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声量が足りない方が多い気がする話

をします。私はときどきリビングで急に歌い出しては妻にうるさいと一喝されています。

インターフェイスの入力ゲインをあげて持ち上がるのは声量ではなくボリュームです。この違いがなんとなく伝わればいいなと思いながらカタカタしていきます。



声量が足りない方が多い気がする

ひとまず「音量が大きく、倍音が豊かで、歌らしい発声がされている」みたいなものを「いい歌だね、声量があるね」と捉えるものとして話を進めていきます。

といいますか、皆さんが聞かれる音楽でも、声量のあるアーティストだと思われた経験は必ずあると思います。こう書いていて私がぱっと思いついたのは、玉置浩二さん、Superfly、布施明さん、などなどです。


ただ、声が大きければよいというわけでも、倍音が豊かであればよいというわけでもありませんが、特に「歌らしい発声」というのは非常に大事な部分だと思っており、これについてはブレスコントロールだの滑舌だのが関係してくる部分なので、基礎練習的な部分が重要になるところと考えています。

今回は、私が活動・生活するうえで耳にする歌ってみた作品を聞いてきて、声量が足りない方が多い気がしたため、それが本当だったらどんな原因が考えられるのか、どんな改善策が考えられるのかを考えてみる記事になる予定です。


もちろん、とんでもない声量の方からご依頼をいただくこともありますし、声量が無くても素晴らしいカバーを作られている方もいらっしゃいます。

声量のあるないが作品の良し悪しを支配するわけではありませんが、バンド・弾き語りで活動してきたマンとしては声量のない方が多い気がすると思った、という偏った意見です。



声量がある歌声のメリット

第一に、ピッチの取りやすさを含む声の安定感ではないかなと考えています。伸びのある声、芯のある声などを表現するには声量が必要になってきます。

次に、緩急・抑揚を表現しやすくなることが挙げられます。楽曲全体の流れやフレーズで波を作ることで、自分らしい表現が行えたり、聞いてくれる方の耳に引っ掛かる印象的な歌唱を行えるはずです。

あとは、声が大きい方がいい感じに聞こえるという元も子もない印象もあると考えています。例えば怒った声、泣いている声、そういったものの音量が大きければ大きいほど、それから受ける印象は大きくなるはずです。もちろん、緩急と組み合わせればより細かな表現が可能になります。


大きな項目としてはこのあたりかと思われます。まずは、声量がなくても歌は歌えるけれどあった方が便利なのかも、と思っていただけたら十分すぎるほどです。

もしも、変な癖がつくというか、声量のある歌唱しか行えなくなるとすればデメリットとも言えるかもしれませんが、正しく訓練を行えばそんなことはあまり考えられず、あくまでも表現力の幅を広げるものであると考えています。

このメリットを、歌ってみた界隈で活動している方がどうすれば受けることが出来るのか、また、受けることが出来ていないとすればその理由はなんなのか、その問題点について考えてみます。




考えられる問題点1:基礎練習の時間確保

声量のある歌を歌うためには、ただ大きい声を出せばよいというわけではなく、身体をリラックスさせて、正しい呼吸法で歌唱する必要があります。

そのためには日々のトレーニングが重要なのですが、今すぐに効果が出るわけでもなく、毎日コツコツ続けなければならないので、いかにその時間を確保するかが重要となります。


が、歌ってみた界隈で活動されている方を思うと、歌ってみた作品を作るだけではなく、当然学校や会社といったものに1日の多くを費やすでしょうし、配信活動なども並行して行っていれば、なかなか毎日練習を行うというのも気が向かないであろうと思うところです。

ただし、1日5分~10分程度でも十分に効果を発揮する練習法もありますし、声を出さなくても出来る場所を問わないトレーニングなんてのも存在します。まずは何か自分の生活の中に、無理なく取り入れられる練習法がないか探してみるのが良いと思います。



考えられる問題点2:活動の目標

私の場合、バンド活動を行っていた頃は毎日のように数キロ走っては、様々な書籍から搔き集めた自宅練習法を繰り返していました。学生の頃は帰宅部でしたし、会社も超ホワイトで残業なし、友達もなしで他にすることがないので時間が有り余っている、という状態でした。

なんでそこまでやっていたっけな、と思い返すと、「お前のバンドは歌だけがダメだ」と新人開発の方にはっきりと言われてしまったり、あまり運動をしてこなかったので30分間しっかり歌って喋れる体力を身に付けたいなと思ったり、色々な理由があったような気がしています。


歌ってみた作品の場合、決められた時間を歌い続けるという体力が必要ないこと、私が学生の頃に思っていた「メジャーデビューしたい」のような明確な目標(夢)を設定しにくいことなどが影響して、日々の練習に意識が向かない可能性がある気がしています。

