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11arts|和巧絶佳 令和時代の超工芸(パナソニック汐留美術館)

「建築・住まい」「工芸・デザイン」をテーマにした展覧会を開催しているパナソニック汐留美術館和巧絶佳展では、日本の美意識に根ざした工芸的な作品で、いま最も注目されている1970年以降に生まれた12人の作家が紹介されています。本展は写真撮影が可能でしたので、写真多めで紹介いたします。

舘鼻則孝

花魁の高下駄をヒントにしたヒールのないブーツは、レディー・ガガが着用したことで有名になりました。今回の会場には簪(かんざし)と椿をモチーフにしたインスタレーションや、七宝繋ぎ紋が全面に描かれた絵画作品も展示されています。江戸時代の日本人が持つ美意識や精神性が反映されているのですね。

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桑田卓郎

パキッとしたカラフルな色遣いでポップなやきものをつくる桑田さん。作品は、茶碗という伝統的な器型を用いながら、どこかキャラクターのフィギュアにも似た佇まいです。しかし、釉薬が収縮によって割れる梅華皮(かいらぎ)の技法を最大限に押し出した表現は、みるものに大きなインパクトを与えます。

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深堀隆介

アクリル絵具と透明樹脂で金魚を描いた作品が人気の深堀さん。実際に作品を観るのは初めてでした。本当にリアルな、立体的な金魚を想像していたのですが、近くでみるとヒレや胴体は分離していて、それらが層になることで金魚が立ち現れます。会場には簾と玉砂利を敷いた金魚問屋のような空間演出がされているのに、件の金魚は幻影なのです。

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池田晃将

螺鈿にサブカルチャーの要素を取り入れた作品ですが、技法自体は極めて伝統的なものです。しかし、貝殻から採取したはずの螺鈿の輝きがデジタルな光の輝きに、樹液である漆の光沢が硬質な金属光沢にみえるのは、組み合わせの妙でしょうか。角が欠けた四角いオブジェはオーパーツのようです。

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見附正康

九谷焼のなかでも、赤を基調に絵付けをした赤絵の大皿です。うつわには植物や花鳥、伝統文様が描かれることが多いのですが、見附さんは細密な線を用い、海外の建築物や装飾品から発想を得た幾何学文様で埋め尽くします。写真のものは、イスラム教のモスクや帝国ホテルの装飾にもみえます。うつわの裏側みるの大好き。

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山本茜

箔を切って張り付ける截金(きりかね)は、主に仏像や仏画を荘厳(しょうごん)する時に使う技法です。エミール・ガレや藤田喬平もガラスに箔を入れていますが、彼らの作品は四角いままの箔が溶けてひび割れています。山本さんは切り出した模様をガラスに挟み込むことで、キリリとした線のまま表現しています。

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髙橋賢悟

アルミ鋳造による動物の頭蓋骨や花々は、2011年の東日本大震災を契機に制作されるようになりました。人為で人の命が大量に失われた戦争の後には、身体的苦痛を感じさせる重苦しい表現が多く見受けられますが、自然災害という人間の力では抗い難い事象の後には、感傷的な、脆く儚い表現になるのでしょうか。一方で、細かいシワや筋には、ほのかに命のあたたかさも感じます。

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新里明士

うつわの素地に穴を開け、そこに透明な釉薬の膜を張って窓のようにする蛍手(ほたるで)の作品は、レースのカーテンから光が注ぎ込むようです。釉薬を掛けずに穴を開けたままにした「穿器」も展示されていました。一見するとプラスチックのカゴにもみえますが、無釉なのできっと土のサラサラとした肌ざわりなのだろうと思います。

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坂井直樹

手仕事系のセレクトショップのようなコーナーが現れました。坂井さんの作品は、すっきりとした形と華奢な鉄線が洗練された印象です。急須の腹をよく見ると、ブツブツと槌で叩いた跡がついており、柔らかさや温かみが伝わってきます。
5artsのラリックの展覧会でも書きましたが、加工によって質感が変わる点に惹かれるので、坂井さんのコメントに共感しました。

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安達大悟

黒縁の点や線が水平に続く巨大な布地は、折り畳んだ布を板に挟んで染める板締め絞りの技法で制作されました。にじむ黒縁の内側が染められている模様は、着色した細胞を顕微鏡で見ているようです。模様の出方や色彩は綿密に計算されているそうで、意匠をデザインするのではなく、技法の特徴を活かしたテキスタイルは新鮮でした。

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橋本千毅

橋本さんの作品は、漆に螺鈿や金属の薄い板で装飾を施しており、螺鈿は色分けされたうえで使用されています。水色、ピンク、黄緑色の螺鈿の花が黒漆に鮮やかに浮かび上がります。黒漆は空間を想像させる余白というよりは、この花の彩りを引き立たせるためのように思えました。柄物のスカートに無地のトップスを合わせるようなものですね。

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佐合道子

白い陶土に、繊細な襞、フジツボやサンゴにも似た造形物がびっしりと貼り付いています。佐合さんの作品は、イッチン(絞り出し)やフロッタージュ(摩擦画)のような技法で、作家の作為・手跡を残さないように制作されています。だからでしょうか、作品からはおのずから生えてきたかのような生命力を感じました。

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桑田さんや安達さんのように、素材や技法に着目した表現をしている作家さん。見附さんや橋本さんのように精緻な手技を極める作家さん。佐合さんのように不揃いな作風の作家さん。本展では、多様な現代作家の作品を見ることができました。
彼らは、ただ単純に伝統的な技法に現代的な感覚を反映させているのではありません。先人たちは何を表現してきたのか、自分は何を表現するのか、この技法ではどのような表現ができるのかを、「伝統工芸」「継承者」といった概念に過度に捉われず、気負わず、フラットに考えているのかなと感じました。



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