リーンスタートアップの罠

去年の5月に『ズボラ旅 by こころから』という、LINEで相談しながら旅行を予約できるサービスをリリースした。
あれから1年半くらいが経ち、まもなく新しいプロダクトをリリースしようとしている(ありがたいことにズボラ旅も引き続きご好評いただいております!)。

ズボラ旅は、チャットというメソッドによってオンラインにおける旅行の予約という体験を刷新するためのプロダクトだったが、今回リリースするものはメソッドではなくもっと根本の、旅行を計画し、予約するという一連の行動に対する自分なりの未来予測や強い意志がこもったものだ。
まだまだ品質面では改善の余地は多々あるものの、旅行という非常に大きなマーケットを確実に一歩前に進める準備ができつつあることに、大きな自信と喜びを感じている。

これだけ煽っておいてなんだが、今回はプロダクトの話ではない。プロダクトづくりの話をしようと思う。


リーンにつくる

リーンスタートアップ論には賛否あれど、流行るかがわからないプロダクトにリソースをかけすぎず、最低限価値が伝わる品質でリリースして反応を見つつ、高速でPDCAサイクルを回す思想自体は、言うまでもなく素晴らしいものだ。
しかし、ここには「最低限価値が伝わる品質」が不可欠であり、その品質の水準をどこに置くかが、プロダクトに責任を持つ人間が最も深く考えなくてはならないことだ。

今回のプロダクトで自分は数ヶ月の間この水準を見誤り、結果として開発やマーケにおいて、すこし遠回りをしてしまった。スタートアップにおける遠回りは、着実に死に近づいていくことを意味する。あのまま進んでいたかと思うと恐ろしい。恐ろしすぎて、自分への戒めのためにこのnoteを書いているぐらいだ。


リーンに必要な「品質」


ここまで書いてきた通り、今回のテーマはリーンスタートアップにおける「最低限の品質」についてだ。
ここで例として、自動運転の車を世界ではじめてつくる人になってみようと思う。

リーンスタートアップの考えに基づき、カーナビや細かな車の装飾など、「自動で走ること」以外へのリソースの投下は避け、「ハンドルを握らなくても車が走る」状態をイメージし、プロダクトを作っていく。
ここで重要になるのが、今回のタイトルにつけた、リーンにおける「罠」だ。

この場合の最低限の品質は、ハンドルを握らなくても車が走るという「体験」であり、ハンドルを握らなくても車が走るという「思想」ではない。当たり前のようだが、これこそがリーンスタートアップにおいてはまりがちな「罠」だと思う。


思想は体験にのみ宿る


車が自動で走る未来をどれだけ謳っても、タイヤが3つしかついていない状態でリリースしてはいけない。車が自動で走る未来が見えているのはプロダクトを作っている人間だけであり、顧客にとってはただの「他社より見劣りする上にタイヤが3つしかなくて走れない車」だ。

顧客にとっては目的地に到着するという結果こそが本当に欲しいものであり、自動で走るかどうかは二の次だ。確実に目的地まで走って辿り着ける保証がないのなら、自分で運転したほうがマシなのである。
プロダクトに対する「思想」というのは、ある意味で作り手のエゴだ。大多数の顧客にとって思想なんてものは必要なく、新しい「体験」が得られるかどうかだけが重要だ。

つまり、リーンに必要な「最低限の品質」とは、プロダクトから作り手の思想が伝わる状態ではなく、絶対にできなくてはならない体験が過不足なくできた上で、そこに今までになかった革新的な思想が垣間見える状態だ。

この状態であれば、他の機能においては他社と見劣りするものの、垣間見える新たな利便性やワクワク感が伝わり、アーリーアダプターと呼ばれる顧客がつきはじめる。彼らの行動を細かく分析して、時にフィードバックを得ながらPDCAを回す。これこそがリーンの真骨頂だ。


スタートアップの失敗


これまで自分は、エンジェル投資や自身の体験を通して、数多くのスタートアップの失敗(ナイストライを失敗とは呼びたくない気持ちもあるが、ここでは便宜上失敗と呼ばせてもらう)を見てきた。

その中で最も多いのが、「タイヤが3つしかない自動運転の車」をリリースしてしまい、それが売れないことで思想自体に価値がなかった、と判断してしまうケースだ。

先日 LayerX福島さんも書いていた が、自分もある程度能力のある人間が特定の市場について徹底的なリサーチを行えば、そこそこの精度での未来の予測は可能だと思っている。
そもそもの予測が外れていたら話は別だが、多くのスタートアップにおける失敗は、予測した未来を実現するまでのプロセスに原因があるように思う。

「未来の予測に基づいてこんな思想でプロダクトをリリースしたが、思ったように反響が得られなかったので、予測/思想が間違っていた。」としてしまうのは早計かもしれない。


ちなみに


日ごろ全くと言っていいほど本を読まない自分は、『THE LEAN STARTUP』を読んだことがない。リーンスタートアップに関する知識も、人の伝聞だったり推測だったりが多分に含まれている。

ここに書かれていることはそもそもリーンスタートアップの定義そのものなのかもしれないし、みんなすでに知っているのかもしれない。でも、この手の「罠」にはまって失敗するケースをよく見るし、よく見ていたはずの自分もはまってしまった。今回、自分の中での「最低限の品質」を大きく変更することで、ようやく検証を始められる準備が整いつつある。よくやくスタート地点に立つことができて、すべてはここからはじまる。

せっかくの革新的な「思想」が伝わらず、スタート地点に立つことすらなくボツになってしまうのは悲しいことなので、みなさんも今一度自分たちのプロダクトを客観視して、タイヤが3つの車を強引に売ろうとしていないか再確認してみてほしい。

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