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一眼カメラにおける交換レンズ考(最短撮影距離と最大撮影倍率編)

一眼カメラを持つ意味

今やほとんどの方がカメラ付きの端末(スマートフォンや携帯電話)を持ち歩く時代になりました。以前はカメラを持ち歩くことは特別なことでしたが、現在では常に何かしらの撮影機器を持ち歩くことが当たり前の時代です。

そんな中、一眼レフカメラやミラーレス一眼カメラを持つ意義というのはどこにあるでしょうか?
・携帯端末よりも遥かに大きいセンサーサイズによる高画質?
・美しいファインダー像?
・速くて正確なAF?
そのどれもがもちろん正解なのですが、もう一つ。
そう、様々なレンズを交換して表現豊かに撮影ができるということです。

例1)望遠レンズに交換してその圧縮効果を利用してドラマチックな画にしたり撮影対象を強調する。
例2)マクロレンズに交換して人間の目には見えない世界を覗き込む。
例3)大口径の単焦点レンズに交換して美しいボケのある表現を取り入れる。

このようにレンズ交換式のカメラは携帯端末ではなかなか難しい表現をいろいろなレンズを駆使して残すことができます。

様々な特徴を持つ交換レンズ

撮影者はレンズの特性をしっかり理解した上で使わないと、そのレンズが持つ魅力を十分に引き出すことは出来ません。焦点距離や開放f値、手振れ補正の有無、重量など基本的なレンズのスペックはもちろんのこと、色収差や非点収差、周辺減光がどのくらいあるのか、そして描写性能がどのような傾向なのか。
その辺りはレンズメーカー各社が公表している各レンズのMTF曲線や周辺光量のグラフなどである程度は読み解くことができます。

開放からカリカリなシャープなレンズ。
開放は柔らかく、絞っていくことでシャープなレンズに化けるレンズ。
色収差が少ないすっきりした写りのレンズ。
逆光耐性が良くコントラストが高い写りのレンズ。
フレアが出るレンズ。
と、レンズが持つ個性というのは様々で、単純に色収差が無く開放からシャープで、コントラストも高くボケも美しいレンズが良いというわけでもありません。自分の好みの写りにマッチしているか、自分が表現したい画にマッチしているかなど、オールドレンズも含めれば意外とレンズ選択というのは奥が深いものがあります。

この記事ではそんな奥の深い交換レンズの基本の部分について取り上げます。今回は意外と見落としがちな項目、最短撮影距離最大撮影倍率についてです。

最短撮影距離とは

最短撮影距離とはカメラの撮像面(フィルムやイメージセンサーの位置)からどのくらいの距離まで近寄ってピントが合うかということ。あくまで撮像面からであって、レンズの前球からではないことに注意が必要です。

基本的には焦点距離が長くなればなるほどその距離も長くなる傾向があります。もちろん被写体に寄って撮影すればその被写体を大きく写せるわけですが、実は同じ焦点距離のレンズでも各レンズによって最短撮影距離は同じではありません。これはレンズ構成や、内部の光学系の繰り出しのメカニズムなどで変わってきます。

最大撮影倍率とは

最大撮影倍率とはセンサーにどれだけの大きさで被写体を写すことができるかという指標です。カタログ表記では2通りあって、1/4と表記したり、0.25倍と表記します。(どちらも同じ倍率です)

撮影機材に慣れていないとなかなかイメージできない指標かもしれません。
簡単に説明すると、定規(ものさし)を撮影するとします。
仮にカメラのイメージセンサーがタテ2cm×ヨコ3cmだったとします。
そのカメラに等倍マクロレンズを装着して等倍(1倍・1/1)で撮影したとすると、イメージセンサーには横には定規の3cmの目盛りまで、縦には2cmの目盛りまで写せるということです。
(これでも少しわかりにくいでしょうか?)

さてこの最短撮影距離と最大撮影倍率というふたつの指標は必ずレンズのカタログには掲載されているスペックです。しかし開放f値や焦点距離、手振れ補正の有無や段数などのスペックに比べて意外と重要視していない方も多いと思います。そこでこのふたつの指標がもたらすレンズによる表現の自由度がどれだけ違うのかを見ていきたいと思います。

実写テスト

以下は開放f値の違う同じ焦点域の望遠ズームレンズ2機種による作例です。
一つはAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8G ED VRⅡ(以下VRⅡ)。
もう一つはAF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR(以下f4G)と言うともにニコンFマウントの少し古めのズームレンズです。

上がVRⅡ、下がf4Gで撮影したものでともにズームリングを200㎜にセットして、被写体である同じ菜の花に最も寄ってピントが出る距離で撮影しています。

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カタログ値(スペック)ではVRⅡは最短撮影距離1.4m最大撮影倍率0.11倍
f4Gは最短撮影距離1m最大撮影倍率0.27倍
スペック表ではそれほど大きな数値の違いは感じられないかもしれませんが、実際に撮影してみるとこれほどの違いがあります。

さらにこの2本のレンズに加えてもう一つ、ツァイスのMilvus135mmという単焦点レンズとの比較もしてみました。

上がVRⅡ、真ん中がf4G、下がMilvus。
もちろんすべて同じ焦点距離135㎜に合わせて、同じ菜の花にもっとも寄ってピントが出る最短距離で撮影しています。

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最短撮影距離、最大撮影倍率が異なると実にこれだけの表現の違いが出てきます。

※作例を見て、どのレンズが優れているかはご覧になっている方々で判断してください。今回はあくまで『写り』という観点での比較ではございません。

まとめ

もちろん『寄れるレンズ=良いレンズ』と言うわけではありませんが、撮影者にとってワーキングディスタンスに幅があることは表現の自由度が増すことになります。

私は望遠ズームレンズを購入する際にはじめに高価なVRⅡを、最近になって軽量で寄れるf4Gを購入しました。これは私がメインとしている山岳撮影において荷物の軽量化と高山植物の近接撮影を目的としているためです。

確かにVRⅡの写りは信頼のおけるものですが、やはり機材はトータルにみて適材適所と言うものを重要視したほうが結果的に良い成果物を残せるような気がします。単純に高価な機材が良いというわけでは無いところが交換レンズの奥の深いところです。
この辺りが『レンズ沼』と言われる所以でもあるかと思います。


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