科学の立ち位置

Where science stands now. 

ここ数日、大統領選挙を前にアメリカのニュースで科学のデータ・情報、取り扱い、発信の仕方、に関してニュースが多くあったので紹介します。また、非科学を信じる心理、非科学に支配される世界は、についてもコメントしてみます。

Climate Change vs. Solar Activity (気候変動 vs 太陽活動)

Prof. David Legates

NOAAの"deputy assistant secretary of commerce for observation and prediction"という職に、 David Legatesという気候地理学の教授が最近就任したというニュースがありました。この職は、政府の天候と気候予測を行う機関のトップへのアドバイザー役になるそうです。

この人は"climate change denier (気候変動を否定する人物)" として有名で、過去には(人間活動ではなく)太陽活動のせいで気候変動が起こっている、という発言もあるそうです。教授なので論文になっているのか、少し検索したが見つかりませんでした。

前回日本の年平均気温をplotしました。参考にしたkaggle noteには世界の 地表面気温の図もあります。

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これと太陽活動の図、例えばここにあるような、黒点の数の図を目で比較してみましょう。気温は上がりっぱなしなのに対し、黒点の数の11年周期を無視してみると、1960年からまた下がり始めているように見えます。回帰分析するまでもなさそうです。

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COVID-19 Herd Immunity (新型コロナ集団免疫)

Dr. Scott Atlas

昨日から"Herd Mentality"という言葉が trendになっているようです。Trumpが「covidは時間と共に消えて行くよ」ということの根拠として"Herd Mentality"と言う言葉を使いました。

彼は、自分が守備に立たされていると思った時には(質問する側は大統領に対してするごく普通の質問をしているだけだが)、口からでまかせを垂れ流し相手を煙に巻いて、元の質問から話をそらし、自分を守る、というような方法をとるように見受けられます。

この時も、彼が言いたかったのは Mentalityではなく、 Immunityで、herd (群)の中で作られる immunity (免疫) - 集団免疫のことを指します。  

このコンセプトを彼の頭の中に突っ込んだのが、Foxによく出てくる Scott Atlas という神経放射線学専門(免疫学ではない)の医者、と言われています。

この Town Hall での大統領の発言をみると、大統領は米国で対Covid-19のゴールを集団免疫と設定した、と捉えられます。集団免疫は人の命の犠牲を受け入れなければできない、各国で却下されてる政策です。

Washington Postのこの記事によると

Swaminathan said that given the coronavirus’s transmissibility, she believes about 65 to 70 percent of the population would need to become infected to achieve herd immunity.

65-70%の人口が感染しないと集団免疫が確立しないようです。米時間16日のRachel Maddowの番組で米国で集団免疫をゴールとした場合、何人の命がなくなるのか、という計算をしています。

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640万人。エルサルバドルとか、ニカラグア、千葉県の人口がまるまるなくなる推算です。

ちなみに最近の Sweden では抗体は思ったよりもできなかった、という結果になっているようです。以下はこの記事から。

Authorities predicted that 40% of the people in Stockholm would get the disease and develop protective antibodies by May. The actual prevalence, however, was around 15%, according to the study published Aug. 11 in the Journal of the Royal Society of Medicine.

Covid-19 Scientific Information (新型コロナの科学的な情報)

Michael Caputo

昨日から2ヶ月の休職に入った、HHS(アメリカ合衆国保健福祉省)の assistant secretary (次官補) という職にある人です。Trump自身により、その役職に選ばれたそうです。科学・医学のbackgroundは全くなく、今までRepublican party (共和党)の為にロビー活動等をしてきた人物のようです。

wikipediaのページによると、

While working in a top position in the HHS for the Trump administration, Caputo sought to change, delay, suppress and retroactively edit scientific reports on COVID-19 by the Centers for Disease Control that were deemed unflattering to President Trump,[3][4] and has accused CDC scientists of sedition.[5] 

