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一級建築士設計製図試験|設計の自由度と重大な不適合との関係

平成21年試験内容の見直しから、ちょうど10年が経過しようとしたところで、問題用紙の大きさや紙面構成に試行錯誤が見られるようになりました。出題の仕方だけにとどまらず、採点の仕方にまで及んだ見直しが、再び行われている感があります。

「故きをたずねて新しきを知る」--(令和2年の設備の設計条件に見られるように)--平成20年以前の旧試験ではどう出題していたか?……そんな点にも注目しながら、再び見直しが行われつつあるように感じています。

そこで、不合格となるランクⅡ・Ⅲ・Ⅳの占める割合に着目し、見直しのキーワードであった「設計の自由度」という観点からこれまでを辿ってみます。

1.平成21年に示された試験内容の見直し

『一級建築士試験設計製図試験内容の見直しの具体的対応について』(平成21年6月19日 中央建築士審査会とりまとめ)によれば、《建築設計全般に関する基本的な知識・能力等を確認するために、「設計条件」における「所要室」に関し、室構成や床面積を細かく指定し、これに従った設計図書の作成を要求する従来の方式を改め、室構成や床面積を大括りの設定とするなど、設計の自由度を高める出題とする。》とありました。

また、平成20年本試験「ビジネスホテルとフィットネスクラブからなる複合施設」の問題を例に、見直しのイメージが示されています。

所要室(現在の要求室)については、以下の3点が見直しのイメージとなります。

①主要な室のみを与えるものとする。
 フロント・事務室、リネン室、従業員控室、エントランスホール、荷解き室、従業員出入口といった室名等は与えず、受験者が適宜計画するものとする。
②室の床面積については、与条件として設定する部分を減らす。 
 設計する建築物の規模、用途、所要室の特記事項等から受験者が計画する。
③異なる機能を複合させた部分( フィットネスクラブ部門)を減らす。

2.例えばエントランスホールを要求室として要求すべき否か

「エントランスホール」という室名を与えず、適宜計画するとの方向性が示されていましたが、新試験初となる平成21年の設計条件には、予告していた通り「エントランスホール」の要求はありませんでした。

ところが、平成22年以降を見てみると、毎年「エントランスホール」は要求室に含まれるものとなっています。
--(見直しのイメージは何だったの?)--

当然のことながら、主要な要求室として求められる「エントランスホール」が欠落していた場合は、「設計条件及び要求図書に対する重大な不適合」と判断され、ランクⅣで不合格となります。この点も、平成22年以降は一貫して変わりのないところです。

そもそも、減点法の試験において、「エントランスホール」が主要な要求室として求められていないにもかかわらず、これが欠落していることを「設計条件及び要求図書に対する重大な不適合」であると判断することは、その根拠が希薄であると考えます。

3.ランクⅡの占める割合に象徴される不合格の変化

下表は、合格発表時にランクが公表されるようになった平成13年以降のデータになります。
✳当塾ホームページより一部を抜粋

平成13年から20年までの旧試験の8年間において、不合格の中でランクⅡの占める割合が最も多かったのは、平成15年と19年の2回のみとなっています。

これに対し、平成21年の新試験以降、28年までの最初の8年間においては、不合格の中で、各年ともランクⅡの占める割合が共通して最も多くなっています。

平成29年以降は、ランクⅡの占める割合は減少傾向にあり、結果、平成20年以前のようにランクⅢ又はⅣが占める割合が多くなりつつあります。

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4.設計の自由度を縛る法令順守

令和元年から、「法令の重大な不適合」があった場合はランクⅣと判断すると、『採点のポイント』に明示されるようになりました。

法令にかかわらずになりますが、通常、規制を受ければ、その分「設計の自由度」は低くなります。課題名発表時に、「建築基準法令に適合した建築物の計画(建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。」と公表されていますので、設計条件に明示されている法令には、必ず適合させなければならないことが、明確にされています。このことにより、明示された法令の重大な不適合があれば、ランクⅣと判断されていると思わます。

5.反比例する設計の自由度と重大な不適合の度合い

すでに述べた通り、「設計の自由度を高める出題」ということが、平成21年以降の新試験における基本的なスタンスであったと言えます。

設計条件が「自由」であった場合、その与条件に対して「不適合」となる度合いは低くなるのが必然です。
なぜなら、適合しなければならないことを細かく指定しないことが、「自由」ということになるからです。

平成21年から28年まで不合格の中でランクⅡが占める割合が最も多くなっていたのは、「設計の自由度を高める出題」とされたことが一つの要因になっていると考えます。

平成29年から再び……、旧試験で見られたように不合格ランクのうちⅢ又はⅣの占める割合が多くなってきています。この点については、「設計の自由度」が再び低くなっていることによるとの捉え方ができなくもないと考えます。

令和元年に行われた2回の試験と2年に行われた試験の合格発表時に「受験者の答案の解答状況」が公表され、ランクⅢ及びランクⅣに該当するものが多かった理由が、具体例を挙げて示されています。
3回の試験で共通して見られる「設計条件に関する基礎的な不適合」として、以下の2点が挙げられています。
要求されている室の欠落
要求されている主要な室等の床面積の不適合

要求室として要求しなかったり、床面積を与条件で設定しないなど「設計の自由度を高める出題」に舵を切りすぎれば、設計条件に照らして「重大な不適合」があると、判断することが難しくなります。
逆に、客観的な評価や減点をするための根拠を設計条件で明らかにしておくこと、すなわち適合しなければならないことを細かく指定しておくことで、これに適合しているか否かが明確になります。だからこそ、一度切った舵を、10年経って戻しつつあるのではないかと思います。

減点法の試験を合理的に採点する上では、設計の自由度に一定の制限をかけることも必要なのだろうと考えます。


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