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中国を旅行する技術 (2024年11月版)

これは ITソルーション室 Advent Calendar 2024 5日目の記事です。
主催者曰く「技術者の聖なる祭典」とのことで、"技術"話をします。


日本から近くて遠い国、中国。
旅行オタクの間では中級の難易度、韓国や台湾より難しくカンボジアやミャンマーよりは簡単とされています。
中国旅行の障壁は何でしょう?反スパイ法?国際関係?それらもありますが、特に大きい要因としてクレジットカードや現金がほぼ使えないこと、Googleなど西側諸国のアプリが締め出されていること、日本語や英語が通じないことが挙げられます。滞在に不可欠なQRコード決済や鉄道予約など中国独自アプリのサービス内容は頻繁に変わり、実際に利用したオタクの備忘録が命綱です。
本記事では、そんな中国を旅行する技術について2024年11月時点で最新の情報を紹介します。今後渡航する皆様の参考になれば幸いです。

上海・外灘の夜景

ビザ

世界一強い日本国旅券をもってしてもビザが必要な国の一つが中国でした。
つまり、これまで最重要事項はビザ取得だったのですが…

中国外務省は22日の記者会見で日本を含む9か国に対して短期滞在のビザを免除する措置を今月30日から実施すると発表しました。
ビザの免除は出張や旅行などで中国を訪れる多くの日本人が利用していましたが、中国政府は、2020年3月に新型コロナウイルスの感染拡大を受けて停止しました。
今回の措置では、人々の往来の利便性を高めるためだとして、これまで15日としていたビザなしの滞在期間を30日に延長し、実施期間は2025年末までとしています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241122/k10014646771000.html

とは言え時限措置ですし、日中関係の悪化やパンデミックで再びビザ免除措置が中止される可能性は十分ありますから、備忘録として筆者が渡航した2024年11月中旬時点での入国方法を記載します。

トランジットビザ免除

日本と中国の単純往復ではなく、途中に第三国を挟むとトランジット扱いでビザが免除されます。滞在可能時間は24時間または72/144時間、後者は空港の周辺地域を出られません。筆者は「日本→中国→韓国→日本」の航空券を購入し、この方法で入国しました。なお第三国には香港・台湾・マカオも含まれます。「日本→中国→第三国」でなく「日本→第三国→中国」も可能ですが、ボーディングパスを発券するにはトランジットビザ免除措置で入国する旨を航空会社のチェックインカウンターで説明する必要があり、語学力に不安を持つ方は日本から直接中国へ向かうことを推奨します。

上海浦東国際空港の臨時入境許可シールと出国スタンプ

事前対応は要りません。入国審査場の外国人窓口またはトランジットビザ免除窓口に臨時入境外国人入国カード (飛行機で配られる通常の入国カードとは違うため空港で受け取る)・出国に使う飛行機などのチケット (または予約控え。一部ウェブサイトに「座席が確保された航空券」と書かれているが、飛行機など完全予約制の交通機関なら座席番号が分からなくてもOK)・宿泊施設の予約控えを提出することで臨時入境許可シールがパスポートへ貼り付けられ、入国できます。分からない時は空港職員に「144 hour transit」と聞きましょう。

https://www.jetro.go.jp/biznews/2023/10/946ed8c68975b8b9.html より

入国可能な空港・鉄道駅・フェリーターミナルが指定される一方で出国に使う国境は問われませんが、先述の通り座席指定済チケットが要求されるため、例えば深圳の福田口岸まで地下鉄で移動、徒歩でパスポートコントロールを通過し香港の落馬州から再び地下鉄…のように出ることはできません。

特区旅游ビザ

深圳・珠海・厦門の一部国境で発行されるアライバルビザ (到着地で発給されるビザ)。窓口で写真を撮影し、申請用紙とパスポートを提出します。費用は3000円程度、1時間程度で発給されますが1日に対応する人数が決まっており、あまり遅い時間に行くとダメみたいです。滞在可能時間は地域により3~5日間、申請した特区のエリアから出ることはできません (深圳なら深圳市内のみ)。またシングルエントリーのため、再入国するには再度ビザの発給を受ける必要があります。無料かつ滞在可能区域の広いトランジットビザ免除と比べ旨味の少ない制度ですが、帰りに第三国を経由する必要が無いため、日本→香港→深圳→香港→日本の単純往復ルートが使えます。深圳だけ行けば充分なガジェットオタク向け。