CDCのHPのCovid-19に関する記事をTrumpの過去の発言に沿うように変更しろ、と圧力をかけていたようです。14日、facebook liveで、CDCの科学者たちがTrumpの足を引っ張ろうとしている、とかhit squadが自分を殺そうそしている、などの根拠なし意味不明の発言をし、15日から"mental health has definitely failed"と休職に入りました。

科学的なデータを知りたい時、信頼度の高い情報を探しに行きます。例えば、WHOやCDCのHPを見に行きます。その道の専門家による正しい情報が書かれているはず、と思うからです。その情報を政治(自己愛者 Trump の場合は彼自身)の都合の良いように書き換えられるという可能性を始めて認識しました。

追記:New York Times の9/17の記事で、

C.D.C. Testing Guidance Was Published Against Scientists’ Objections
A controversial guideline saying people without Covid-19 symptoms didn’t need to get tested for the virus came from H.H.S. officials and skipped the C.D.C.’s scientific review process.

CDCのCovid-19に関するガイドラインをCDCの科学者が反対したのにも関わらず、HHS(既出アメリカ合衆国保健福祉省)の役人が書き、CDCの科学的なreviewをすっ飛ばしてHPにあげていた。とあります。

CDCの guidelineの更新記録をここで見れますが、8/24に更新された記事とあるので見てみます。

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同じようなタイトルが並びますが、上の記事は長々とした文章が並び"do not need a test" が目につきます。いかにも役人が書きそう、と言う印象です。一方、下の記事はシンプルでわかりやすくまとまっています。

CDCが積み上げてきた信頼が回復するのにどれほどの時間がかかるのでしょうか。

Science vs. Politics (科学 vs 政治)

Scientific American

175年続いたアメリカの科学雑誌、Scientific American がその歴史の中で始めて大統領選挙について誰を支持するか、記事を書いています。

The evidence and the science show that Donald Trump has badly damaged the U.S. and its people—because he rejects evidence and science.

「エビデンスと科学は、ドナルド・トランプが米国とその国民にひどい損害を与えたことを示す。彼はエビデンスと科学を拒絶する。」とあります。

Conspiracy Theory (陰謀論)

Believers

とても驚くようなある事象があったとします。どうしてこんなことが、と今までの自分の認識では説明がつかないような、大きな事象です。脳は、「この事象は誰かの意思によって起こされたものに違いない」、と思い込んでしまうかもしれません。

この認識を説明する時のキーワードが、Confirmation bias (確証バイアス)と Belief perseverance (信念忍耐力?)  です。

心理学についての雑誌 Psychology Today のこの記事には以下のようにありますが、簡単にまとめてみます。

Confirmation bias refers to the fact that we tend to become attached to our beliefs and to search for (or interpret) information in ways that confirms our preconceptions. Once we settle on a conviction, we will search, remember, and accept only evidence that supports it, while ignoring and neglecting to seek disconfirming evidence. This is why people online gravitate to sites that echo their preexisting beliefs and prejudices.

Confirmation bias:自分が「こういう事かも」と思った事をその理由を裏ずける情報ばかりを検索し、その他の情報は無視する。この記事には internet のecho chamberで" confirmation bias on e-steroids" とうまく表現していますが、「電子ステロイドを与えられた確証バイアス」と不器用に訳してみます。

Belief perseverance refers to the fact that we seek to maintain our beliefs even after the information that originally gave rise to it has been refuted. Once we’re set in our beliefs, evidence to the contrary will be dismissed, actively.

