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アーキテクチャー・ツアー 渋谷再開発

今回、はじめて特定の建築物に特化しないツアーをやってみました。
題して「渋谷再開発」。街の生まれ変わりそのものを歩きながら見ていこうという回です。結果的にすごく刺激的で面白い回になりました。メンバーそれぞれの記憶とか遊び方、ライフスタイルを渋谷という街を通して知ることができて、これぞ建築部の魅力だ!と密かな手ごたえを感じています。

渋谷は東京を代表する街、というか海外からの視点で言うと日本を代表する街と言っても良いと思うんですが、コレだ!という建築があるわけではないんですよね。浅草なら浅草寺、丸の内なら東京駅みたいなランドマーク的な建築がない。ひと昔前だったらそれがSHIBUYA109だったのかもしれません。
代わりにメディアを通じて繰り返し映し出されるのはスクランブル交差点を行きかう人々の映像でしょう。世界中どこにでもスクランブル交差点なんてあるし、ある意味何の変哲もない風景なはずです。それが唯一無二のアイコンになっているのは、この場所を取り巻く人々の営みがあるからこそではないでしょうか。
渋谷というのはそうした「カルチャーの発信地」なんだと、今回歩きながら改めて感じました。

肋骨のようなM型アーチが印象的。巨大な生き物に飲み込まれたみたい?
ホームから谷の街渋谷が見える

スタート地点に選んだのは2020年から使われている銀座線渋谷駅ホーム。

「渋谷」という名前の通り、この街は谷の中にありますが、一体どういう姿をしているのか、僕は普段渋谷に行かないし、地理的な感覚があまり分かっていなかったんです。だけど、ずっと渋谷の地形は気になっていたので調べてみるにはいい機会でした。
今回参考になったのは『地形で解ける!東京の街の秘密50』という本。地形散歩ライターの方が、東京の地形や高低差に迫りながら地理や歴史について面白く解説している読みやすい本です。
この本の中にあった渋谷の地形の説明がバツグンにわかりやすかったので紹介したいと思います。

まず渋谷はもともと「Y」の字に川が流れていて、Yの左上が宇田川、右上と下が渋谷川という川です。そしてこのYの中心部に今の渋谷駅やスクランブル交差点など、渋谷の中心部があります。高度成長期に川のほとんどが埋められてしまったので、この街に川が流れているのをイメージするのは難しいかもしれません。
Yの字以外の部分はそれぞれが台地になっていて、それをイメージしやすいのが「¥」です。Yに横棒を二本付け足したようなマークですが、この横棒の上の右側が銀座線、左側が井の頭線が通っている線路です。そして下の横棒は国道246号線に当たります。
銀座線に乗って渋谷へ行くと、最後に地下鉄が地上のホームに到着します。地下を走ったいたはずが駅に着くころにはずいぶん高い位置から街を見下ろす形になり、やっぱり渋谷は谷になっているんだなと感じられるスポットです。だからこの¥マークの説明はすごくわかりやすいと思いました!
¥は日本の通貨のマークだし、外国人に説明するときにも良いかもしれないので、これからガイドのネタにしたいと思います。

銀座線ホームから再開発を眺める。昔のホームは写真の奥側にあった
ヒカリエとスクランブルスクエアの双塔。新しい渋谷の象徴
丘の上のパルコ
渋谷パルコ。回廊型になっていてここから屋上まで行ける

最初の目的地に選んだのは渋谷パルコ。新しくなったパルコはドアから店内に入ることなく、回廊型になった外周をまわりながら屋上まで行くことができます。ぐるぐる階段をのぼりながら渋谷の街を見渡すことができる、街歩き向きの面白い施設でした。
今の時代、商業施設も単にモノを売るだけの場所ではなくなってきていますね。どのように街に調和させていくか、トレンドを発信できるか、いろいろな方向性が練られています。
スペイン坂を上って、そのまま坂道を延長したような作りになっているため、ストリートを歩く感覚で施設に入っていけます。下のリンクには、パルコを設計した竹中工務店による新しい渋谷のコンセプトがまとまっています。

https://www.takenaka.co.jp/design/expertise/urban_development_design/rethinking-the-street/


パルコ屋上から。東京のダイナミクス、ひしめき合う情報
SHIBUYA109、下から見るか?横から見るか?

