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パプアの奇跡。流されたはずのカメラが戻ってきた。そこに映っていたのは——?

これまでのサーフィンライフの中で、今のところ最高のトリップとして記憶されているのが、パプアニューギニアだ。

今も電気のない暮らしを送る村が無数に集合し、子供達の5人に1人は文字通り素っ裸。大人達は「ビートルナッツ」と呼ばれる嗜好品の赤い実を石灰の粉と共に噛みしだき、血糊のようなツバを吐き出す。そのためか、空港でも道路でもそこら中の地面が真っ赤っか、そんな不思議な場所である。

国名になっている「パプア」は「縮れ毛」という意味らしく、僕は空港職員のオバちゃんに「 I love your hair」と天然パーマをえらく褒められてトリップがスタートしたのが印象的だった。

波乗りの城トュピラ

トリップに同行したのは、当時パプアニューギニアサーフィン大使を務めていた山田弘一プロと、フォトグラファーのチャーさん、そしてその他様々なバックグラウンドを持った5人の男女、合計7人のメンバーだった。ほぼ全員が空港で初顔合わせ同士である。

滞在地は、ポートモレスビー空港から車で3時間ほど北上したマダンという地域にある「トュピラ」という村だ。音的になんだかラピュタみたいで気が利いている。

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トュピラは、村全体がサーフトリップのデスティネーションとして外貨を集めるための体制を整えている。宿泊施設には巨大なゼネレーターが持ち込まれており、サーファーたちは不自由なく快適に過ごせる。そこで働く人々は期待通り皆フレンドリーだ。

そして、コテージの目の前では、毎日コンスタントに頭サイズのパーフェクトライトがブレイクしている。サイズが上がればピークの奥にはチューブが出現するが、手前は比較的メロウなファンウェーブ。目にした瞬間、瞳孔が開くのを感じるほど極上の波である。ここを、5日間7人で貸切れるなんて、なんというパラダイス。

決して安い費用ではないし、マラリア予防の薬を前もって飲む必要があるなど、トリップ先として多少ハードルは高いが、その価値は十分すぎてお釣りが来るほどあると言える。

トリップのために購入したGoProモドキ

僕は、目の前で割れ続ける波を見て、トリップ直前にGoProモドキ(ホンモノは高すぎて手が出なかった)のアクションカメラを購入しておいてよかった!と心底思った。これほど極上な波でのサーフィンを記録しない手はない。

到着した日の午後、僕は早速カメラをノーズにマウントして1ラウンドに繰り出した。しかし、その日はトリップ中で最もサイズがあり、セットでダブルのパワフルなブレイクは、長旅を終えたばかりの体には少々ハードだった。足がつりまくって、いいフッテージを残すどころではない。 僕は二日目以降に期待した。

そして、カメラは流された

翌日も、波は相変わらず頭半のパワフルなブレイクだった。

初めて入るポイントでは、テイクオフの感覚を掴むまで苦労する。この時の僕も、ピークで一気に掘れ上がるトュピラの波に手こずっていた。一宮の柔らかい波なら立てるタイミングでは遅いのだ。

セットの波で思い切りパーリングをして水面に浮かび上がり、ピークを振り返ると、第二波が眼前に迫っていた。多分、ダックダイブが利かないタイミングだ。板を捨てて真下に潜る。

波をやり過ごして板を回収すると、すでに第三波がブレイクするところだった。再度板を捨てて体を棒にし、下へ沈む。

ようやくセットが過ぎ去り、回収した板に体を乗せて再びパドルを開始したところで、僕は違和感を覚えた。

ない。GoProモドキが——。

ノーズのマウントには、台座だけが残っていた。

三日目の奇跡

多分、マウントへの取り付け方が間違っていたのだろう。いくらモドキとはいえ、数万円はする代物である。トリップ二日目で海の藻屑となるなんてあんまりだ。

内心に失意を抱えつつも、来るセット全てが良い波だったことは救いだった。無心で波に乗ることだけに集中できるからだ。

自分でも納得できるライディングがいくつか出るようになった頃、「ああ、今からカメラが欲しいのに……」と悔しさがぶり返したが、その気持ちは良い波に乗ることで抑えた。

そして、三日目の夕暮れのことだった。

「イケちゃーん!!」

午後のラウンド後、ビーチコーミングをしていた同行者のNさんが、素っ頓狂な声を張り上げた。

彼女が摘み上げ僕に見せたものは——

紛れもなく、GoProモドキだった。

カメラは止まっていなかった

こんなことがあり得るのだろうか。

マウントから外れたカメラが、カレントによって岸に流れ着く。それ自体はわかる。しかし、決して大きくはない、あたりに無数に散らばっている石コロと同じようなサイズ、質感、色味のカメラを、偶然トリップの同行者が拾い上げるなんて。これはもう、奇跡と言っても差し支えないだろう。

しかも、カメラは録画状態で水中に沈んでいたから、そこには、ダイバーでもない限りお目にかかれない、パプアニューギニアの海底の様子が、バッテリーが切れるまでの1時間ほど、鮮明に記録されていたのである。

カメラを侵入者とみなしたのか攻撃を仕掛けてくるブダイ、強いカレント、浅瀬でワイプアウトしたら怖いなと思い知らされるソリッドなリーフ——、これらは、カメラが普通にマウントされているだけだったら絶対に見ることができなかったフッテージ。ある意味ライディング映像よりも貴重な思い出かもしれない。

Go For A Walk Under The Water

そこで、僕はこのフッテージをタイプラプスを取り込んだ映像に編集した。

この映像には、本稿で記した「パーリング→セット食らう→もう一度食らう→カメラ外れて沈む」の流れが克明に記録されている。

ちなみにカメラはカレントに身を任せて転がりまくるので、じっと眺めていると酔う。そこだけ注意して観ていただければと思う。

そして、ずっとカメラがゴロゴロ転がっているだけの映像は、ぶっちゃけ飽きると思う。だから、カメラが戻って無事に収めることができたライディングのフッテージ、そして、トュピラの人々が僕たちを歓迎して開いてくれた宴の様子も繋げておいた。水中散歩を1分ほど眺めて「あ〜こんな感じね」と思えたら、最後の方まで飛ばして観ることをオススメする

もう一度訪れたいデスティネーションNo.1

「今までのサーフトリップで訪れた場所の中からもう一度行きたい場所は?」と問われたら僕は迷わずパプアニューギニアを選ぶ。俗世から離れて無心で波乗りに没頭したい人ならぜひ一度訪れてもらいたい楽園だ。

パプアではもう一つ、ビーチコーミングで拾って持ち帰った貝殻にヤドカリが潜んでいた、という奇跡があったのだが、それはまた別の機会に。

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