出版社アプレミディの社名の由来

こんにちは。独立系出版社アプレミディの代表富永です。

何かに名前を付けるというのは、本当に難しい。

今わたしが飼っている猫のレイくんは、保護猫カフェ時代から「レイくん」という名前だったのでそのまま呼んでいる感じだし、昔実家で飼っていた猫も、黒猫だから「クロちゃん」、三毛猫だから「みーたん」と、ものすごく安直な名づけでした。大学時代に友達と組んでいたバンド「土地と暮らし」も頭に浮かんだ言葉をつけました。なので今回自分が立ち上げる出版社の名前を決めるとなって初めて、これまでわたしは真剣に何かに名前をつけるということをしてこなかったのだなと気づかされました。

もちろん、本のタイトル決めも「名づけ」の経験といえます。これまで自分が手がけた書籍のタイトルを決めるときは、それはもう真剣に考えました。著者の方が考えたタイトルを採用することももちろんありますが、今でもタイトルの候補をノートに100個くらい書きます。しかし、本のタイトルを決めるときには、だいたい企画の主旨が確定していたり、原稿が上がっていたりします。つまり完成形が見えていて、選ぶ言葉がだいたい決まっている。それに対して、まだ形も何もない出版社に名前をつけるというのは、目の前に置かれた真新しい四角い粘土に今すぐ名前を付けなければいけないような行為だと感じました。

そのうえでわたしはAprès-midi(アプレミディ)という名前に決めました。理由はおもに4つです。(4つもあるんかい!)
まずフランス語でAprèsは「~のあと」、midiは「お昼」ということで、Après-midiとはつまりafternoon、「午後」「昼下がり」という意味です。午後にひと息休憩を入れたくなるように、ちょっとひと休みの時間が楽しめる本を出せたら、という思いも込められています。
2つ目、midiの語源の「mid」「medi」という言葉には、「真ん中」という意味もあります。真夜中を指すミッドナイト、ステーキの焼き加減のミディアムなどの言葉からもわかりますね。そんなわけで、Après-midiも、真ん中過ぎ、折り返し地点と解釈できるかなと(自分で)思いました。人生の前半戦で積んできた経験を、後半戦ではもっと自分なりに発揮していこうかな、という感じです。
3つ目、近年出版業界は、「斜陽産業」などと揶揄されます。陽が傾くとはつまり午後。午後に生まれた出版社だからAprès-midiです。
というのは後付けの理由ですが、斜陽産業という点については、出版物の売り上げが下がっているのでたしかに事実かもしれません。ただ、わたしは本が好きだし作っているからというのもありますが、ニーズがないからと言ってなくなっていいものとはどうしても思えないのです。役に立たなくても意義のある本、ヒットしなくても愛される作品、それらがすべて「売れない」という理由でこの世からなくなってしまっていいのか? 
もちろん弊社も売り上げを立てて運営していかなければいけないのですが、本がなかなか売れない時代だからこそ柔軟な発想を心掛けて、「10万部売れる!」みたいな物差しだけで企画内容をそろばんではじいて決めない出版社があってもいいんじゃないでしょうか。斜陽なら斜陽のやり方と楽しみ方を模索します。
最後4つ目は単純に、わたしの好きなドビュッシーの「牧神の午後への前奏曲(Prélude à l'après-midi d'un faune)」という曲からのインスパイアです。この曲は非常にぼんやりとしたとらえどころのない曲なのですが、逆を言えば何かを直截的に表現するでもなく、説明的な押し付けがましさもありません。それでも午後のけだるい空気感や色彩を喚起させる曲で、説明しすぎないということは美しいなと感じるのです。なにかとわかりやすさが求められる時代ですが、Après-midiはこの曲のように「よくわからないけど素敵」みたいな感覚をまとっていたいと思います。

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