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日本技術士会のNMRパイプテクター見解書が撤回された事案について

日本技術士会の千葉県支部がNMRパイプテクターの見解書を公開したところ、数週間後に撤回された。これに対する販売業社のコメントをファクトチェックしていこう。
(撤回がクレームに基づくものであることは本稿では検証しない。またクレーム主についても言及しない)

日本技術士会の見解書が撤回された経緯

日本技術士会千葉県支部による見解書の作成
日本技術士会千葉県支部のメンバーは千葉県のマンション住民からNMRパイプテクターについて技術相談を受けたとのこと。千葉県支部では別の経路からNMRパイプテクター実機を入手しており、内部構造を検証して「赤錆を減少させる有用な効果は生じないと考えられる」との見解書を千葉県支部のサイトで公開した(2019年7月)。
この見解書はネット上で注目を集め”スラド”や”はてブ”などの投稿サイトで取り上げられたほか、ブロガーの山本一郎氏によるnote 記事も見られた。
撤回の経緯
2019年9月3日に見解書が千葉県支部のサイトから閲覧できなくなった。
12月には千葉県支部のサイトに「一般企業の商品の効用を公表する活動は日本技術士会の事業活動の範囲に含まれない」との撤回理由が掲載された。
ただし、技術士会の会員が個人あるいは有志の責任のもとで各種見解を発表することについては関与しないとのことで、個人サイトに転載されたものは日本技術士会千葉県支部の表記はそのままである。
本部と支部
日本技術士会のサイトは本部と支部で同じドメインを使っているが、支部ページは支部の裁量で更新できるシステムのようだ。
支部の判断で見解書を掲載した後に、外部からのクレームによって本部が見解書の存在を知り調査を行った。本件はクレーム主と日本技術士会の問題ではなく、日本技術士会の本部と支部の見解の相違であることに留意されたい。

ファクトチェック

業者の主張は業者noteの記事で確認した。
ファクトチェック項目と判断結果は次の通り。
1.日本技術士会本部の指示によって見解書がサイトから削除された[ほぼ正確]
2.日本技術士会は見解書が「技術者教育チーム委員長の私的見解である」と認めた[
根拠不明]
3.日本技術士会が分解した装置は偽物である[虚偽]
4.「永久磁石以外の原理が組み込こまれていない」という前提条件は誤っている[虚偽]
5.NMRパイプテクターは磁気活水器と明確に構造が異なる[判断留保]

1.ファクトチェック(削除指示)

・検証項目「日本技術士会本部の指示によって見解書がサイトから削除された」
・ファクトチェック「ほぼ正確」

確認された事実関係は次の通り
(1)千葉県支部サイトには「事業活動の範囲について〜統括本部からの指摘もあり〜検討してきました」「掲載を撤回することと致します」と記載されていた
(2)千葉県支部役員会議事録(2019年度第7回)には「本部総務委員会委員長からのNMRパイプテクターに関する依頼について」の項目がある

サイト説明(1)と役員会議事録(2)にある通り、見解書が撤回されたことは本部の意向が大きい。しかし本部の指示は「削除」ではなく「検討」と読める。
支部の結論も「削除」ではなく「掲載を撤回」と記載されている。
このことから本項では「本部の指示で検討し、支部の裁量で掲載を撤回した」とみなす。

2.ファクトチェック(委員長の私的見解)

検証項目「日本技術士会は見解書が"技術者教育チーム委員長の私的見解である"と認めた」
・ファクトチェック「根拠不明」


千葉県支部サイトには「会員有志により作成された本文書」と記載されている。
会員有志とは千葉県支部の技術者教育支援チームのことである。また、見解書の撤回後の9月18日には技術者教育支援チームのサブリーダーによって見解書を改めて発表していることからも委員長の私的見解ではない。
また、役員会議事録にも私的見解との文言は見られない。

チームの見解を「私的見解」と覆すには強い根拠が必要であろう。販売業者の主張には根拠が記載されていないため、本項は「根拠不明」とする。

3.ファクトチェック(装置は偽物)
検証項目「日本技術士会が分解した装置は偽物である」
・ファクトチェック「虚偽」


本件の経緯は次の通りである
(1)正規手順でNMRパイプテクターを入手した人物が大学教員に実機を送付した
(2)大学教員は日本技術士会千葉県支部に装置の分解を依頼した
(3)分解した装置はTV番組「田村淳の訊きたい放題!」(TOKYO MX 2019/11/23 放送)で披露された
(4)分解した装置を見た販売業者社長は「(本物かどうか)分からない」と発言した(2019/11/23)
(5)販売業者サイトで「分解した装置は偽物であることが調査の結果判明した」と記載された(2020/8/20)

入手経路や入手状況の説明から正規手順での入手を疑う理由はない。また、偽物が正規流通ルートに乗っているという業者主張も見受けられない。
TV番組で業者社長は「偽物を作っている会社が2社ある」と発言しているが、もし社長でも見分けがつかないような偽物が流通しており、TVで偽物が披露されたというのであれば自社サイトで注意喚起がないことは不自然である。更に、一旦「(本物かどうか)分からない」と認め、その後は見る機会もなかった装置を「偽物であると判明した」とする説明は不十分である。
見分けがつかないと発言しながら、主張を翻した根拠が明かされていないことから、業者は間違いと知りつつ情報発信した「虚偽」とみなす。

4.ファクトチェック(装置内部は永久磁石だけ)

検証項目「永久磁石以外の原理が組み込こまれていないという前提条件は誤っている」
・ファクトチェック「虚偽」


確認された事実関係は次の通り
(1)分解した装置内部にあるのは「樹脂」と「円筒形の金属」だけ
(2)業者特許では「円筒形の金属」からマイクロ波が出るとの記載
(3)電波暗室で「円筒形の金属」を測定したところ、マイクロ波領域でバックグラウンドノイズとの差異は確認されなかった

「円筒形の金属」は業者の特許で「流体活性体」と呼ばれ、無電源で位相の揃ったマイクロ波を放出し続ける機能があるとされている。
しかし、電波暗室の測定ではマイクロ波の有意な放出は確認されていない。「円筒形の金属」の機能として確認できたのは磁力で金属に張り付くことだけである。
したがって日本技術士会が「永久磁石以外の原理が組み込まれていない」とした解析は適切である。
販売業社が「流体活性体」のスペクトルや電界強度を示すことは容易である。これを怠って「日本技術士会が誤っている」と主張することは「虚偽」とみなす。

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業者特許(抜粋)

5.ファクトチェック(磁気装置との差異)

検証項目「NMRパイプテクターは磁気活水器と明確に構造が異なる」
・ファクトチェック「判断留保」

NMRパイプテクター「実機の構成」は磁気活水器そのものである。
ただし、装置内部に収められていた「円筒形の金属」に業者特許に記載されているような積層構造や微細穴があるのなら「部品の内部構造が異なる」と言うことができるだろう。
日本技術士会と製造業社はいずれも「円筒形の金属」の分解結果を示していないため本項は「判断留保」とする。

(以上)