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RED OUT 二次創作

今の俺の立ち位置はどうやら、日本でも指折りのトップミュージシャンらしい。
――なんて輝かしい。
舌打ちとともに唇を吊り上げる。
こんな地獄と知ってりゃあ、ここまで来なかったさ。

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常に音楽を創ってきた。
「思春期」とも称される学生の時期、どこにも居場所がなく、がやがやと賑やかな教室をまるで牢獄のように感じていたあの頃から。

いつも浮いている感覚を、同級生たちとの会話の中では着地する場所を見つけられなくて、ある日どこか出口を探るようにして言葉に綴り、音楽としての命を与えた。
自分と同じようにように、なぜだか日常に居場所を感じられない人が集う界隈でそれを公開してみたところ、その音楽は石を投げ打つように、多くの人の心に波を立てたようだった。
まぁ有り体に言えば、人気が出たのだ。

俺は嬉しかった。
多くの人に再生されたからというだけじゃない。
何もしなければただ死ぬのを待つだけだったに違いない、あぶくのような自分の中の感情たちが、音楽として生を与えることで何か価値のあるものになった気がしたんだ。

それは深い癒しのような、自分を解放してくれるような、何より新たな力が湧いてくるような強い充足感をもたらした。
創造することで、表現することで、俺は生きていける。
このクソみたいに折り合いのつかない世界でも、きっと。

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まさかここまでとはな、とたまに思う。
でも同時に、こうなることは必然だったともどこかで理解している。

あの頃から想いは変わらず、感情のあぶく達が消えることもなかったから、それらを少しでも生かしてやりたくて曲を創り続けた。
聴いてくれる人たちとか、曲の打ち出し方なんかが変わったりもしたけれど、根底にあるものは変わっていないはずだ。
でもなるべく、多くの人が自然に楽しんで聴けるものの方がいい。
表現することは楽しいけれど、自己満足で終わっちゃ意味がない。

そんな気持ちで、自分とも世界とも真摯に向きあう営みを続けてきた自負はある。
気付いた時には「人気」ってやつが俺の行く先にまとわりついていて、しかしどこかでそれを当然とも認識していたから止まるという選択肢はなかった。

ただ、最近声がするのだ。
誰かは分からないけど、うざい奴だ。

(――こんなところに、来たかったの?)

あぁ、まただ。
こいつが出てくるとき、俺はいつもあたまが痛い。

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知名度が上がるたびに、人々の中に自分の虚像が作られていくことには気付いていた。
それは俺にとって皮肉なことだったんだ。

大事なものは目に見えないなんて陳腐な言葉だが、いっぱしな顔で社会生活を営んでる自分なんかよりも、趣向を凝らしてなんとか音楽で上手に表すことが出来たものの方が、よっぽど俺の本質だった。
だが望んだこととはいえ、それが大衆化されるということは、芯を食ってない上っ面な断片が勝手に像を作り、人々の頭に蔓延していくことでもあった。
もう自分では到底コントロールできない現実を突きつけられ、引き返せないところまで来てしまったのだと知る。

――だが、それがなんだ?
俺は常に最善を選択してきた。
正解なんていつの時も分からなかった。だからこそ、その時の最善を選んでベストを尽くしてきたつもりだ。

辿り着いた場所がここなら、俺はここで音楽を鳴らすしかないんだ。

(大衆に消費されるために付けられた値段も?)
(のさばるお偉いさんの的外れな戯言も?)
(もう先が見えないくらい順番待ちのデッドラインも?)

そうだ。いつだって現実はクソみたいなもんでしかねえんだ。
もう次の音が、奏でられるのを待っている。
捉えたい情景なんて、一秒も待たずに色褪せていくのだから。
止まっている暇はない。
一度走り始めた奴は、もう走り続けるしかないんだ。

(――本当にそれでいいの?)
うるさい。誰だ。誰でもいい。黙れ。

(――思い出して)
消えろ。邪魔をするな。もう降りられないんだ。

(僕はそんな風になるために――何かを創ろうとしたわけじゃない)

ひどく頭が痛い。
さながら地獄の亡者を見るように、おそれるように、あわれむように声は鳴る。
まるで破傷風のように、その声が身体中を蝕む前に。

次の音を鳴らさなければ。
みんなが俺を待っている。

どんなに魂を込めた音も、言葉も、すべて朽ち果てていくと知っても。

さぁ、ファンファーレだ。
道中どれだけ心臓が抉れようと構わない。
向かう先など、一つだけなのだから。



米津玄師さんの「RED OUT」の主人公を妄想して書きました。(主人公≠米津さん)
まさに、昇り詰めた者の絶望や苦悶が、今にもはち切れそうな緊迫感と疾走感で迫ってくる一曲!
主人公に米津さんの現状が投影されている部分は大いに感じさせつつも、ここまで血眼になって突き進む姿を臨場的に描ききる方なので、どこか俯瞰してその状況を楽しんでいるところもあるのでしょう。。。

米津さんの一人ひとりの目線に降り立った楽曲が大好きだけれど、新アルバムに1曲目からこんな形で新境地を見せつけられて滾り散らかしました。










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