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ただいるだけで

小学生の時、相田みつをの「ただいるだけで」という詩を担任の先生から教えてもらった。

あなたがそこに
ただいるだけで
その場の空気が
あかるくなる
あなたがそこに
ただいるだけで
みんなのこころが
やすらぐ
そんなあなたに
わたしもなりたい

という詩である。

私はこの詩を大変気に入り、同時に心に決めた。

この詩の人みたいになりたい!と。

みつをもこの人みたいになりたいかもしらんけど、私もなりたいよ!と。

それから時は経ち、中学生になった。

友達に強引に誘われる形で入った部活は、無駄に得意(とずっと思っていた)ソフトボール部。

のちにこのチームで結構いいセンまでいくのだけど、私が入ったころは、ほんとになんというか、荒れ狂っていたと言っても過言ではないくらい、ちょっと(かなり)ヤンキーチック(いやふつうにヤンキー)な先輩がどっさりいた。

先輩が決めた、守らなければいけないルールがあった。

「上級生の姿が一ミリでも見えたら何百メートル離れていてもその人に聞こえるように挨拶をせよ」

というものである。無理である。King Gnuみたいな拡声器がないと不可能である。

私はでも、なるたけ頑張って、このルールを守っていた。靴下も白のめちゃんこダサいやつを履いた。それ以外の色や黒い靴下は特に先輩しか履いたらダメだったからだ。しょーもない。このほかにもいくつか、いや、いくつも、謎のルールが存在していた。

しかし、先輩にヤンキーがいるように、後輩にも怖いもの知らずがいる。もろもろのルールや先輩のいうことに従わない者が、入部からまもなく、ちらほらと現れはじめた。

言いつけを守らない下級生に待っているもの。
それは「呼び出し」である。

放課後に呼び出されるのだ!
校舎裏みたいなところとか。非常階段とか。先輩たちのたまり場とかに。
薄暗い夕方、もしくはもう夜、怒られるのだ。
こえー先輩に。

私はこれが嫌すぎてルールを守っていたのだ。時間の無駄だと思っていたので…。

「じゃあ、今日は呼び出しするから!まずは〇〇ちゃん!」

ある日の部活動後、先輩が叫んだ。ヒッ…まずアンタら練習にも来ずに部室にたむろしてただけやん。。とは思うが、それは誰も言わない。言えない。

「それと〇〇ちゃん!」

次々に同級生の名前が呼び出される。顔が般若である。こわい。

でも、こわいけど、私が呼び出される心配はない。自分でいうのもなんやけど、めっちゃ真面目に穏便に過ごしているし、ルールは守るし、何より先輩がいるときは出来るだけ絡みたくないので、存在感が出ないように空気になってみたりしているから。

「あと〇〇ちゃんと~、ありさちゃん!」

え?は?ファ?

呑気にグローブを見つめていた私に戦慄が走った。

耳がおかしくなったのかとさえ思った。

ありさちゃん?ええ?いやいや、、、

心の中で言っていたつもりだったのに、知らず知らずに声になっていたようだ。

先輩が返事した。

「うん、ありさちゃん。おったほうがおもろいし」

その日は夜の雨の中、正座をさせられ説教をくらった。

先輩に説教をされている間、ずっと頭にあったのは、あの詩。

あなたがそこに
ただいるだけで
その場の空気が
あかるくなる
あなたがそこに
ただいるだけで
みんなのこころが
やすらぐ
そんなあなたに
わたしもなりたい

裏目に出る。

という言葉を辞書で引く。

ー 良い結果が出ると期待してしたことが、逆の悪い結果になること。

それから私は、呼び出し行事の常連になった。

先輩はおもろいと言うが、実際に呼び出されるともう先輩たちの頭には「挨拶をされなかった」ということしか無いので、私のおもろさ(なにが?)などは宇宙のチリと化した。

あの時のことが身になったことなどひとつしかない。

年下に靴下のこととかでイバり散らかすのは、ダサいなぁ。私はやめとこ…。

それだけである。

ありを







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