ランドマーク的な建物もどこから見るかで雰囲気や大きさが全然違いますね。SHIBUYA109は駅周辺から進むと道玄坂を登っていく先にあるので、下から見上げることでけっこう大きく見えますが、こうしてパルコの屋上から見てみると、大きさ以前にグレーのコンクリートジャングルに溶け込みすぎていて、もはや迷彩服のような状態です。

続いて、丘を下ってガード下をくぐり、宮下パークを目指します。

ガード下から宮下パークへ。ここも面白い高低差
宮下パーク下の店舗スペース。内と外がシームレスにつながっている
宮下パーク。渋谷再開発を象徴する空間。

2020年に生まれ変わった宮下パーク。ニューヨークの廃線軌道を使った上空公園、ハイラインをモデルにしたともいわれています。
コロナの影響で外出自粛が強く騒がれていた時期だったこともあり、完成当時のPRは控えめだった気がします。渋谷再開発自体がコロナともろ被りで、どの施設もいつのまにかできていた感がありますね。しばらく「密」を避けることが推奨される社会になっていたので、私が今回渋谷に行ったのは丸3年ぶりぐらいでした。
全体的な印象として、街がどんどん今風の小奇麗なかんじになっていました。逆に言うと尖った感じや危ない感じはどんどん街から消えていく、排除されていく方向にあるのでしょう。公共空間で平和にくつろぐ人たちを眺めてみると、そうした令和の世の中に適した「健全さ」を人々はおおむね歓迎しているように思います。
メンバーとここを歩いていて、昔はチーマーのたまり場だったと教えてくれたのですが、そういう面影は今は全然ないですね。ホームレスも多かった場所だそうです。

若者で溢れる街の一角にひときわ昭和のオーラを放つエリアが
ひっそりと残っている、のんべい横丁

最後は渋谷ヒカリエへ。最終目的地に選んだのは、ここに2027年に完成予定の渋谷再開発の大きなジオラマがあるからです。歩いたルートを最後におさらいできます。街歩きのゴールにはぴったりでしょう。

ヒカリエ11階の模型は見ごたえあり

読み応えのある、読んでいてわくわくするインタビュー記事でした。
技術者の方々が一つの建物ではなく街そのものを作っているんだと分かります。
ターミナル駅ではない、人々が行き交い通り過ぎていく渋谷という街を再開発を通じてどうデザインしていくか、熱のこもった現場の声が街づくりの躍動感を感じさせます。

宮下パーク側から駅周辺を見る
新しい渋谷。大屋根がとても印象的。設計はSANAAの妹島和世さん。きしめんみたいな形

写真の手前側の広場はハチ公前です。いずれはこの場所に大きな屋根が出来上がります。
序盤に書いた「¥」の話しの通り、写真左上にあたる宮益坂の途中から銀座線が地上に突き抜けて中心部に終着します。この銀座線ホームの上になんと遊歩道を作って、宮益坂から上空を歩きながらさいごに大屋根をくぐってハチ公前まで直線的に歩けるようになるそうです。イメージするだけでわくわくする話しだと思いました。
インタビューにも書いていたのですが、そんな形の街は世界に存在しない、渋谷だけのユニークな導線になることでしょう。


渋谷の街歩きを通して見えてきたのは、谷と坂の独特な地形、そこに時代ごとに出来上がった象徴的な建物と人の営みです。再開発はそうした渋谷が持つ記憶を引き続きながら、この場所を交差する人々を通じて新しいカルチャーを発信していくのでしょう。

今回も刺激溢れるツアーとなりました。
道玄坂から攻めていく続編も構想中です。ではまた。

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