テレグラフにいた #49
# 49
滑走路を飛び立つUA八七五便。左右の翼でバランスを取りながら、機体はゆっくりと上昇していく。少しだけ戻しておいた時間が、その反動でいつもよりスピードを上げて流れていく。結局、小説は未完成のまま、僕はテレグラフを去った。
理由はない。答えもない。ただ、何かをしたくない、抗いたい、特別になりたい、そんな煮え切らない欲望だけが、いくつになってもひっそりと通奏低音のように静かにまだそこにある。情けなくもこうして、何かに縋るようにまだそこに。使い古された言葉はもう踊り出すことはない、ただだだ、溜息をつくだけだ。だから、新しい言葉を探し、消費していく。どうしようもなく空虚さを隠すように、それでもまた何かを取り戻すように。
さよなら街よ。
さよなら青春よ。
飛行機は夜の海のうえを行く。
君がいない秋がはじまる。いや、明後日の夜の東京はきっともう冬だ。新宿、渋谷、池袋、六本木……嫌になる程たくさんの人がいて、嫌になる程たくさんの歌があって、嫌になる程彼女の歌がない。
もうすぐ時代が変わる。僕は大人になる。歌を忘れ、言葉を忘れ、三百十七分間の幸福のために。人生は続いていく。彼女が消え、奴が死んだとしても、僕が生きている限り、僕は生きていくんだ。きっと。
両脚は確実にシノニムの海に浸りつつある。
あの頃、聴いた歌が、あの頃、綴った言葉たちが帰ってきたら。思いっきり抱きしめて、飽きるまでキスをしよう。
あいつらがもう一度帰ってきたなら。
きっと伝えよう。
大好きだと。
(続く)
二千二十年四月十一日。
少し長い小説を公開します。
これから毎日更新して、多分五月が終わる頃に終わります。
君は友の、澄み切った空気であり、孤独であり、パンであり、薬であるか。みずからを縛る鎖を解くことができなくても、友を解き放つことができる者は少なくない