プロジェクトの立て直し、本当にそれで大丈夫?
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プロジェクトの立て直し、本当にそれで大丈夫?

PMO強化、管理プロセスの見直し、その対策でプロジェクトの立て直し、本当にできますか?
遅延を繰り返すプロジェクトは、クライアントやマネジメントがPMを責め立てます。「何が原因で遅延したのか?」「どう立て直すつもりか?」この言葉が繰り返し出てきたら、炎上確実です。
小学生に東大の入試問題を解けと言っても出来るはずはありません。それなのに「どうして間違ったの?」「どうしたら解けると思う?」と言っているのと同じです。
つまり、プロジェクトの内容とPMの能力に埋めることの出来ないギャップがあることにクライアントもマネジメントも気が付いていないのです。あるいは薄々気が付いていても、PMを変える大変さ面倒さに目を瞑るって、責め立てることで問題の本質から逃げているのかもしれません。
これまでの経験では、PM自身が、遅延の根本原因を分かっておらず、解決方法がわからないのも当然です。
そんなPMをPMO要員やプロセスが支援したところで、立て直しができるはずはありません。
本記事では、プロジェクトの立て直しに効果的な方法と、問題を引き起こさないための進捗管理の考え方について解説します。

■かんたんイラスト(記事を読む時間のない人へ)

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1.PMOは効果なし

遅延を繰り返しているプロジェクトの立て直しで、よくあるのがPMOを強化する対策。
問題の対策として管理強化という言葉はクライアントやマネジメントに受け入れられやすく、そのひとつとしてPMOを入れる、あるいは増強するという文脈はわかりやすいです。「遅延を繰り返していたのは管理能力が不足していたことが原因です。PMO要員を追加して立て直しを図ります。」もはや決まり文句のようにも聴こえます。
本当にこれで立て直しができるのでしょうか。
これまでの経験からPMOでは立て直しはほぼ無理です。管理能力を補うためにPMOを入れてもほとんどの場合で解決しません。
例えば、進捗管理が上手く出来ていなかったのが問題なので、PMOが実績をきっちり管理して進捗状況を「見える化」します。
言葉を聞くと、確かによさそうですし、事実として進捗状況は見えるようになると思います。ただし、遅延の状況が見えたらどうするのでしょうか。問題を抱えている時点で遅延しているはずで、それを見える化して、やっぱり遅延してましたね、では何の解決にもなりません。
遅延が繰り返される本質的な原因は、進捗管理が出来ていないのではなくて、そもそも計画が破綻していることが多いです。破綻している計画に対して実績をきっちり管理し進捗を見える化したところで、改善するはずがありません。
この場合、取るべき対策は、計画の見直しです。
計画の見直しは、突然やってきてシステムの中身も品質の解析もできないPMOには到底無理なことですし、そもそもPMOはその役割でもありません。

他にも、課題が溜まっていくばかりで一向に解消されない状況。
課題管理プロセスがなっていないからPMOを増強し、担当者を割り当てて期日を厳密に管理します。
このケース、課題に担当者を割り当てても、その担当者には計画されたタスクがあるわけで、計画タスクを進めることで一杯一杯であれば、課題対応が進むわけはありません。
これでは、期日を管理したとしても、期限切れの課題が溜まるだけで一向に改善しません。
この場合にまずやるべきは、課題の棚卸による総量の把握と優先順位付けです。これにも、当然、中身を理解していないと出来ないのでPMOには困難です。
問題を抱えるプロジェクトでありがちなのが、課題管理表を、まるでゴミ箱のように使っていること。備忘録やいち担当者のToDoを課題管理表に記載し、しかも全てのプロジェクトメンバーが自由に入力可能だったりすると、もうゴミ箱同然です。
課題の書き方もめちゃくちゃで「何々をする必要がある」と書かれていると、何のために必要なのか?これをやらないとどういう影響が出るのかわからないですし、優先度も付けられません。このような課題を読み返す度に、この課題なんだっけ?というやり取りが繰り返され、ものすごく時間の無駄です。

PMOはPMを支援する役割なので、PM自体に能力が足りていなければ、いくら支援したところで能力はあがりません。計画の見直しができないのであれば、出来る人を入れるなど、まずはPMの足りていない能力を補うことが対策の基本的な考えです。なので、PMスキルのある人がPMOという名で支援する場合には、当然、効果は期待できます。
もうひとつ間違った対策として、PMが忙しいので、事務作業や一部のタスクをPMOに振ってPMの稼働を空けること。これもPM能力が低ければ稼働を空けたところで意味はありません。足りないのは時間ではなくて能力なのです。

