ひとつの瞳に宿った涙(ショートストーリー)

僕の瞳は、大きなひとつ。
髪は白髪で、目は赤い。
誰にも愛して貰えないと思っていた。
だから、全身を隠している。

風が吹けば、包帯が揺れる。
その白さには穢れがない。

だけど、思うんだ。
僕はなんて醜いんだろう。

なぜ、人と違うのだろう?

誰か……。
誰か、僕の声を。

聞いてほしい。

+

「あなたは泣いているの?」
一番最初に逢った日に、幼かった少女の君は乾いた大地に横たわり死にかけだった。

金色の髪もお姫様みたいなお洋服もすす汚れて、君の左足首には足枷がはめられていた。
なのに海のような瞳だけが生きることを望むように揺れていた。

一つしか目がないのに、ふたつ分以上の涙が出た。

「……ありがとう。あなた、優しいのね」

僕の涙が君の胸に雫を落としてゆく。
力ない指先が、震えながら僕の頬に触れ、僕の涙を拭った。

そして、その涙を、自らの口に運んだ。

「とても綺麗。とても美味しい……」

僕はたったそれだけで、君に恋をした。

それから君は、僕を「神様」とか「恩人さん」と言うようになった。

(僕は誰かのためになれるのだろうか?)

(僕もいつか愛してもらえるのだろうか)

+

乾いた大地の旅の中、君はいつも僕より前を歩き続け、僕が不安で立ち止まる度、振り返ってくれる。

最終目的地はオアシスだった。
何度も蜃気楼に騙される。

この先にあるように見える水もきっと偽物だ。
なのに見つける度、君は目を輝かせ笑う。

「僕はこんなにも醜くて……」
なのに、いつまで経っても、愛する人にさえ素顔を見せられない。

「不安なの……? 私、あなたがどんな顔をしていてもいいの」
ビクンッと顔をあげた。
「でも、僕は君に」
「どんな顔でも、もし人間じゃなくても醜悪でも、私には神様……。私には恩人さん」

だから、と抱きしめてくれる。

「あなたは、あなたのままでいい」

それは、ずっと僕が欲しかった言葉だ。
隠してる僕ごと愛してくれる言葉だ。

「あなたがくれた命だもの。あなたが使っていいんだよ」
抱きしめたい。見てほしい。ほんとうの僕を受け入れて愛してほしい。

「僕が……」
「ん……」

もしも僕が君を愛してると言ったら……。
この関係は壊れてしまうのか……?

「こわいのは私もだよ」
「……」
幼かった君は、あと数か月で成人する。大人になりたくないなって、それが君の口癖。
「愛してほしいのは私もだよ……」

僕は、君だけは信じなきゃいけないのかもしれない。
「僕を見てくれる……?」

「うん」

せっかく君が言ってくれたのに、包帯を外しきることは出来なかった。
怖かったんだ。君に嫌われるのが、とても。

「……私ね」
大地に崩れ落ちた僕は、ふと君を見上げた。

「滅びた王国のお姫様だったの。でも、戦争に負けて奴隷になった」
「!」
「こんな穢れた私、愛されないよね……」
「違う!」

(違う。そうじゃない!)
(言わせたかったんじゃない!)

「こわかったんだ!」
「なにが!?」

初めて見た。君が怒った顔を。

「僕は一つ目だから!!」

中途半端にほどけていた包帯を、僕は引きちぎった。
そして、君の驚く顔を見た。

「ほら、僕は……」
両手で、ぐしゃぐしゃに濡れた顔を覆った。
「なんて」
「僕は醜いだろ!?」

「なにがいけないの……?」
とても優しい表情だった。

「でも」
「……私に命をくれた人が穢れてなんているわけないじゃない!」

キツく抱きしめられて、とても綺麗な君の涙が、僕の肩に落ちるのを感じて。
(愛しい……)

ただ、愛しいと思った。

「一緒にオアシスに行こう」
君はとても綺麗だ。

どんな時も僕に光をくれる。
「行きたい。君と見つけたい!」

「……そういう時の言葉があるんじゃない?」

耳元で囁く君の愛が、ようやく信じられた気がした。

「愛してる」

僕らは潤った。

「私も」

例え、この先もオアシスが見つからなくたって、僕らは、互いを補うだろう。

「行こう!」
君のその白くて美しい手をとって、僕は歩き続ける。

end

作るものがとても多いので、サポートが必要です。クリエイター活動費にさせていただきたいと思います。宜しくお願いしますm(_ _)m