”包容力のあるVI”を通じた、僕ららしいカルチャーの育て方|アートディレクターインタビュー
2020年、アクアリングはCIであるStatement・Mission・Value、VIを刷新しました。
また、昨年7月には「CIリニューアルの記録」と題し、開発の過程やその裏に込められた想いを発信したところ、多くの反響をいただきました。
今回はアクアリングのブランド広報チームを率いる中川さんに、VI刷新以降の取り組みやその裏側にある想い、今後の展望について迫りました。
※撮影時のみマスクを外しています。
本質を伝えていく。ブランド広報の役割
──まず、ブランド広報の活動内容について教えてください。
ブランド広報の活動は大きく2つあり、自社のアートディレクションと、カルチャー理解の推進です。
具体的に説明すると、自社のアートディレクションとは、広報活動を中心としたアクアリングが主語になる場合に必要な表現・デザインを指し、それらが機能するように手引きをすることです。
具体的にはVIが正しく運用されるためのドキュメント整備やデザイナーの育成も含まれます。
カルチャー理解の推進とは、アクアリングが大切にする価値観やビジョンに対する理解や共感を高める活動です。採用活動を中心としたイベントへの登壇などをおこなっています。
──ブランド広報発足当時の課題感は、具体的にどのようなものがありましたか。
当時は代表交代を皮切りに、アクアリングのカルチャーを再定義していかなければいけないタイミングでした。
まず、ブランド広報の前身にあたるカルチャータスクチームで会社について過去から未来を紐解く作業をし、約1年半かけて現在のCIであるStatement・Mission・Valueの検討を行いました。
その後、CIが“正しく”伝わっていくようにする目的としてブランド広報が発足しています。
──なるほど。その後、リニューアルの記事で語られたVI制作につながっていったんですね。
そうですね。
実は、制作の過程で一度社内にリリースしたロゴを引き下げて、全く違うデザインに舵を切ったという裏話があります……。
個人的にはそれが最も大変な思い出で、名刺などツール制作も並行して進めていた中で自ら振り出しにもどしたのは、半端じゃないプレッシャーでした。
──当初のデザインを引き下げたのは、どのような経緯だったのでしょうか。
もともとアクアリングという社名にはちゃんとした意味がなくて、それを回収したいという課題がずっとあって。VIの作成にあたり、社名に入っている「アクア=水」というものにもう少し目を向けて、その意味を因数分解してアプローチしていったんです。
ただ、形にしていく中で「水」に引っ張られすぎてしまって。絵で表現しようとすると水や海がすべて青になってしまい、ちょっと意味的過ぎたんですよね。「水」は本来青じゃないし、コンセプトとして色がないことを大事にしていたのに、青いロゴができちゃって……。
悶々とした状態で「いいのかな」と思いながら社内にリリースしたあと、「やっぱりダメだ。絶対後悔する!」と思い、引き下げました。
──なるほど。現在のデザインに対する、ご自身の所感はいかがでしょうか。
形状にフォーカスするためモノクロでデザインを進める過程で、意図せず水の性質である「定義できない」という定義を体現できていることに気がつきました。
結果的に、水のように柔軟な姿勢でモノづくりをしていく思いを込められたと思います。
また、「自己の成長と会社の成長がきちんと相互関係にあり、最終的にメンバー個人のハピネスに繋がっていく」というCIの概念を、シンプルなビジュアルに落とし込むことで理解の後押しにまで繋げられたことが良かったと思っています。
──「シンプル」の意味合いとして、本質的な部分を抽出することを大事にされているように感じます。
概念の話なので言葉だけで説明すると難しくなっちゃうんですけど、目に見える形で整理されていると「なるほど、そういうことか」と分かりやすい。そこに意義があったなと思っています。
社内外のコミュニケーションや採用活動でも、図があることで経営層が考えていることを伝えやすくなりました。
──これこそブランド広報、という大切な仕事ですね。
本当はこっちなんですよね。ついVIやツールにフォーカスしてしまいがちなんですけど。
「この会社が何を考えているか」を外にコミュニケーションしていく、ということがブランド広報の仕事だと思うので、そこを整理してわかりやすくしていくことを大切にしています。
解釈を受け止める、オープンなデザインリソースとは
──CIリニューアル記事の中で、VIについて「オープンなデザインリソース」と言及されていたのが印象的でした。
特に明言しているわけではないんですが、ミッションやバリューを定めたときに考えていたのは、「いろんな解釈が生まれることを恐れない」ということです。CIをもとに各々が自分なりに考えを巡らせるというプロセスがあるからこそ、僕ららしいカルチャーが芽生え、根付いていくと思うので。CIを定義する本当の意味は、そこにあるような気がしているんです。
だからこそVIも最低限のルールはあるものの、いわゆるはみ出しちゃいけない「ガイドライン」とは考えていなくて。どんどんはみ出して、「水」のように形を変えながら進化していくための“もと”になるもの、という捉え方でいい。各々の解釈でクリエイティブジャンプできるようなものにしたい、と考えながら制作しました。
──VIの定義を具体的に教えていただいてもいいですか?