観光ビザ (Lビザ)

トランジットビザ免除や特区旅游ビザが使えない場合は通常の観光ビザを取得することになります。代行業者または最寄りのビザセンター・総領事館にて申請できますが、前者は2万円程度と高額、後者は貴重な有給休暇を旅行の準備だけに2日も消費する必要があり、よほど変な場所に行く・変なルートで渡航する方以外にはオススメできません。

決済

国際クレジットカードは一部の公共交通機関や外国人向けホテル以外で使えません。また、現金も偽札防止やコロナ対策で一気に淘汰され使い辛くなっています。

Alipay (支付宝)

PayPayとよく似た、Alipayのトップ画面。日本語翻訳は微妙

中華通販Aliexpressで知られるアリババのQRコード決済。現在はVISA・Mastercardなど国際クレジットカードから直接支払えるため、上海銀行が提供する外国人向け口座機能「Tour Card」の作成は不要です。

決済に使うクレジットカードはトップ画面の「マイページ」→「銀行カード」から管理できる

クレジットカードは「銀行カード」から登録 (これ誤訳?) 。念のため複数のカードを用意し、うち1枚はスムーズに決済が通るよう3Dセキュア機能を無効化しておくことをお勧めします。

PayPayと同じく、店舗のQRコードをスキャンする方式は個人店に多い

使い方はPayPayと同じ。「スキャン」ボタンで画面に表示されるコードを提示するか、「支払い・入金」ボタンでカメラを起動し店舗のQRコードを読み取り決済します。ただし外国人は中国国外で使えないため、日本出国前に「Alipay」シールの貼られた店舗で動作テスト…はできません。中国に着いたらすぐ自販機やコンビニで支払えるか確認しましょう。

一部チェーン店のQRコードをAlipayでスキャンすると注文画面が表示される。中国語を一切話さずに外食可能

モバイルオーダー機能を提供する一部チェーン店で中国語を話さずに注文できる他、トップ画面の「モビリティ」ボタンから地下鉄やバスの運賃も支払えます。予め各都市の公共交通カードを発行し、表示されるQRコードを駅の自動改札やバスの運賃箱にスキャンすると通過できます。

QRコード決済は地下鉄の自動券売機でも使える。公共交通カードが発行できなかった場合に有効

WeChat Pay (微信支付)

中国版LINEことWeChat (微信) に付属のQRコード決済機能です。Alipayと並び代表的な決済手段ですが、WeChatユーザのQRコードを読み取らないと新規登録できない旧mixi方式に改悪され、外国人観光客の利用が難しくなっています。

ただし、QRコードを読み取らず登録できる機会も定期的に提供されるようです。個人店や会員制・予約制のスポットなどWeChatオンリーの店舗も存在するため、できればアカウントを確保したいものです。

クレジットカード

先述の通り国際クレジットカードは殆ど使えません。中国発のブランド「銀聯カード」は三井住友カードなど国内企業も扱っており日本出国前に調達できますが、意外と使える店舗が少なく、旅行程度でわざわざ発行するメリットは薄いと言えます。

現金

中国当局は現金拒否を違法としており、適宜指導も行っているようですが、個人店での拒否や釣銭切れ、地下鉄の券売機が使えず有人窓口を開けてもらうなど様々な問題が報告されています。「現金ならどこでも使えるだろう」の考えは捨て、他の決済手段が使えない場合に備えた最低限の両替に留めましょう。

インターネット

中国のインターネットはけしからんグレートファイアウォールにより、西側のけしからん内容が遮断されるため、現地購入のSIMカードやフリーWi-FiではGoogle・X (旧Twitter)・LINEなど我々の生活に不可欠なサービスが使えません。ジャパニーズオタクは以下のような方法で検閲を回避し、旅行中にカスのツイートを垂れ流しています。

