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影絵の物語が灯す、場所と時間と人との関わり『YATOの縁日2020』|500年のcommonを考えるプロジェクト「YATO」

日常の営みに穏やかに寄り添い、まち・人・活動をつなぐアートプロジェクト。「東京アートポイント計画」では、アートプロジェクトの担い手となるNPOの育成や活動基盤を整えながら、東京の多様な魅力の創造・発信を目指し、2020年度は9事業を展開しています。そのなかの一つ、町田市忠生地域で活動を展開する「500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」(以下、YATO)の取り組みを担当プログラムオフィサーの視点からご紹介します。

プロジェクト名に込められた想いと問い

500年のcommonを考えるプロジェクト『YATO』」は、500年後にも続く人と人の関わりの在り方(=common)について、土地の物語や文化と出合い直し、それらの継承の視点も交えながら、これからの新しいcommonの仕組みを探っていくアートプロジェクト。「YATO」は、丘陵地が侵食されて形成された谷状の地形とその土地に根差す農業や生態系を含めて指す「谷戸」ということばが由来で、500年という時間軸はYATOの活動拠点がある簗田寺や忠生地域の歴史からきている。簗田寺は約500年毎に大きな節目を迎えながらも永続してきた寺院で、さらに土地の歴史を遡ると縄文時代の暮らしの跡が見つかっている場所でもある。

遥か昔から人々が集い、共に生活をし文化を育んできたこの場所で、私たちは、現在、そしてこれからどのような文化を育み、そのバトンをつないでいくことができるのか。その継承の仕組みをどのように生み出していけるのか。そんな問いを持ちながら、「YATO」では、アーティストや音楽家、環境や歴史などのさまざまな専門家や地域の団体とも連携し、こどもと大人が一緒に取り組める企画を考え実践してきた。そのなかでも、プロジェクトの軸となっているのが『YATOの縁日』だ。

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簗田寺のお堂の様子。忠生地域の歴史文化が詰まっている場所

こどもも大人も共に関わり合う『YATOの縁日』

『YATOの縁日』は、出店や竹細工を体験できる屋台、音楽の演奏や影絵芝居の上演など、こどもも大人も、地元の人も少し遠方からやって来た人も思い思いにのんびり過ごすことができる小さな里の夏祭りのような企画で、今年で3回目の開催を迎える。2018年は夏に、2019年には秋に開催してきた。

*各年の様子については、YATO公式ウェブサイトのレポート記事に詳しい。写真も充実していて当日の様子が伝わってくるレポートは、是非読んでもらいたい。

コロナ禍で話し合った『YATOの縁日』の意義

しかし、今年は、新型コロナウイルス感染症の拡大が続き、これまで培ってきたプロジェクトの運営方法が通用しなくなった。そんななか、YATOでは緊急事態宣言が発令された4月に、『YATOの縁日』のオンライン開催を決定した。とても早い決断だったと思う。

その決定を支えたのは、「YATOの縁日とは何か、何のためにやるのか」という根底的なプロジェクトそのものへの問いだった。『YATOの縁日』は、集客を目的としたイベントではなく、その企画自体を行うことに意義があるのではないか。つまり、どんな社会状況であっても、文化活動を行うこと。それが一人だったとしても、止めることなく取り組み続けていくという姿勢そのものが大事なのではないかということ。YATOメンバーで『YATOの縁日』の意義を確認し合い、では、どういう方法が可能か、どういうことが実現できるか企画を練っていった。

こどもたちと約100体の影絵人形を制作!「デリバリー影絵ワークショップ」の取り組み

『YATOの縁日』の一番の楽しみは、何と言っても「影絵芝居」の上演だ。影絵師・音楽家の川村亘平斎さんと初年度から取り組んできた企画で、毎年少しずつ新しい試みを重ねている。1年目は、地元の年長者に出演してもらい忠生の昔の風景や子供時代の遊びのことを語ってもらったり、2年目には、簗田寺の裏手にある「龍王ヶ池」の伝説をもとにした影絵芝居『YATOの龍王』を上演。出演する影絵人形は、ワークショップを通じてこどもたちと制作し、こどもたち自身にも出演してもらった。

YATOでは、記録・アーカイブも大事な軸のひとつ。「YATOの縁日」をはじめ、各企画ごとに写真や映像で活動記録を丁寧に残し発信している(映像撮影・編集:波田野州平)。

今年は集まってワークショップを行うことができないため、オンラインと郵便でのやりとりで影絵人形制作に取り組んだ。ワークショップキットを郵送し、オンライン相談会も実施。こどもたちは各々が想像する「龍」と自分自身の「アバター人形」を制作し、なんと約100体の影絵人形が完成!!

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2回目のオンライン相談会の様子(撮影:筆者)

オンライン相談会では、こどもたちから届いた「龍」の人形に光を当て、影絵としてどう見えるのかを川村さんがこどもたちに説明。画面越しにもわかるくらい、目をキラキラさせて見入っているこどもたちの姿が印象的だった。

土器の楽器が奏でる音|「しずむおと」ワークショップ

さらに今年は、新たに土器の楽器づくりワークショップ「しずむおと(土の楽器で演奏しよう)」がはじまった。YATOディレクターの齋藤紘良さんもメンバーのチルドレンミュージックバンドCOINNのメンバーと共に、こちらも遠隔でこどもたちと土器の楽器制作を行うというもの。9月19日には、「しずむおと 土器の楽器演奏会」を開催する。当日は、YouTubeやInstagramでのライブ配信を行うので、ぜひ、YATOの取り組みを見てもらいたい。この演奏会で奏でられた土器楽器の音は、今年の『YATOの縁日』の会場で流される予定だ。

9月22日の夜、オンラインで届ける『YATOの縁日2020』

今年は、9月22日(火・祝日)18:00〜オンライン配信にてYATOの縁日』を開催する。デリバリー影絵ワークショップ、しずむおとワークショップなど新たな試みに加え、さらに今年は、spoken words projectが衣装・会場装飾を手掛けている。影絵芝居の物語の世界を重層的に紡ぐ衣服の表現と光と闇の影絵の表現が、どのようなコラボレーションを生み出していくのかも今年の見所のひとつだ。

9月22日の夕暮れどきを想像する。だんだんと日暮れとともに、賑やかなバグパイプの音色が響き渡る簗田寺。幸町バグパイプCLUBのメンバーが頬をたっぷり膨らませながらバグパイプを吹いている。しばらく経って、今度はおまじないを唱えるような声がして、ふと真っ白なスクリーンに目をやると何やら影が映し出されていく。音と光と闇に包まれて、あっという間にそこは『YATOの縁日』だ。

今年はわいわいと隣り合って過ごすことはできないけれど、きっといつか、またそうやって過ごせる日がくるはず。そんな日を願いコロナ禍のなかで、工夫を凝らしながらつくりあげてきた新しい『YATOの縁日』のかたち。ぜひ、お見逃しなく!