当然「歌が上手くなりたい」というのも非常に大切な目標なのですが、いざ取り掛かるのはブレスコントロールや滑舌の練習…となれば、正直なところ楽しくはないでしょうし、正しく長期的に行わなければ効果が現れないため、なにかトレーニングを止めたり諦めたりしないためのある程度の目標は必要なのではないかなと考えたりします。また、大きな目標も大切ですが、期日を決めた小さ目な目標も大切なはずです。



考えられる問題点3:ピッチ・リズム補正

歌ってみた作品を作るにあたり、ほとんどの場合でミックス、ピッチ・リズム補正という工程を通過するため、なんだかんだ音源としては形になってしまうということが影響しているように感じています。

ただ、先にも挙げたとおり声量は「声の安定感」にも影響する部分で、声量がない・声が安定していないのにピッチ・リズムだけが非常に安定している、といったアンバランスな状態にも繋がりかねません。

これは後述する「誰を・何を参考にするのか」にも影響している部分ですが、「アンバランスな状態となった音源」が非常に多く公開されているため、歌い手側も視聴者側もこのことに疑問を抱かない状態となってしまっていると感じています。


ピッチ・リズム補正を行っても歌の魅力が増すわけではない、と気付いている方は、私の周りでも毎日トレーニングを行ったり、ボイトレに通うようになった方もいます。



考えられる問題点4:参考にするもの

私はこれまでお偉い方から「洋楽を聴け」「ルーツを辿れ」と言われ続けてきましたが、そこまでは干渉しないものの、やはり良い歌・良い音楽を耳にしている人は、自分の歌との比較材料が用意されているというか、引き出しが豊富というか、音楽活動に大きく影響するものと考えています。

私はこんな活動をしているにも関わらず歌ってみた界隈・ボカロ界隈にそこまで詳しくなく、ご依頼をいただける方や視聴者の方がよっぽど詳しいと思うのですが、声量がなかったり、ウィスパーボイス系の歌唱を行っている方の歌ってみた作品を耳にする機会も多いと思います。


声量がないことは一概に悪いことと言えず、楽曲によっては静かに歌うほうが馴染むこともあるでしょうし、逆に音圧の高いサウンドに囁き声を当てて歌を浮かせるアプローチもあると考えています。

楽曲に対してどのように歌うかの引き出しがどれだけ用意されているのか、また、目標とする歌や歌唱はどのようなものか、自分に合った歌唱法はどのようなものか、様々な方向から判断することでより魅力的なカバーが行えるはずです。

声量のある歌唱が行えると、このアプローチの幅が大きく広がるものと考えています。好きな歌手・歌い手が静かに歌う方・ウィスパー系の歌唱法が得意であっても、カバーする楽曲の方向性やカバーする方の声質によっては、その真似をすることが正解とは言い切れません




考えられる問題点5:宅録

これに関してはどうしようもない部分もあるかも知れませんが、自宅で大きな声が出せず、仕方なく小さな声で練習を行ったり、本番のレコーディングを行ったりしているケースが考えられます。

だからといって、普段の練習は自宅で小さな声で行うが、本番のレコーディングだけはスタジオを借りて…という方法では力を出し切れない可能性があるため、可能であれば普段の練習から遠慮なく声を出せる環境が理想と言えます。


私の周囲の話だと、1週間に1回はスタジオを2~3時間借りて練習を行い、レコーディングもそこに機材を持ち込んで収録、とされている方がいます。

近くにスタジオがあるかどうかや、費用的な問題、機材的な問題、それに普通の練習スタジオだと音漏れ等により本番の収録が可能かどうかも場所によるとは思いますが、もしも自宅環境により声量を抑えなければならない状態となっている場合、ミックス代よりもスタジオ代にお金をかけた方がよっぽど有用なのではと思ってしまうほどです。


余談ですが、「カラオケでは上手に歌えるんだけどな」と思ったことがある方は、(1)遠慮なく声を出せる環境にいること、(2)歌とオケのバランスを簡単に調整できること、(3)自分の声が聞き取りやすいこと、(4)ガイドメロディが含まれていること、といった要因が考えられるため、どれが影響しているかを考えたうえで、それに近い練習・レコーディング環境を構築することで対処が可能と思います。



おわりに

何度も言いますが、声が大きければ良いというわけではありません。

この声量について個人的にイメージするのは、書道の筆のようなものです。毛の量が少なく細い筆よりも、毛の量が長く太い筆の方が、豊かな表現力に繋がるはずです。が、毛の量が少なく細い筆で、いかに繊細な表現をするかも素敵なアプローチなわけです。

自分の筆はどのようなものなのか、自分の声が一番魅力的に響く声量はどのようなものなのかを把握しておかなければ、この記事で挙げた問題点に該当するかどうかすら判断が出来ないように思います。


せっかく豊かな表現力をもった筆があっても、手入れを行わず、根本が固まってしまってはもったいないのです。自分の筆をよく理解し、固まってしまっている部分を柔らかくほぐしていくのが私のボイトレのイメージです。

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