尾崎世界観の歌詞を「語尾」で読み解いてみた〜とりとめたい、とりとめない①〜
文章とか歌詞って、隠しきれないその人の本質が、にじみ出てくるものだと思います。
まったく異なるテーマで文章や詩を書いたとしても、それらの共通点にその人の思想や、人となりがにじみ出てきてしまう。そういうのが日本語の、言葉の面白さだったりしますよね。
味の素、語尾
僕が特にその人の味が出てくる素だと思っているのが「語尾」です。
それが歌詞となれば尚更。語り口はもちろんのこと、性格や、「得意な口の開き方」にも影響されて作られる「語尾」。
今日はその「語尾に注目して」アーティストの歌詞を読み解いて行こうと思います。
今回扱うのは、クリープハイプのGt/Vo、尾崎世界観さんの歌詞です。(つまり反響あれば定期的にやりたいということです)
まず先に結論として、尾崎さんの歌詞の特徴を僕なりに考察した結果を先に書こうと思います。
「僕>君」の文法
日本語ロックの歌詞について語る時、まず多くの場合前提になるのが「僕と君」という詩世界の文法です。
題材が「ラブ」であるかどうか別としても、多くの歌詞は「僕と君」文法の中で綴られていきます。
この「僕と君」の関係を考えた時、圧倒的に「僕」の描写に重きが置かれているのが、尾崎さんの歌詞の特徴だと思います。
日本語ロックにおける「僕と君」的世界観の歌詞には、枕草子的に「君」の美しさや素晴らしさ、時に狡猾さや醜さを箇条書き的に列挙し、エモーショナルに仕上げるものが多くあります。
でも、尾崎さんの歌詞はいつだって「ちょっと頼りないことは自分でわかっている僕」の心情描写が中心で、とっても独り言的なんです。
今「君」に対して抱いている思い、みたいなものを自分に言い聞かせている感じ=独り言っぽさこそ僕は尾崎世界観ismだと思います。
では、そのイズムの根源を、歌詞の文末表現から読み解いてみましょう。
そこに君はいない感
君は本当にうまいよなぁ 全く歯が立たないよ
君は本当に狭いよなぁ 全く間がもたないよ 「エロ」より
もうこれで やめようかな
もうこれで 決めようかな
君の髪が白くなってもそばにいたいと思ってるよ「寝癖」より
まず一つ目の特徴は、感嘆を表す終助詞の「な」(口語文法が苦手だったみなさんは読み飛ばしていただいて結構です)と、軽度の呼びかけや投げやりを表す終助詞「よ」が多用されていることです。
「な」はしみじみと何か物思いにふけっている感じ、そして特に「かな」(終助詞「か」+「な」)に関しては自信がなく自分自身に問いかけているニュアンスを出しています。
そして時折使われる「なぁ」のあまりの口語感。たまんねぇんだよなぁ。
それと並列して呼びかけてはいるがそこに「君」がいるのかはわからないニュアンスを絶妙に出している「よ」。
この二つが醸し出しているのが「独り言」っぽさなんですね。
他にもいくつか例を見てみましょう。
みっつ数えて彼女になって 四つ数えて大人になったよ
今度あったら何をしようか もうこれで終わりかもな 「He is mine」
校庭の隅に二人、
風が吹いて今なら言えるかな
誰にも言わない言葉
楽しくするから遊びにきてよ 「校庭の隅に二人、風が吹いて今なら言えるかな」より
この二つに関してはより「もう君には届かない」感がすごい。
自信のなさがはっきり諦めと感じ取れるような筆致もすごく魅力的なんですよね。
理由の列挙+未来の否定
これから これから いまから さよなら 「2LDK」より
終わったのは始まったから
負けてたのは戦ってたから
別れたのは出会えたから 「百八円の恋」より
2つ目の特徴は「から」という音での押韻と末尾での列挙が多いこと。
「百八円の恋」でうたわれるように末尾を「〜から」で揃えた理由の連打も尾崎さん得意の表現手法です。
理由の列挙がなぜこんなにも切なさを醸し出しているかを考えると、それは一重に
「こんなにも事態を理解しているのに2人の関係はどうしようもならない」
ということを暗に読者に伝えているからだと思います。
そして「から」が表すのは理由だけではありません。ある時点からの未来、先の時間も表す言葉です。
その未来を示す「から」での押韻が効果的の使われているのが「2LDK」。個人的に僕がクリープハイプの歌詞で一番好きな曲です。
「これから」「いまから」と時間軸が今に近づいて、未来を匂わせつつ最後に残る言葉が「さよなら」。
この押韻の美しさ、結末の意外さ、そして描写としてのスマートさ。どこをとっても唸ってしまう素晴らしさに満ちています。これだけ切なく美しい歌い出しがほかにあるでしょうか。
これも同じくほかにも例を挙げてみましょう。
だってだってだってだってそれなら
どうせ最後はこうなるんだから 「エロ」より
それは消えちゃいそうな声だから
狂い出した、いつからだ? 「さよなら第9惑星」より
特に「さよなら第9惑星」の方は理由の「から」も時間の「から」も入っていて綺麗ですよね。
やっぱりどっちも「諦め」というか、「君には届かない」感じがあるんですよね。
さらに母音に着目すれば
ということで今日は、歌詞の「語尾」に注目して尾崎世界観の歌詞の特徴について読み解いていきました。
最後にもう一つ付け足すなら「なぁ」も「から」も母音は「a」、そして「よ」も「o」と口を縦にあけて発音する音ってことです。
初めにも少し書いたように、ボーカルさんにはその人それぞれに得意な口の開け方や母音があると思っているので、そう言ったものも作詞に影響していたりするのかな、と思います。
クリープハイプが好きだという方も、今まで聴いたことがないという方も、そんな言葉の響きを愉しみながら、歌詞の切なさを味わいながら、改めて聴くきっかけになればこれ幸いです。ちなみ僕は3rdが好きです。
それでは。
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