VIでは、アクアリングのバリュー「いいモノをつくる」「チームの力を信じる」「理想へ背伸びをする」から解釈した3つのデザインプリンシプルを定義しています。これがブランドコミュニケーションにおける表現の基盤になりますが、逆に言うと、この本質を理解していればどんな表現をしてもいいと思っているんですよね。
表現の一例として掲載しているサブグラフィックも、かなり自由度を高くしています。物と物が一体化していくときの「張力曲線」を表現の基本として、伝えたいことの意味合いやストーリーの解像度をあげていきます。張力曲線は、表現の過程でCIの解釈を深めてくれる、ひとつの材料とも言えるかもしれません。
写真についても同様で、CIの意味とイメージをつなげる「水」をモチーフに、幅広い表現の可能性を示唆しています。さまざまな表情を持つ水は、使い方次第で動的な印象も静的な印象も与えられる。自由な捉え方ができて、楽しいモチーフなんじゃないかと思います。
──まさに表現の余地がある「オープンなデザインリソース」としての思想を体現した展開だと感じます。
VIドキュメントも、背景や本質的な意味をできるだけ理解してもらい、その上で発展的で自由なデザインを促す記載を心がけました。このVIが、もっと創造的でアクアリングらしいブランドコミュケーションの出発点になったら嬉しいです。
メンバーとブランドを育てていくために
──VIを展開していくにあたり、課題に感じていることはありますか?
特にアクアリング歴の浅いメンバーが会社に関するアウトプットを作ろうとしたとき、できあがったCIやVIだけを手掛かりに「はい、やって」と言われても、やっぱり難しいですよね。
VIの制作は若手デザイナーを巻き込んで取り組んだのですが、それは今言ったような課題感があっての行動でした。
社内のメンバーが解釈を深めて、より自由に、オープンに、発展的にデザインをしてもらえたら、アクアリングの理念や価値観はもっと社外に伝わっていきやすくなる。そのためにもメンバーと密にコミュニケーションを取って、センス・スキルを押し上げていくことが必要だと感じています。
──ブランド広報としての今後の計画や展望はいかがでしょうか?
ベースが整ったので、対外的なブランドコミュニケーションを実践していくフェーズに入りました。まさに現在進行形で、採用広報とタッグを組んで取り組みを始めているところです。
大学に行ったり、イベントで話をしてみたり、より皆さんに知ってもらえるような働きやきっかけ作りをしていきたいと思っています。
今までの制作物はあくまでコミュニケーションのための素材なので、ここからが本番ですね!
インタビューを終えて
これまでのブランド広報の活動を振り返りながら、秘められた想いを語ってくれた中川さん。
アクアリングのカルチャーをより社内外に浸透させていくために、私たちひとりひとりが本質と向き合う大切さに改めて気づくことができました。
また、メンバーを巻き込んでコミュニケーションを密にとっていくという言葉から、中川さんのデザインにも現れる柔軟でしなやかなスタイルが伝わってきました。
中川さん、ありがとうございました!
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