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私のporte bonheur(幸せをもたらすもの)

『空をゆく巨人」の全文公開も終わったことだし、通常の日記、もしくはエッセイ的なものに戻ろうと思う。

今日は朝から考えるべき問題と、それに付随した難しい議論が勃発し、あれこれと考えをめぐらせたり、関係者方々にメールしたりしているうちに午前中が過ぎていってしまう。時計をみると1時すぎ。ああ、やるべきことがなにひとつ終わっていない.......。

なんだかどっと疲労と空腹を感じ、やれやれ、そろそろ、お昼でも食べようかと思ったら、携帯がブルブルとしつこく震えていた。

やれやれ、また電話か。あとで掛け直せばいいか、とにかく誰だろう、と思って画面を見ると、WhatsappでSakina(サキーナ)とあるではないか。え、本当に!?

サキーナは、私の国連時代にオフィスで同室だったギニア人の女の子だ。ごく幼少の頃にギニアからフランスに移住してきたアフリカ系移民である。「パリの国連で夢を食う」にも大きく登場した彼女は、私にとってすごく大事な友人だ。いやいや、もう友人以上。彼女は私にとってporte bonheur(ポルトボヌール)なのだ。porte bonheurは、日本語にすると、幸せをもたらすもの、というほどの意味で、要するに、そこにいるだけで私を幸せにしてくれる人物のひとりだ。だから、どんなに忙しく、お腹が空いていても、この電話はひったくるように取った。

「アロー!」とフランス風にでると、「アロー!サマ!(私のニックネーム)ねえ、すごくいい考えを思いついたんだけど」とまるで昨日も電話をかけてきたような感じの口ぶりだ。

国連本に書いた当時、彼女はいろいろあってロンドンに移住したところだった。その後、しばらくロンドンに住んでいたが、今はすでにパリに戻り、モンマルトルに住んでいるという。大学生の頃から付き合っているリュカと結婚して2児の母だ。

「うん、いい考えってなに?」
「サマ(私)の娘はいま何歳だっけ?」
「4歳になったばっかりだよ」
「そうだよね!ねえ、私(サキーナ)の娘もいま4歳じゃない?」
「うん、そうだよね。それがどうした?」
「サマの娘は名前なんだった?」
「ナナだよ」
「だよね!!私の娘はニナなの。ニナとナナ。名前も似てるし、年も同じ。二人はいい友達になれるんじゃないかって思ったら、いてもたってもいられなくなって電話したのね。もうちょっと大きくなったら、ふたりを夏の間パリと東京で交換留学させるってどう?ね、いい考えでしょう!」

なんか私は嬉しくなって「ははー!それいいね、やろう、やろう」と答えた。彼女はまあまあ本気らしく、具体的な日程や方法などをまくしたてる。とりあえず、小学校半ばくらいになったら、ということなので、特に急ぐ話でもないのだが、サキーナはやたら盛り上がっている。

その後は、しばらくお互いの近況を報告し合いつつ、「ねえ、パリのデモは大丈夫なの?シャンゼリゼで車が燃えてるのテレビで見たよ」と聞いてみた。サキーナはいつものクールな声に戻って答える。
「もちろん、ぜんぜん大丈夫だよ。ま、もともと国王とか女王をギロチンにかけた国だから車燃やすくらいなんてことないだろうね。でもさ、今回車を燃やしてるの私たちみたいな移民じゃないから、そこんとこちゃんと覚えておいてよ!」
その言い方がいかにも彼女らしくて、私は心から笑った。

「ところでサキーナはいまパリの家から電話してるの?」
「いや、出張中でマダガスカルにいるよ」
「マダガスカルから電話してるの?わざわざ?」
「そうそう、だって思いついちゃったからさ!早く言わないとと思って」

おかげで、朝から続いていたモヤモヤした気分が吹っ飛んだた。サキーナ、なんていいタイミングなんだ。やっぱり彼女は、私の porte bonheurなんだなーと思った。


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