2.プロセス強化は進みを悪くする

プロセス強化という対策も拙速に取られることが多いです。
例えば、進捗管理プロセスの見直しとして、作業実績を今までよりも詳細に入れるようにして管理する。あるいは、品質管理プロセスの強化策として、レビューを追加するなど。
このような管理プロセスの強化にはデメリットがあります。
当然、これまで以上の作業量となるため、その分追加工数が発生し、一つの作業を終わらせる時間が増加します。プロセス強化は、クライアントや開発マネジメントへはアピールになるかもしれませんが、エンジニアの数と納期を変えずに行えば、現場の作業負荷が高まり遅延の状況はより悪化します。

また、マネジメントがプロセス強化を言い出しても、中身や実態を理解していない場合には絵に書いた餅です。
例えば、ウォーターフォール型で進めていても、課題が次々に発生するような状況では、もはやアジャイルに近い形の対応が求められます。それなのに、課題管理のプロセス強化としてマネジメントが全ての課題に目を通し対応を検討する策をとったとします。すると、マネジメントの予定が確保できず、業務時間外に検討会を実施したり、目を通す頻度が日次から週次に変わり合宿スタイルをとったりして、負荷は高まるのにタイムリーさがなくなるという、むしろ状況は悪化します。

開発体制や納期を変えずにプロセス強化を行うと、安心感は増え、品質は改善するかもしれませんが、遅延は解消されないどころか広がる可能性が高いです。
プロセス強化は、体制やスケジュールの見直しもセットで行うなど、推進とのバランスを考えないといけません。

3.立て直しに必要な期間と費用の目安

遅延を繰り返すプロジェクトの相談を受けると、「立て直しにどれくらいかかりそうですか?」と必ず聞かれます。
到底答えようのない問いではありますが、経験則から言って、超ざっくりではあるものの、だいたいの目安は算出できます。状況にもよりますが、負債と馬力(人なので人力ですが)という経過と現状の体制からざっくり算出します。あくまで目安の規模感ではあるものの、対策を考えるうえでの参考値にはなります。
・負債
これまでに消費した工数の25%です。例えば、これまでに200人月使っていれば、その25%である50人月が負債です。
・馬力
現時点での体制です。10人の体制であれば、10人力という事です。
・立て直しに必要な期間と費用
負債と馬力から立て直しに必要な期間と費用を算出します。上記の例で言えば、負債50人月で馬力が10人力なので、立て直しに5ヶ月(50人月/10人力)かかるということです。費用は負債そのまま50人月分の費用です。
現実的には、追加要員を入れて立て直しすることになるので、新参者の調達や習熟期間を考慮すると、さらに期間を延ばすといった補正は必要となります。また、あくまでプロジェクトを正常化するまでの期間なので、正常化した時点で先のスケジュールを引き直すと、当初予定からさらに納期が後ろに倒れる可能性はあります。

あくまで目安であり、具体的には、中身を詳細に見ていきながらスケジュールの見直しを行う必要はありますが、拙速な対策を打って、やった気になるよりも、本質的な対応を考えるきっかけとしては役立ちます。

4.立て直しで最初にやること

遅延を繰り返すプロジェクトの立て直しで、まずやることは、スケジュールと体制の見直しです。この2つの見直しをせずに、プロセス強化やPMO要員の追加は意味がないどころか、逆効果です。管理の軸となるスケジュールと推進の肝となる体制、この2つは表裏一体の関係であり、最も重要な要素です。
・スケジュールを見直す
システム開発プロジェクトでは、毎月、毎週あるいは毎日、定例的な進捗報告会があります。その報告内容を聞いて、遅延が繰り返される原因がわかることがあります。それは、実施した内容を報告している場合です。進捗管理とは、文字通り進捗を管理するものであり、進捗とは進み具合です。
つまり、進捗報告において最も大事なことは、計画に対してどのような進み具合かを報告することであり、実施した内容は補足に過ぎません。
この進捗管理の大前提となるのが、スケジュールです。
遅延を繰り返すプロジェクトは、計画自体が正しくないことが多いです。正しくない計画の進み具合をいくら管理したところで、この先の見通しは明るくありません。
 ・タスクの漏れはないか
 ・各タスクの期間は妥当か
 ・タスク間の依存関係を考慮しているか
 ・プロジェクト要員の増減に無理はないか
 ・新規参画者の手配や習熟期間は考慮されているか
このようなことを考慮して見直しを行い、緻密なスケジュールを作らなければ、進捗管理の意味はありません。
このスケジュールの見直しは、現在のプロジェクトマネージャーが行ってはいけません。なぜなら、そもそも遅延の理由は破綻した計画であり、その破綻を見抜けないまま進めていたプロジェクトマネージャーに見直す能力はないからです。緻密なスケジュールを作れる人に見直してもらいましょう。
PMが遅延の報告をすると「どうやってリカバリするの?」と問いただす開発マネジメントがいますが、辛辣な言い方をすると、無能だから遅延しているのであり、その無能なPMに、解決策を問いてしまうマネジメントもまた無能です。開発責任を担うマネジメントであれば、PMの能力評価を行い、足りていないのであれば、PM自体のてこ入れを考えるべきです。
・体制を見直す
管理不足という理由で、役割が曖昧なまま管理者やPMO要員を追加することは避けるべきです。まずは体制の見直しを行い、その結果、然るべき役割の管理要員が必要であれば増員を行うべきです。
例えば、前述の課題が山積しているケースであれば、棚卸をした後に課題対応専門チームを立ち上げる体制に変更する。そのチームへシフトしたエンジニアには課題対応の中身に専念してもらうために、対応方法の打診や優先度の確認などユーザーコミュニケーション役として要員を追加することは有効です。
このように役割を明確にしたうえで体制を考えるべきで、闇雲に増員することは、余計に混乱するだけです。

