いちごの歌

3年前、毎日のように会っていた仲間と話した昨日。その中の数人で会うことになった。
あの頃はただカフェを作ることに必死で、0の何もない場所から皆でいかに理想の空間をつくれるか日々奮闘していた。そのメンバーたちはボランティアだったので、その後解散になって、私たちはそれぞれの道へ。作家同士の意見がぶつかって、アイディアを形にすることが上手くいかないこともあったり、自分自身の知識不足を痛感したり、中の人間関係に翻弄されたり、それぞれ、徐々に疎遠になってしまった私たちだった。
しかし、昨日少し遅れてお店に入ると、懐かしの一人の顔が目の前に飛び込んできて、気がつくと嬉しくてジャンプしながら抱き合っていた。
話し出すと、かつてどれだけ私たちがプライベートな話をしてこなかったのかに気がついた。毎日あんなに会っていたのに、今はどこに住んでいるとか、何の仕事をしているとか、好きな音楽は何かとか。
あの頃は毎日カフェ作りの話題や、大勢の意見をまとめることに必死だった。各々の道のプロが集まる中で、わたしはカフェが好きで、カフェ巡りの知識しか何もなくて、ただ誰かの意見を聞くことしかできなかった。
夕方まで過ごすと、私は友人のこどもと待ち合わせしていたので、先にお店を出た。仲良しのアクセサリー作家のお姉さんとまた、ゆっくり話そうね、好きな音楽の傾向も被っていたことがわかり、ライブも行こうねと約束をした。

朝からちょくちょく鳴っている携帯。メールが届くたびに返す。最近はずっとLINEをしていたので、メールが届くのは珍しい。「今日どんな格好してる?」とか「楽しみだね!」とか「心理テストの本で遊ぼうね」とか。
わたしが「青い服できたよ。バックも青いよ」と送ると「わかりやすいね」と返ってきた。

待ち合わせ時間に駅に着くと、私の母も先に改札にいて、友人の子を私より先に見つけ、ぎゅっとしている光景が目に入った。
友人の子は小学校3年生でありながら一人自力で待ち合わせの駅まで来たのだった。
会うなり母がイチゴのあまおうを持たせてくれて、「家で食べなさいよ」と私に手渡してから、その子に「いちご好き?」と聴くと、
「うん、大好き」と目を輝かす。
その天真爛漫さに思わず「かわいいね」と顔を見合わせて微笑む。ちなみに母はもうわたしがいちご好きということをすでに知っている。

そこから母と別れ、私とその子は手を繋いで夜の街に歩き出した。
時間はたっぷりとあった。何が食べたいか聞くと「ふわふわのオムライスか大好きなハンバーグ」とのことだったので、近くのオムライス屋さんに入ることにした。そこにはハンバーグもたしかあったなぁ。
その日はレディースデイだったので、オムライスに、ジュース、サラダ、スープ、デザートまでついてきた。注文を待ちながら、その女の子は心理テストの本をすぐに出した。今クラスで流行っていて、わたしと一緒に遊べるようにと友達からわざわざ借りてきてくれたらしい。
質問を出されるたびに選択をすると、「えー?本当にそれでいいの?」こどもながらに心理を揺さぶるようなことを言ってくるのでこっちもちょっと、びくりとしてしまう。
「何才?」と聞かれて、年齢をこたえると、「高校生かと思った」と。なんか複雑な気持ちだった。
わたしがこどものように振舞ってしまうからか、今ブラブラしてるからだろうか。短い間に思いを巡らす。
ママと同級生だからおんなじだよと言うと納得したようなしていないような顔をした。

オムライスを食べながらメロンソーダをストローで吸っているその子に、「ママ、もうすぐ赤ちゃん生まれるね。さみしくない?」と聞く。
すると、その子は「そりゃあ。さみしいよ。でもママ、もうこれから一緒だから。今までは1日に朝と夜で3時間しか会えなかった。だからこれからはたくさん会えるよ。嬉しいよ」と。
ずっと、女手一つで育ててきた友人と、仕事帰りの母の帰りを夜遅くまで待ち続けてきた友人の子は、二人三脚でありながらとてもすれ違いの生活だったようだ。
だけど、再婚した友人は今とても幸せそうだし、新しい命も宿ったのをきっかけに、会社を卒業することになった。
これから一緒にいても、またちがうさみしさも出てくるだろう。だが、そうやって長女は強くなったりもする。

私たちはご飯をゆっくり食べ終わる間に色んな話を2人だけでして、お店をでた。
お姉ちゃんとして新しい命の名前を考えてることや学校の好きな男の子のこと。仲良しの友達のこと。

文房具屋さんをまわったり、おもちゃ屋さんで遊んだり、本屋さんで絵本を読んだり、子ども向けのゲームセンターで遊んでみたり、色々としてるといい時間になってきたので家に向かうことにした。
その頃には少しお互い歩き疲れ、「お家でゆっくりとしようね」と話した。
歩きながら「ねぇねぇ、あまおうの意味って知ってる?」と聞いたので、
「あ、あまい。ま、まあるい、お、、?」
と私が言ってると、「ちがうよ!」とその子が訂正した。
「良い?あまおうの意味はね、
あ、あまい。ま、まっかな、お、おいしい、う。。。」
「“う”は。。?」

「うは忘れちゃったんだけどね。。わたしはこう思うの。“う”は歌いたくなるハーモニー」その瞬間、その感性の豊かさにキュンキュンとしてしまって、ついぎゅっとしてしまった。

お家に着くと、久しぶりの実家はなんだか懐かしくて、遠慮はなく安心できた。
戸棚に入ったお皿に、母から預かった色んな大きさの苺を散りばめて、わたしたちは美味しく苺をいただいた。
その子の心理テスト好きは本に留まらず、自由帳に書き写して仕掛け絵本のように上から紙を貼ったり楽しませてくれる工夫したものまであった。
「これね、昨日徹夜してつくったんだよ。今日のためにね」
わたしたちは、友人が帰ってきたというメールが届く夜の11時まで、おもちゃとか心理テストだとかで遊んだ。

家に帰ってきたわたしの母と一緒にその子をお家に送り届けた。
ずっと遊んでいたので、すこし疲れているようだった。
お互いお別れは寂しさよりも、「また今度ね」という清々しい気持ちだけが残ったように思った。

母は帰りの車の中で「なんだか似てるね。」と話してきた。

帰ってからあまおうの意味を調べると本当はちがうようだった。
けれど、わたしは、うは歌いたくなるハーモニーだよ、とこれから誰かに言ってしまうかもしれない。


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