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令和3年一級建築士設計製図試験|ざっくり感ありの『集合住宅』という課題名

令和3年一級建築士設計製図試験の課題名が『集合住宅』……とだけ、公表されました。

これまで課題名の公表時には、(注)書きにおいて、「温水プールのある」だとか「屋上庭園のある」だとか……、課題の用途に対して付加する条件が事前に明示されていました。これによって課題の想定が絞りやすくなり、受験生にとっても対策の負担が軽減される面もあったと思います。

しかし……昨年から、対策の的を絞りにくくしている傾向を感じており、今年はさらに輪をかけてという印象があります。

今回明示された(注)書きは一つだけ、しかも《建築基準法令に適合した建築物の計画(採光、建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。》と、課題の用途に関わらず、例年共通するような内容です。
✳「等」と「採光」は、昨年なかった部分

事前公表される要求図書から、出題で想定されている階数を読み取ることができたのも令和元年までで、昨年から「各階平面図については、試験問題中に示す設計条件等において指定する。」と想定を伏せた形になっています。
仮に3面の要求であれば、3階建て1階・2階・基準階、さらに地下1階・地上2階建て(2階以上が基準階を含む)を想定した対策まで必要になり、この点からも、対策の的が絞りにくい事前公表の仕方に舵を切ってきたと言えそうです。

さて、どういった想定の課題によって、対策を取っておくべきか?……悩ましいところです。

1.ありがちなただの『集合住宅』は……ない?

額面通りのありがちなただの『集合住宅』を想定してみます。
1階は「住戸に加え、エントランスホールや集会室」、基準階(2階以上)は「住戸」といった構成になると、1階平面図・配置図と基準階平面図が要求されることになりそうです。

しかし……、「これはない!」と言えるでしょう。

試験問題として、空間構成のバリエーションがなさ過ぎて、難易度を調整することも難しいと、容易に予想がつくからです。

2.異なる機能の複合は……ある?

平成21年に示された『一級建築士試験設計製図試験内容の見直しの具体的対応について』において、《現在の試験内容と比較して、受験生に過度な負担を強いることのないように、 「設計課題(設計対象の建築物)」に関し、異なる機能を複合させた建築物を出題する従来の方式を改め、比較的シンプルな用途の建築物(主たる機能の部門とこれに関連する部門からなる建築物)とするなど、ゾーニングや部門間の動線に関する設計条件を簡素化した出題とする。》とありました。

「受験生に過度な負担を強いることのないように」と宣言してはいましたが、現在の問題用紙のサイズはA2となり、宣言時の倍の大きさになっています。

「異なる機能を複合させた建築物を出題する従来の方式を改め」については、シンプルな課題名『集合住宅』は宣言通りであると言えます。

しかしながら、課題名は宣言通りシンプルであっても、問題用紙の大きさに象徴されるように、その設計条件についても「受験生に過度な負担を強いることのないように」ということにはならない、つまり異なる機能を複合させた集合住宅になるのだろうと予想します。
上で述べた通り、ありがちなただの『集合住宅』はないと思いますので……

3.新試験での類似課題から言えること

平成21年以降の新試験において、集合住宅関連の出題は、平成27年『市街地に建つデイサービス付き高齢者向け集合住宅』の1回のみになります。

住宅部門、デイサービス部門、共用部門から構成される出題となっており、共用部門において地域住民も利用できるレストランギャラリーといった室が求められています。

課題名公表時に明示されていなかった、又は課題名から容易に想定することができないレストランとギャラリーが、異なる機能として複合されていたと言えます。

4.旧試験での類似課題から言えること

平成元年から20年までに絞って、旧試験における集合住宅関連の出題を見てみます。

平成5年『メゾネット住戸のある集合住宅(3階建て)』では、フラット住戸、メゾネット住戸の他、地域住民も利用できる集会室小売店舗といったものが求められています。複合を匂わせない課題名から、小売店舗が複合されるか否かを推測するのは難しいと思います。こうした出るかもしれないし出ないかもしれないという機能が、試験問題中に突如表れることもあるということです。

平成11年『高齢者施設を併設した集合住宅』では、高齢者施設、住宅部門の他、喫茶店が求められています。これについても、課題名からして、出るかもしれないし出ないかもしれないという機能が、突如複合されてきたということになります。

平成13年『集合住宅と店舗からなる複合施設(3階建)』では、住宅部門において、フラット住戸の他、課題名での予告なしで、メゾネット住戸が求められています。集合住宅だからといって、フラット住戸だけを想定して対策を取っていたら、メゾネット住戸の構成にはかなり戸惑うことになるはずです。

平成18年『市街地に建つ診療所等のある集合住宅(地下1階、地上5階建)』では、住宅部門に、コミュニティルーム、そして地下1階に居住者用駐車場を求め、地下1階平面図が要求されています。今回「各階平面図については、試験問題中に示す設計条件等において指定する。」とされていますので、その一つが、地下1階平面図になる可能性もあると言えます。


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