5.進捗管理はシンプルに

スケジュールと体制の見直しが出来たら、そこで初めて進捗管理プロセスが有効になります。これまで通り、進捗報告会で状況を確認し、見通しを評価していくだけです。その際、"具体的かつ簡潔に"出来るだけシンプルな進捗報告をおすすめします。
・進捗状況は3種類だけ
進捗管理は計画に対しての進み具合なので、状況は、オンスケ(計画通り)、アヘッド(先行)、ビハインド(遅延)の3種類だけです。計画に対してどういう状況かを端的に報告して、簡単に把握できるようにしましょう。
・数値で報告
進捗の根拠は、出来るだけ定量的な数値で報告します。
数値による報告は、この先の見通しを評価することに役立ちます。
例えば、4週間で100本の設計書を作成する計画の場合、単純計算では、1週間で25本、1日5本です。もしも1週目の報告が遅延(予定25本に対して実績20本)だった場合には、1週間で20本が基礎値となるので、4週間では80本しか作成できないことになります。これが見通しです。足りない20本に対しての対策が必要で、人を足すか、期間を伸ばすかなど考えなければならず、その対策検討に、数値は非常に重要な情報となるのです。
・遅延のリカバリ策は4択
遅延してしまったら、リカバリ策を検討しなければなりません。スケジュールの線を引き直す、あるいはタスクの期日を延長する対策は絶対にやってはいけません。なぜなら緻密に引いたスケジュールが進捗管理の大前提となっているからです。リスケジュールするということは、再度、緻密にスケジュールを引き直すということです。
では、遅延のリカバリは、どうするか?
バッファを確保してあれば、食いつぶすことで対応できますが、なければ取り得る対策は、下記の4つくらいしかありません。
① 残業や休日出勤で対応
工程開始時の習熟度が上がっていない状況では、いったんこの対策で様子見することは許容範囲です。ただし、昨今の働く環境では、残業時間の量の見極めは必須です。この残業量も定量的な数値から算出して評価することが出来ます。
残業や休日出勤でオンスケを維持する状況が常態化している場合には、もはや計画が破綻している、無理があるということなので、改めてスケジュールの見直しが必要です。
② 要員追加
プロジェクト内の別チーム、あるいは社内の別プロジェクトからの要員補充は、内容によっては取り得る解です。サブコン等の外部調達しか要員追加ができない場合は、短期リカバリはかなり厳しいです。
③ 作業内容を軽くする
作業内容を軽くするというのは、品質に直結するので、基本的にはご法度ですが、タスク内容と成果物によっては検討の余地はあります。
④ タスクの組み換え
クリティカルパスに乗っていないタスクとの入れ替えなどは検討の余地があります。ただし対応する要員の割り当てが緻密に計画されている場合は、後続タスクとの依存関係や繋がりも考慮しなければならず、要員の割り当て計画が崩れる可能性もあるため慎重に評価する必要があります。

6.まとめ

進捗管理の軸となる緻密に考えられたスケジュールを作ることは、スキルと経験が必要となります。炎上した、あるいは、しそうなプロジェクトの立て直しを考える場合には、経験豊富なプロジェクトマネージャーによる現行スケジュールの評価、見直しをすることが最優先事項です。プロジェクト炎上時こそ、基本に立ち返り、元のスケジュールを見つめて、何がいけなかったのか、どのタスクが漏れているのか、なぜ計画が甘くなったのか評価することがスタートラインです。
スケジュール見直し後は、そのスケジュールを元に進捗管理を行って、定期的に見通しを評価していくだけです。
逆に言うと、スケジュールを見直す前に、PMO要員追加やプロセス強化などの対策を入れても効果は期待できません。クライアントやマネジメントの気持ちはわかりますが、根本的な原因を特定し、どのような対策とするか考えることが当たり前に健全な方法です。この正攻法のやり方には時間もかかるため、対応規模感の目安を最初に伝えて、覚悟を持ってもらうことも大切だと感じています。

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システム開発のプロジェクトマネージャー専門会社 株式会社ARAKADO 代表取締役 柴田 秀夫 https://arakado.co.jp