VPN

VPN (Virtual Private Network) ソフトウェアで通信を暗号化する、最も代表的な手法です。安価なSIMカードやホテルのインターネット回線を活用でき通信コスト削減に繋がります。

無料で使えるSoftEther VPN+VPN Gate

無料・有料問わず様々なサービスが存在し、NordVPN・MillenVPN・ExpressVPNなどが旅行者の間では主流のようです。筆者は核実験施設筑波大学が誇るVPN Gateを使用しました。無料で使える一方、回線が遅い・複数のサーバを試す必要があるなど、やや玄人向けのサービスです。

特別回線のSIMカード、レンタルWi-Fi、国際ローミング

Trip.comのVPN付きeSIMやグローバルWiFiの特別回線、香港の通信会社が販売するSIMカードはグレートファイアウォールを経由しないルートで通信するため、特別なソフトウェアを用意せずとも検閲を回避できます。国内キャリアの国際ローミングも同様ですが、プランによっては高額請求が発生し得るため、予め料金体系を確認しておきましょう。

アプリ

Googleが遮断されるということは、Googleマップが役に立たないということです (進次郎構文)

百度地図の画面。乗換案内や時刻表の確認もできる

QRコード決済の他に「百度地図 (または高徳地図)」と飲食店などのレビューアプリ「大衆点評」は必ず入れておきましょう。その他、使いそうなら「鉄路12306 (後述)」・フードデリバリー「美団」・ライドシェア「滴滴」など…中国人向けアプリなので、画面はもちろん中国語。検索欄は日本の常用漢字を受け付けるためコピペや日本語・英語入力で何とかなりますが、中国語履修済の方はピンイン入力機能を有効にすると更に便利です。

12306 (後述) の本人確認で必要な自撮りの例

ところで、これらのアプリは本人確認と称し、携帯番号・パスポート番号・顔写真などを頻繁に要求します。監視社会、怖いねぇ…
しかし現地のアプリを使いこなさないと何もできないため耐えます。個人情報を中国に捧げるか、航空券をキャンセルするかの二択です。

ホテル

日本人が宿泊を拒否された事案は記憶に新しいですが、現在の中国に外国人お断りホテルは制度上存在しません。ただし、全ての外国人は宿泊開始後24時間以内に最寄りの公安機関へ登記が義務付けられており、この手続きを代行しない施設が事実上の外国人お断りホテルと言えます。

上海某所のホテル。大手チェーン「錦江之星」系列で外国人にも優しい

個人経営の旅館、中国語サイトにしか掲載されていないホテル、外国人レビューが無い宿泊施設などを避ければチェックインのトラブルはまず起きません。国内旅行で迷ったら東横インの法則と同じですね。

ホテル予約時:利用条件の確認、ヨシ!

予約サイトはTrip.comを強く推奨。宿泊拒否時に全額返金+代替ホテル確保の手厚い補償を受けられます。

電源

コンセント

日本と同じAタイプを採用しており、変換プラグは要りません。ただし電圧が220Vと高く、日本から持ち込んだドライヤーなどマルチ電圧非対応の家電を使うには変圧器が必須です。

125V×7A=875W。200W程度の充電なら基本的に問題無い

パソコンやスマートフォンのACアダプタはほぼ全量が100V~240V入力のため挿し込むだけで使えます。「125V 7A」表記の日本仕様ケーブルでもパソコン程度の電力なら異常動作は滅多に起きませんが、メーカーが保証している訳では無く、使用時は自己責任でお願いします。

モバイルバッテリー

中国はモバイルバッテリーの航空機持込規則が厳しく、容量が大き過ぎるものや容量が印字されていないものは手荷物検査で没収されます。出発前に本体裏面の表記をチェックしましょう。

