でも、かわいい・・・と思ってしまう私。


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乾いた土の頭部(2015-2016)
大きさに圧倒されます。打ち捨てられた古代の像のようです。


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4つの黄色い縦のコンポジション(2017-2019)
こちらも大きさに圧倒されます。詩的で不思議です。

作品は完全に止まっているのですが、さっきまで動いていたような、誰かが作っていたような気配がしました。全体を通して架空の「マーク・マンダース」を見つけることもできるかもしれませんが、一つ一つの作品自体にも私は物語を感じました。誰かの精神世界に入り込んだような、とてもおもしろい体験ができました。

企画展を見に行った後だったのでヘトヘトの状態ということもあり、うまく写真が撮れませんでした。常設展のボリュームにびっくりしました。常設展だけで行っても良かったかもです。欲張らず分割して行くのも美術館の楽しみ方かもしれません。


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東京都現代美術館
MOTコレクション
Journals 日々、記す 
特別展示:マーク・マンダース 保管と展示
2021年7月17日(土)- 2021年10月17日(日)



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