2/25:カート
いつものスーパーに買い物に出かけると、風除室のカート置き場に見慣れないものが並んでいた。
「これは……!」
しぐれが小さく息を飲んだ。
「なんだ、知ってるのか?」
「一般名称・子乗せカート、通称・ファミリーカートの特殊タイプ、くるまシート付き『ぷちカーくん』です。先日、店長がどうにゅうするって言ってました」
しぐれの情報網には、いつのまにかこの店の店長まで加わっているらしい。
岳は軽くこめかみをおさえて、通称ファミリーカート特殊タイプくるまシート付き『ぷちカーくん』を引っ張り出した。
実際に子供が乗りこめるくるま部分があって、そのくるまの屋根に買い物カゴを置くカートだ。一見するとベビーカーに似ていて、ショッピングカートっぽくはない。が、押し手のところにステップもあるから、子供を二人載せられるようになっていて、意外に機能的な気がした。
「導入は一台だけなんですよ。空いていてラッキーでしたね、岳!」
嬉しそうに、しぐれがくるまシートの部分に乗り込んだ。
「岳、ハンドルだけじゃなくて、シートベルトもありますよ。ぱちんってしますね。すごいですね、こったつくりですね」
小鳥がさえずるみたいにピーチクパーチク、しぐれはやっぱり嬉しそうだ。
後から入ってきた買い物客が、目を細めてこちらを見て、店内に入っていく。
そうだとも。
しぐれはかわ、いや、平常心。
「岳、缶ビールがおやすいですよ」
たしかに、岳がいつも買う六個パックの350ミリ缶がお買い得品のプレート付きで並んでいる。
岳はひとつ、掴んでカゴにいれた。
「チーズもお買い得ですね」
「あ、ほんとだ」
クルマの中からよく見えているものだと感心すると同時、ミューミントの特殊能力をこんなところで使っていていいものだろうかと、ほんの少しだけ疑問に思った。
(NK)