容量が印字されていても、27000mAhを超える大容量モデルは没収の可能性有

都市間鉄道

高速鉄道や長距離鉄道のチケットは電子化されました。身分証番号と予約情報が紐付けられており、窓口で紙のチケットを受け取ることなく、改札口の読取機にパスポートをスキャンするだけで乗車できます。

中国の身分証が必要な自動改札を使えない外国人は人工通道 (有人ゲート) に並ぶ

予約には中国鉄路公式の12306アプリ、またはTrip.comを使います。12306は昨年末から外国人対応の一環として、中国の電話番号を用いたSMS認証が任意となり、メールアドレスだけでユーザ登録できるようになりました。ただし本人確認のためパスポートの顔写真ページと自撮り (顔とパスポートの顔写真ページの両方を映す) 写真を送信する必要があります。Trip.comは日本語で予約可能、面倒な本人確認も不要と至れり尽くせりに見えますが、運賃と別に発券手数料を徴収されるため、数百円程度の単距離移動では支払い金額が倍になることも…

高速鉄道の整備が進む一方、安価な客車列車も現役

言語

英語はほとんど通じません。上海浦東国際空港のチェックインカウンターもダメでした。大学の第二外国語や神戸中央区元町のニーハオハンユー講座を受講する、毎日Duolingoをプレイする、会話帳を持ち込むなど多少の中国語スキルを身に付けてから渡航することをお勧めします。

英語表記も中国語未履修者にはあまり役に立たない

リスク

交通事故

特に電動バイクが危険です。台数が非常に多く、歩道・車道問わず爆走し、オマケに音で接近が分かりません。

上海地下鉄・張江高科駅前の路駐バイク群。全て電動車

右折車にも注意しましょう。中国は右側通行のため、殆どの交差点で矢印信号が出ていなくても右折できます。

献忠

最近流行りの無差別殺人です。明代末期に四川で大虐殺を起こした農民反乱の指導者、張献忠に由来し「献忠」と呼ばれています。対策の難しいリスクですが、これまでに起きた事件の傾向を考えると、公園な高齢者や子供の多いオープンスペースに長時間滞在することは避けるべきでしょう。

反日感情

これも回避の難しいリスクですが、そもそも反日感情が高まりやすい時期に渡航しない、むやみやたらと国籍を開示しない、複数人で外出中はできるだけ日本語の会話を避ける、といった対策が挙げられます。人口13億の中国には様々な人が居るため「成都行ったけど、日本人にもめちゃフレンドリーだったよ!」など "たまたま無傷で済んだ" 旅行者のコメントを無批判に受け入れないことが大切です。

在上海日本国総領事館「安全の手引き ~海外で安全に生活するために~」より

反スパイ法による拘束

まずあり得ません。大抵の方はスパイ容疑より前に交通事故で死にます。とは言え社会主義国家へ渡航する訳ですから、北朝鮮に行くノリで準備・行動するくらいが丁度良いと思います。具体的に、筆者は以下の対策を行いました。

パスポート紛失

中国では身分証、つまりパスポートの常時携帯が義務付けられており、紛失した場合は最寄りの公安局で护照报失证明 (パスポート紛失証明) を入手する必要があります。パスポート再発行後にビザの発給を受けてから帰国するため、全手続きの完了に2~4週間掛かります。長期欠勤で社会的に死ぬリスクがありますから、貴重品の管理には十分気を付けてください。

その他

その他のリスクとしては、スリ、トコジラミ被害、食あたりなどが挙げられます。なお、都市部の治安は東南アジアやアメリカと比べ安定しています。

おわりに

いかがでしたか?中国旅行に便利なアイテムは中国人の友達・中国の電話番号・中国籍です。今すぐ日本国籍を捨てましょう (は?)

最後になりますが、去年の中国旅行ブログが最早役に立たないのと同じく、この記事も来年には使い物にならなくなるでしょう。今後ノービザで渡航する各位、帰国したら最新情報の公開をよろしくお願いします。コメントや間違った内容の報告も大歓迎です。

オタクの好きな「鎌と槌」もあります

それでは、ご安全に!


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