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190522 はやぶさ2記者会見記 その2

前回のnoteでは、5月22日の記者会見で発表された内容の中で、5月16日に実施された低高度運用(PPTD-TM1)の中止原因についてまとめた。ただ、運用は中止したものの、はやぶさ2は同時に、大きな情報を入手することに成功した。今回は、その話についてまとめていこう。ちなみに、前回の内容は下記のリンクで見てください。

16日のPPTD-TM1では高度50mで、運用を停止。はやぶさ2は、そのままホームポジションに戻るべく、上昇を開始した。このとき、はやぶさ2は、上昇しながらも望遠カメラでリュウグウ表面を撮影するモードを設定していた。運用停止時には、はやぶさ2の安全確保を最優先にするのだけれど、今回は、少しでも情報を収集できるかもしれないということで、画像を撮影する設定を入れていたという。

運用を中止する場所によっては、有用な情報を得ることはできないかもしれないけれど、運用チームとしては、念のために設定しておこうという気持ちで、大きな成果は期待していなかったようだ。しかし、今回の運用では、このとき撮影された画像が、今後の運用に有益な情報をもたらした。上昇しながら撮影した画像に、2回目のタッチダウン候補となっている3つの領域がすべて写っていた。

メディアに公開されたのは、高度500mと600mの場所で撮影されたもので、はやぶさ2はリュウグウに対して斜めに上昇していったこともあり、3つの領域をすべて高解像度でカバーすることができた。しかも、視差もつけることができたので、これらの画像をもとにして、立体地図をつくって、タッチダウンが可能かどうかを検討することができるという。

16日の低高度運用は、ターゲットマーカーを投下できずに中止されたために、半ば失敗したかのような印象を抱いた人も多いだろう。しかし、結果としては、タッチダウン予定地を選定するために必要な材料はすべてそろったので、タッチダウンの日程を変えずに、今後の予定を進行させることができる。プロジェクトマネージャーの津田雄一さんは「とてもラッキーで、救われました」と語る。

はやぶさ2は2回目の低高度観測運用であるPPTD-TM1Aを5月29日から30日にかけて実施し、3回目にあたるPPTD-TM1Bを6月10日の週に実施する予定になっている。

PPTD-TM1Aは、小型衝突装置(SCI)の衝突点を含むC01エリアの上空に降りて、ターゲットマーカーを投下する予定だ。

PPTD-TM1では、ターゲットマーカーはS01エリアに投下する予定になっていた。それなのに、なぜPPTD−TM1AではC01エリアに変更されたのか。それは、C01エリアの詳細がよくわかったことが大きい。もともと、S01にターゲットマーカーを投下しようと考えられていたのは、SCI運用前後に、このエリアの詳細な画像データを得ていたので、まずはわかっているところから攻めようという考えのもとで計画されていた。

しかし、PPTD-TM1でC01とL14の詳細画像も得ることができたことで、状況が変わった。詳細な画像データという意味では3つのエリアの探査条件は同じになった。ということで、運用チームがもっともいいと思える場所にターゲットマーカーを投下することにしたのだ。このように書くとタッチダウンもC01エリアに決まったかと思いがちだが、そうではない。タッチダウン予定地はまだ決まっていない。しかし、C01とS01のどちらかに絞られた印象だ。16日に撮影された高解像度画像を見た限りでは、C01、S01ともにタッチダウンできそうな場所が存在すことがわかったからだ。

30日のPPTD−TM1AがC01で実施されるのは、リュウグウの自転とも関係している。S01はC01の南東側に位置している。リュウグウは、東からに仕向けて自転しているので、まずは西側のC01にターゲットマーカーを落として、どこに着地するのかによって、次の手を考えていくという戦略となっている。

はやぶさ2は、次回のタッチダウンのときも、1回目と同じように視界にターゲットマーカーが1つしか見えな状況をつくりたい。そうすることで、1回目のタッチダウンシーケンスを参照して、2回目のシーケンスをつくることができる。1回目のタッチダウンが誤差1mの精密なものとなったので、あえて新しい要素を加えずに、精密なタッチダウンを目指すという狙いがある。

PPTD−TM1Aのターゲットマーカーが予定よりも東側に落ちたら、これ以上ターゲットマーカーを投下せずに、タッチダウンを決断するだろうし、予定よりも西側に落ちたら東側のS01にもう1つターゲットマーカーを落とそうという話になるだろう。状況によって残された選択肢の幅が広くなる。

また、PPTD−TM1ではタッチダウンのときに重要なセンサーとなるレーザー・レンジ・ファインダー(LRF)と広角カメラ(ONC-W1)の状態を確認できなかった。これらの機器の状態を確認し、タッチダウンの準備を進めるためにも、30日には無事にターゲットマーカーの投下が成功することを願っている。


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