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伊那谷を表現したアーティスト20人~「美術と風土アーティストが触れた伊那谷展」から

 南信州・飯田の飯田市美術博物館で特別展「美術と風土アーティストが触れた伊那谷展」(16日で閉幕)を見てきました。アーティスト20人による巡回展のスタートは見どころ満載でした。
 この展示会は、近畿・東海・伊那谷で活躍している美術館の学芸員や画廊主が実行委員会を構成し、造形作家20人を選びました。その作家たちに実際に伊那谷を訪れてもらい、そこでインスピレーションを得て制作した作品を中心に展示しています。
 出展作家のジャンルは、日本画家4名、洋画家7名、彫刻家1名、版画家2名、工芸家2名、インスタレーション作家4名です。
■伊那谷と名古屋から

伊那谷展がスタートした飯田市美術博物館の外観。設計はJR京都駅ビルなどの設計で知られる建築家原広司さん。原さんは長野県飯田高校を卒業している


 まずは伊那谷と名古屋に関係したアーティストを中心に紹介します。
 山田純嗣(やまだ・じゅんじ)さんは飯田市生まれで名古屋市在住。作品は、飯田出身の日本画家菱田春草の「菊慈童」と「黒き猫」をモチーフにした独自技法による版画です。春草の写実的な絵画が彫刻のように立体的に表現されています。
 蜂谷充志(はちや・みつし)さんは、飯田市出身で愛知県立芸大大学院修了。作品について飯田市美術博物館の槇村洋介副館長補佐は「今回のインスタレーションは、伊那谷で採集した樹木を燃やした灰を利用するという。(中略)一時、紡ぎ出す蜂谷のインスタレーションは、かすかな美の記憶として心の片隅に残るだろう」と解説しています。
 中谷ゆうこ(なかや・ゆうこ)さんは名城大学薬学部卒の異色のキャリアです。「くうきのてざわり」、「ひかりのおもさ」の2点の油彩画は、ものの輪郭を消して画布に描いていくことで、「囲まれ限定された色や形を無限へと解き放ってあるべき場所に戻していけると思う」という言葉に共感できます。キャンバスに引き込まれるような感覚でした。
 梶川俊一郎(かじかわ・しゅんいちろう)さんは、愛知県碧南市の鬼師の家に生まれ、現在、鬼瓦製作会社「鬼亮」で家業に従事しながら公募展などに作品を発表しています。梶川さんは「飯田市の空気を感じて作品をつくるということで一日町を散策してみた。四方を山に囲まれた天竜川に向かって降りていく。(中略)具象彫刻を制作するときに特定の町をモチーフにすることは初めての経験でしたが、新鮮であり、考えさせられる創作になりました」(図録のことば)と言います。
■私がいいなと思った作品
 個人的に引き込まれた作品は、京都市出身の今井裕之(いまい・ひろゆき)さんの「ヨシノボリ~求愛~」という立体的な造形でした。体長115㌢のヨシノボリは、銅と金と漆でつくられています。「駒ヶ根の大田切川や大鹿村が好きで、よく石や生き物との出逢いを楽しんでいます」という作者は、「プレートがせめぎ合う伊那谷の大地のパワーを感じ、そこに暮らす生き物と、こころ通わせて創造します」と作品への思いを語っています。
■辰野町から愛知県碧南市まで
 巡回展は4月29日から6月4日まで長野県辰野町の辰野美術館(観覧料一般500円)で開催されます。
 さらに大阪府豊中市の豊中市立文化芸術センター(6月16日~7月7日)、京都市左京区の白沙村荘 橋本関雪記念館(7月16日~8月13日)を経て、愛知県碧南市の藤井達吉現代美術館(9月5日~10月9日)が最終です。
■JR東海の須田博顧問とのかかわり
 今回の実行委員会の委員長は原田平作・大阪大学名誉教授です。今井作品の推薦者でもあります。「今井の世界は生物と自然との共生を基本としながらも、茶目っ気があって見る人に潤いと安らぎを与えるような作風であって、見ていて楽しくもあるということになる」(図録より)。
 原田さんは公益財団法人「きょうと視覚文化振興財団」(京都府宇治市)の理事長です。同財団は、洋画家須田国太郎画伯の遺族でJR東海の須田寛顧問から日本の美術振興に生かしてほしいと託され、まず「須田国太郎美術振興会」の設立を呼びかけ、次いで2019年11月に「きょうと視覚文化振興財団」(京都府宇治市)として発足。2022年2月14日に公益財団法人の認定を得ています。
 私は須田顧問から数年前、原田名誉教授の父親が飯田出身ということもあり、伊那谷をテーマにした企画展を構想しているということを聞いていました。今回、実現した展覧会の多種多様な作品を通して伊那谷から見えるアルプスや天竜川、人々の営みのすばらしさをあらためて感じました。
(2023年4月17日)
 
 

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