NewsPicksが5月27日に公開した動画「落合陽一 “インターネットの息苦しさ”を考える」を視聴しおわった時、ある既視感が私をとらえた。

——これって交通事故の話と同じだ。

 3人の出演者と6人のゲスト、総勢9名によって議論されていたのは、「ネット上のトラブルをどのように防ぎ、起きしてしまったらそれを解決するのか」をめぐる討論だった。この番組は、フジテレビのリアリティー番組「テラスハウス」の出演者だったプロレスラーの木村花さんが、ネット上での誹謗中傷を受けて自殺したことを受けて企画された。

 さて、その既視感というのは、「ネット上のトラブルで、人が傷ついたり、心を病んだり、死んでしまうことがある、というのが、交通事故の場合にとても似ている」ということだ。

・ 交通事故によって人は、怪我をしたり、亡くなることだってあるし、身体的、精神的に後遺症に苦しむこともある。まさにネット上のトラブルもこれと同様だ。

・ 交通事故には故意もあれば過失もある。これも同じだ。傷つけることを意図した投稿によって人が傷つく場合もあれば、悪意のないメッセージに傷つけられる場合もあるだろう。

・ 交通事故には、事故に関わったドライバー以外の要因、見通しの悪い道や、悪天候、信号機の有無なども関係する。ネット上のトラブルも同様で、今回の場合テラスハウスの番組作りなどが、当事者以外の要因として働いていた。

 次に思いついたのが、「ネット上のトラブルと交通事故とはこれだけ似ているのだから、交通事故の解決策をネット上のトラブルに応用できないのか?」ということである。

 私たちは公道で車を運転する限り、自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)への加入が義務付けられている。その理由は、交通事故の被害者が、賠償を受けられないケースや、加害者が経済的理由によって被害を賠償できなかったり、賠償のために困窮してしまうことを防ぐためである。

 交通事故の際、私たちは警察を呼ぶことによって、現場の証拠を保全し、怪我の程度については医師の診断を受ける。また、お互いの加入している保険会社に連絡することにより、後の交渉を保険会社の職員に代行してもらうことができる。さらに、過失割合について争いのある場合については裁判で決着をつける。

 交通事故の場合の上記のような仕組みも(まだ詳しく調べていないのだが)、自動車がこの世に誕生してからすぐにできたわけではなく、交通事故にまつわる様々な問題を人々が認識するにいたって、一つずつ制度が整えられたものであろう。

 インターネットがこの世に誕生して34年——ネット上のトラブルの弊害については、今やっと認識が広がりつつある段階だろう。インターネットが私たちの社会的な発信のハードルを下げ、発信を高速化したことは紛れもない事実である。ネット上のトラブルで傷つく人が増えたことは、この恩恵の副作用であり、必然的な結果だと言える。今私たちが直面している問題は、自動車が普及し始めた時とまさに同じである。

 ネット上で名誉毀損や誹謗中傷を受けた場合、現行では被害者はプロバイダ責任制限法に基づき、加害者の発信者情報の開示などを請求することができるが、開示がなされないケース、開示に時間がかかるケースがあるなど、多くの問題点が指摘されている。また、発信者情報を突き止め、裁判で加害者側に賠償が認められたとしても、弁護士費用などと比べた時に賠償額が安すぎて訴訟の意味がない、との指摘もある。

 これらの問題点が、現在の交通事故の場合のように簡単にクリアできる未来を私は妄想する。

・ まず、ネット上で何らかの発信を行う個人は、保険に加入することを義務付けられる。

・ 被害を受けたと感じた個人は、警察の中でネット上のトラブルに特化した部門にすぐに連絡をする。

・ 警察は加害者がアカウントを消してしまったりする前に、プラットフォームやプロバイダの協力を得て、ネット上の証拠保全を行う。

・ 警察または被害者が加入している保険会社の職員は、加害者と目されるユーザーに、「あなたの発信によって被害を受けたと言っているユーザーがいる」ということを通知する。(番組中で、現行制度が対応できていない場合として、加害者が多数で被害者が一人の場合、被害者の時間的・費用的負担が大きくなりすぎることが問題点として挙げられていた。加害者と被害者の間に保険会社またはネットトラブル専門警察が入ることで、被害者にとてこのプロセスが負担なく進められることが必要である。)

・ 被害者は、被害を認定する専門家の診察や面談を受け、被害の程度についての認定を受ける。

・ 加害者とされた人は、過失の有無について争うかどうかを決定し、争わない場合は、速やかに保険会社を通じて賠償し、争う場合は裁判によって過失割合などが判断されることになる。(裁判のやり方について、加害者が多数で被害者が一人の場合にも被害者の負担が大きくなりすぎないようにする改善が必要である。また訴訟費用の方が賠償額よりもはるかに高くなるような現状も改善される必要がある。)賠償の一部はお金ではなく、医療やカウンセリングなどの現物で支給される。加害者は、場合によって、発信の制限や講習を受けることの義務付けなどのペナルティーも課される。

・ 過失を受け入れた加害者、または、裁判で過失ありとされた加害者は、保険の等級が下がり、保険の掛け金が高くなる。一方で、一定期間「無事故」の実績があれば、保険の等級が上がり、保険の掛け金は安くなる。加害を繰り返すユーザーは、掛け金の負担のために大金を支払うことを受け入れるか、発信をやめることを余儀なくされる。

・ ユーザーが支払った保険の掛け金の一部は、ユーザーのネットリテラシー向上やトラブル防止のための教育の原資となる。

 ざっと考えただけなので、これをこのまま実現するには色々と困難な点があるのかもしれないが、あなたはこのような未来をどう思うだろうか?


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?