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令和2年一級建築士設計製図試験|高齢者介護施設において要注意な居室の採光


令和2年一級建築士設計製図試験の課題名『高齢者介護施設』で想定される用途における「居室の採光」に着目してみます。

過去の類似課題において陥りやすかったことの一つに、「居室の窓その他の開口部で採光に有効な部分」が建築基準法に適合しない、すなわち、公園や道路以外の隣地に向かって窓はあっても、建築基準法上は無窓扱いになってしまうということがあります。

1.児童福祉施設等の居室の採光

老人福祉法第5条の3
この法律において、「老人福祉施設」とは、老人デイサービスセンター老人短期入所施設養護老人ホーム特別養護老人ホーム軽費老人ホーム、老人福祉センター及び老人介護支援センターをいう。
建築基準法施行令第19条第1項
児童福祉施設(幼保連携型認定こども園を除く。)、助産所、身体障害者社会参加支援施設(補装具製作施設及び視聴覚障害者情報提供施設を除く。)、保護施設(医療保護施設を除く。)、婦人保護施設、老人福祉施設有料老人ホーム、母子保健施設、障害者支援施設、地域活動支援センター、福祉ホーム又は障害福祉サービス事業(生活介護、自立訓練、就労移行支援又は就労継続支援を行う事業に限る。)の用に供する施設(以下「児童福祉施設等」という。)

以上により、高齢者介護施設として想定される用途は、建築基準法施行令第19条第1項で定める建築物に該当することになり、同法第28条第1項による居室の採光についての制限を受けることになります。

2.採光の義務が生じる居室

次に、上の建築物のうち採光の義務が生じる居室については、建築基準法施行令第19条第2項、3項で、以下の通り規定されています。高齢者介護施設で想定される居室は、第2項第三号、四号、五号になり、これらの居室の窓で採光に有効な部分の面積に関する第3項の制限を受けることになります。

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有料老人ホームと老人デイサービスセンターを想定してみますと、第三号より入居者の住まいとなる「居室」、第四号より「機能訓練室」、「食堂」、「浴室」、第五号より「談話室」、「娯楽室」等があげられます。浴室の扱いについては、京都市の行政資料から、以下抜粋しておきます。

京都市建築法令ハンドブック
1 浴室・脱衣室で次に掲げるものは居室とする。
(1)公衆浴場の浴室・脱衣室
(2)ホテル・旅館の大浴場・脱衣室
(3)老人デイサービスセンターその他これらに類する施設の浴室・脱衣室(1~2名が入浴できる小規模のものは除く。)〔関連項目〕近畿建築行政会議 建築基準法共通取扱い集27

3.採光補正係数が0になる採光関係比率に注意

採光関係比率は、建築基準法施行令第20条第2項第一号で定義されている通り、以下となります。

採光関係比率=水平距離(D)/垂直距離(H)
D:開口部の直上にある建築物の部分と、隣地境界線までの水平距離
H:開口部の直上にある建築物の部分から開口部の中心までの垂直距離

そして、採光補正係数は、住居系地域の場合で、以下となります。

採光補正係数=採光関係比率×6-1.4

採光補正係数が0、すなわち窓はあっても採光上は無窓扱いになってしまうときの採光関係比率は1.4/6で、この値以下になれば無窓として扱われます。

採点者が平面図を見て、窓の面積を推測することはできても、断定することはできませんので、評価するのが難しいところです。しかしながら、平面図と断面図から、採光補正係数が0以下にしかならないだろうと判断をすることは難しくはありません。

バルコニーを設けることで、水平距離(D)が小さくなれば、採光関係比率は小さくなりますので、注意する習慣が必要です。

階数が、3階建て、4階建て、5階建てと、高さが高くなっていけば、垂直距離(H)が大きくなるので、採光関係比率は小さくなります。基準階の階高を安易に高くすることは、道路斜線の問題だけでなく、採光の問題も生じる可能性があることを、常に頭に置くことが必要です。

1、2階の低層部に機能訓練室や食堂を計画するときは、公園に面するなどの配慮をすることが多いと思います。公園に面することで、水平距離(D)の緩和が適用されますので、採光の問題は、これによってクリアできます。問題なのは、採光の義務が生じるその他の居室が、公園や道路でない隣地に面することになってしまう場合です。隣地境界線から十分な水平距離が確保できていないと、窓はあっても無窓扱いとなり、建築基準法に適合しないことが起こり得ます。

配置計画、立体構成などの検討に当たって、採光のことを配慮する習慣が、今年の試験対策として大事なことの一つになってくるものと考えます。


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