Belief perseverance :一度信念を持ったら、その根拠がなくなった後でも、維持しようという力が働いてエビデンスまで却下しようとする。

Doomsday Clock (世界終末時計)

President Trump

wikipediaページにもあるように最近はTrumpのおかげで秒刻みになっています。

また、Bob Woodwardのには2017年、北朝鮮との核戦争の危機が高まり当時のマティス国防長官は、すぐに動けるようにジムに行く服で寝て、教会に祈りに通っていた、という記述があるそうです。

なお、「Trump のせい」の意味は、言うまでもないですが、彼一人ではなく周りの彼(の暴走を)可能にしている人たち "enablers"のせいでもあります。政治的には今の共和党です。

長く彼の弁護士・フィクサーであった Michael Cohen は「カルトにいた」といい、姪の Mary Trump は「(トランプは)一見チャーミング」と言っています。ナルシストの周りに人はどうして集まるのか、TVを通してだと理解し難いのでしょうか。

1960年代に人はどうしてどんなにひどい指示であっても権威者に従うのかをテストする心理実験がありました。「ミルグラム実験」、「アイヒマン実験」とも言います。

ちなみに、大統領は忙しい職なので、Trump自身はあまり何も知らずに、実は周りがやっているのでは、と疑問が湧きますが、Trump の姪 Mary によると、"he micro-manages everthing" ミクロレベルの細かい事すベて管理する、また彼の集中力はとても短く(多分ソースはWoodwardのRage)、Fox Newsを一日中見ている時間もあるので、多分全て自分決めているんだろうな、とすんなり理解できます。

Trump と Fox の関係に関してはこの本が詳しいらしいです。彼の確証バイアスをブーストするのが Fox ですね。Foxを見ながらやばいと思えば 印象操作を期待しWoodwardに電話するが、逆にどつぼに入り込んで行く必死なジャンキー Trump が目に浮かびます。

Understanding Now and Foreseeing Future (今を理解し未来を見据える)

私達

人々の行動の疑問を解明する(→お互い理解し合える)のも、毎年地球のどこかで起っている大規模火災を減らす努力も、宇宙人と将来出会えるかもしれないと言う夢も、全てサイエンスなしではできません。

私たちは今歴史の動きを目の当たりにしています。サイエンスの目できちんと見ていきましょう。

Everything is Relative (全ては相対的)

日本にいる私達

"Everything is relative." Einstein の言葉ですが、適用できるのは物理学だけではありません。比較すると物事がよく見えてきます。

上記はアメリカの民主主義の危機についての話でしたが、日本はどうでしょうか? 日本はそもそも民主主義の国でしょうか?以前からアジアの国々はソフト全体主義と言われていたようです。最近のこの論文のAbstract の全文は以下です。

This chapter reviews democracy and governance in Asia. Contrary to the hopes of political scientists, economic development has fostered too few democracies in Asia. Asia’s political landscape is deeply flawed with oligarchic democracies in Japan and Korea; pro-business soft dictatorships in Hong Kong, Malaysia and Singapore; Chinese client states in Cambodia and Laos; weak and fragile democracies in India, Indonesia, Philippines, Mongolia, Sri Lanka, Bangladesh and Nepal; military-dominated governments in Thailand, Pakistan and Myanmar; and staunchly authoritarian states in China, North Korea and Vietnam. It is argued that Asia will never have decent middle-class societies and innovative economies without democracy. President Trump has made it clear that promotion of democracy and human rights is not a priority of his administration.

oligarchic democracies in Japan : oligarchicを辞書で調べると「寡頭政治の」、oligarchic countries と検索すると"Russia, China, Saudi Arabia, Iran, Turkey, South Africa, North Korea, Venezuela..."。日本は「少数独裁的民主主義」と解釈すると日本の最近の政治のニュースがすんなり理解できます。

この論文の日本の章には杉本良夫の言葉として「日本の社会は友好的権威主義によって支えられている」とあります。

And Japan’s conformist and conservative society is sustained by what Yoshio Sugimoto calls a system of “friendly authoritarianism”.29 “Japanese society has various forms of regimentation that are designed to standardize the thought patterns and attitudes of the Japanese and make them toe the line in everyday life,” according to Sugimoto.

外からの視点・異なる視点での分析は大切です。ちなみに政治学は英語でpolitical scienceといいます。




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